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身の程

「お前の処遇は追って伝える……まぁ、エリシア様に危害を加えたのだ、死罪は免れぬだろうが……おとなしくしていることだな」


「……暴れようにも、こないな鉄格子用意されたら、どうしようもあらへんやないの……いじわるやねぇほんま」



アルゴンの町にある駐屯地にて、サヤはこれでもかと思うほど厳重な鉄の檻へと入れられ、アキハはそれだけでもう彼女には興味がなくなったといった風にその場から立ち去っていってしまった。


「……お前も、災難だな」


襲われたとはいえ、襲った相手がこの国のお姫様だったとは、俺も大概だがこいつの運のなさには近しいものを覚えてしまう。


「気ぃ使ってくれるんはアンさんだけやなぁほんま……おおきに」


「どうするんだ?死刑とか言われてるけど」


「リューキはん、そのセリフは助け出して何かに利用しようとするときに使うセリフやよ?」


にやりと口元の牙を見せ、サヤは笑い、俺はそれに両手をあげて降参のポーズをとる。


「そりゃ悪かった……次には気を付けるよ」


「残念……さっきの話、まじめに考えてくれたんかと思たのに」


「悪いが、俺も国を敵に回すのはごめんなんでな」




「そらそおね……まぁ、死んだら死んだでそれはもう仕方ないおもてるから……あんまり気にせんでええよ? そも、ごぶりんに捕まって殺されるぐらいやったらこっちのほうが万倍もましやしねぇ……ふふ、だからおおきにってお礼だけ言っておくわ」


カラカラと笑うサヤ、そんなサヤに俺は少しだけぞっとする。


どうして、これから殺されるってわかっているのに、こいつはこんなにも明るく笑えるのだろうか……。


「……ほら、うちのことはもうええから、ささっとあの姫さんのところ戻り……なんや疑われてるみたいやし、あのゴリラ女にめぇつけられても詰まらんやろ?」


「ご忠告どうも……そうさせてもらうよ。じゃあな」


「またね」


サヤにそう別れを告げ、俺はそのまま牢屋から出る……。


「なんだか浮かない顔ですね?」


ひらりと、エリシアのもとに戻る俺の服の中からミユキが現れ、そう問いかける。


「……浮かないというよりかは……なんで死刑だって言われてんのにあんなにカラカラ平気そうに笑ってんだろうなって思ってよ」


俺からしてみればこんな牢獄に入れられて【死罪は免れぬだろうが】なんて言われた日には泣きじゃくりながら命乞いをするだろうが、サヤはまるで当然のことのようにいたって冷静にそう言ってのけた。


この世界の住人が、いかに死と近しい場所で生活していることがうかがえる。


「……まぁ、死んでも生き返れますからね……死刑というのはリューキ様が想像するような死罪よりかは少しは軽いんですよ」


そんな俺の思考を呼んだのか、はたまた隣で聞いていただけなのに青ざめていた俺の表情を見て気を使ってくれたのか、ミユキはそっと俺に耳打ちをする。


「そうなのか?」


「ええ、前も言いましたけど、この世界には、生命と死をつかさどる神、クレイドルという主神がいまして、よほど衰弱してさえいなければ死んでも蘇生は可能なのですよ……まぁ、お金は結構取られますけど」


「そうなのか?」


「ええ、教会でならきちんと、僧侶の職業に就けば冒険者だって蘇生は使えます。なので、死というのはそこまで恐ろしいものではないのですよ」


「なるほどなぁ……ん?となると本当に重い罪を犯したやつってのはどんな刑に処されるんだ?」


「基本的には死のその先……消滅ですね」


「消滅……」


聞きなれない単語に、俺は首をかしげると、ミユキハさらに言葉を続ける。


「死が肉体の終わりならば、消滅は魂の終焉です。この世界では、肉体が終わりを迎えたとしても、魂が元気であるならば何度でもやり直せるようにできています。 ですが、魂だけは無理です。魂が消えてしまえば、当然その人の人生もそこで幕切れとなります」


「あーなるほどね……」


なんとなくわかった。


「ただし、魂とはそもそも目に見えるものではありません。魂だけをとらえて消滅させるという技術も、まだ確立はされていませんからね」


「じゃあ、意図的に消滅させるにはどうするんだ?」


「……アンデッド系のモンスターに殺害をさせて、アンデッド化してしまえば、魂は強制的に消失するといわれています。もしくは、魂が摩耗し消滅するまで、死と蘇生を繰り返す……とかですね」


ミユキの言葉に、俺は背筋が凍るかのような思いがした。


「……こわっ……あまりにもグロテスクすぎやしないか?」


「ええ、なので昨今では、人を消滅させるという極刑は、国一つ滅ぼしたとかそれぐらいしないと執行されません……。刑を執行する人もPTSDになっちゃいますからね」


当たり前だ……日本の死刑執行だって、だれが殺したのかわからないように三人で執行のボタンを押すっていうのに……それを何度も繰り返すだなんて……。


恐ろしさに俺はさらに顔を青ざめさせ、足早にアキハとエリシアの後を追う。

                    ◇


「だからではありません……あのもののためにも……」

          

「でも……彼は……あっ、リューキ」


アルゴンの町の駐屯地、エリシアたちが待つ待合室にはいると、何やら口論の真っ最中であり、同時に俺の顔を見たエリシアがびくりと肩を震わせた。


「……なに? 取り込み中?」


「……えと」


視線を泳がすエリシアに、俺は何やら嫌な予感を感じるが。


「……あぁ、いや。 構わない……座れ」


アキハは相変わらずの反応のまま、俺にソファに座るように命令をする。


「……はぁ」


いわれるがまま、俺はソファに腰を掛ける。


お茶が兵士より出されたが、それに手を付ける気には到底なれなかった。


「えっとね……」


エリシアがまず口を開き、この重苦しい空気の原因を話してくれようとするが。


「単刀直入に言う」


その言葉を遮るかのように、アキハは怒気をはらんだ声で俺に対してそう言葉を漏らし。


「お前には、これよりエリシア様との一切の関りを禁ずる」


そう命令を下した。


「……アキハ!?それは話が!」


「エリシア様は黙っていてください」


口論になってはいるが、どちらに主導権があるかは明白であり、俺は一瞬頭の中が真っ白になりながらも。


「え? なんで?」


なんて間の抜けた言葉を漏らすことしかできず。


「……なぜ? 聞くまでもないはずだろう。エリシア様はこの国の姫君だ、お前のようなどこの馬の骨ともわからぬ人間をそばに置かせるわけにはいかない」


「ちょっと、それは言い過ぎですよ!? リューキ様がいなかったらエリシアさんは今頃!」


「その点に関しては感謝をしている……この国の法にのっとり謝礼を出そう……だが、そこまでだ」

「……っだけどよ、ハート探しはどうすんだ?」


「我々が引き継ごう……王国騎士団が国を挙げてハート探しを支援する。貴様など必要ない」


「必要ないって……俺のスキルが……」


身を乗り出し、アキハに対して抗議をしようと口を開いた瞬間。


気が付けば、その喉元に刃の切っ先が突きつけられていた。




この狭い空間で、音ひとつ……動くそぶりすら見せずに抜刀し、俺の首元に剣を突きつけたその技術……。



俺はごくりと息をのみ、自分がなんと言おうとしたのかさえ忘れてしまう。


そんな俺の様子に、アキハはぎろりと再度瞳を光らせ。


「はっきり言おう、貴様は足手まといだ……エリシア様のことだ、お前に力がなくともお前がピンチになれば守ろうとするだろう……だが、貴様のその愚かな行為でエリシア様が危険にさらされるならば……お前がそれほどに愚かな人間であるならば……私はエリシア様のために、ここで貴様を処刑する」


「アキハ!?」


エリシアは声を大きくしてアキハの名前を呼ぶが、アキハは微動だにすることなく俺に選択を迫る。


だが、この状況がもはや答えだった。


今、刃を向けられているのは俺だというのに……俺自身ではこの状況を打開できない。

心のどこかで、エリシアがアキハを説得してくれるという状況を、期待してしまった。


アキハが言っていたのはそういうことだ。


親友に対してこれなのだ、もしこの状況が最悪な場合だったとして……エリシアは俺を見捨てるという決断を下せないだろう。


誰かの助けだけで生きてきた俺(ニート)が……一番そばにいてはいけない人間なのだ。



だからこそ。



「そうだな……アキハの言う通りだ……」


俺は何も言い返すことなく、その言葉を受け入れるしかなかった。


「……リューキ」


俺の言葉に、エリシアはなんとも言えない表情をする。


後悔か、それとも俺に対する失望か……その気持ちを理解することはできない。


「決まりだな……ここまでご苦労だった……新しい冒険を始めるといい……冒険者リューキよ。 さ、行きましょうエリシア様」


「……でも……」


「彼が自分で決めたことです」


「……そんな……アキハ……」


腕を引き、エリシアを連れて行ってしまうアキハ……待合室の扉が開き……やがて静寂が訪れるまで……俺は一度も、エリシアの顔を見ることはできなかった。


「いいんですか? リューキ様」


そんな俺の様子に、恐る恐るといった様子でミユキは俺に問うが。


「……いいわけ、ないけどさ」


震えそうになる手を自分で抑えて、俺はそう絞り出すのがやっとだった。


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