サヤの誘惑
「いたあぁい……ちょっとアンタ、大ざるの生まれ変わりなんやないの!? みてよこのコブ!? おはぎさんみたくなってるよ!」
その後、捕縛されたサヤはどこから用意したのか、騎士団たちが用意した木製の檻の中に入れられた。あれだけの勢いで放たれた石つぶてが後頭部を強打したというのに、コブで済んだのはやはり野生の血が混ざっているからか……きゃんきゃんと騒いでいる様から元気なことがうかがえる。
「……なるほど、事情はだいたい把握しました」
サヤの騒動により、ようやく落ち着いて話す時間が取れた俺たちは、帰り道、サヤを連行しながらアルスマグナ領アルゴンの町までの道を歩き、これまでのことを説明すると。
「エリシア様をだまし食い物にしようとした賊であることは分かりました……ならばアルゴンの町にて法による裁きにかけましょう……お任せください」
アキハは落ち着き払ってそう述べたのち。
「して、エリシア様を襲ったドラゴンについてなのですが」
困惑と疑念を籠めた声でそう呟く。
「……何かおかしなところでも?」
「いえ、もう一度確認するのですが……このリューキという男が現れる前に、エリシア様は守り龍に襲われたということでよろしいでしょうか?」
と聞き返す。
「そうだけど、どうして?」
「……おかしいですね」
「おかしいってどういうことよ」
「いえ、守り龍とは文字通りアルスマグナにすむ竜神族を守護する龍……竜神の血を引くもの、ましてやエルフの血が混ざっているとはいえ、王族であるエリシア様に牙をむくなど……考えられないのです……やはり、この男がドラゴンをたきつけたとしか」
「なんだその超絶理論!?エリシアが襲われてるところに落っこちてきただけだっつーの!?」
「そうよアキハ! リューキは助けてくれたの……それに、そんなことをしてリューキに何の得になるのよ?」
「むっ……も、申しわけありません……。その、どうにもしゃべり方や顔がうさん臭くて」
「あ、それは納得」
「エリシアさん!?」
納得されてしまい、俺は少しだけ心が傷ついた。
「……そういえば、ゴブリン族の斥候たちは、なんでドラゴンの死体を調べていたんですかねリューキ様?」
「……確かにな」
「そこ、何を話している!」
「いや、この辺りにゴブリンがいるのに何か心当たりはあるか? アキハ」
「なぜだ?」
「ゴブリンの領土からアルゴンを襲撃するなら、そもそもこの辺りをうろつく必要はないはずだ……あのあたりを斥候が歩く意味がない。 ここらの探索をしに来たって線も考えられるが、あいつらはドラゴンの死体を見つけたらまっすぐ自分たちの集落に戻っていった」
「そ、そうね確かに……まるで、そこにドラゴンの死体がある……もしくは」
「ドラゴンがすでに無力化されていることを知っていたかのよう……です」
「!?」
その言葉に、アキハはまさかといったような表情をする。
「どうしたの?」
「いえ、私がここに派遣された理由の一つに、ゴブリンとエルフが手を組んでアルスマグナを急襲しようとしているという情報を得たからでした。結局、守り龍を倒したのはエリシア様だったと思い、その噂はただのデマであったと安堵していたのですが」
「嘘から出た誠……ってことか?」
「エルフ族の大魔導士が集まれば、守り龍だとて魔法で操ることは可能なはず……ですが、そこまでの大それたことをすれば……戦争は免れません」
「蛮族、ゴブリン族を斥候に使い……自分たちは背後で暗躍する……エルフ族の爺たちがよくやりそうなことね」
エリシアは一人鼻を鳴らして憤りを表現しつつも、いたって冷静なまま胸のお守り入れに入れた魔王のハートをなでる。
「……なるほどね、そもそもエリシアが出会った守り龍は、エルフ族によってやられちまってたあとだったってのか……」
もし、あの場で倒していなかったら、あのドラゴン二体がアルスマグナの領土を襲撃していたのだろう。
そう思うと、俺はアルゴンの町の人々の顔を思い浮かべてぞっとする。
「……ゴブリンの襲撃を恐れ、いったんは退却という運びになりましたが……これはもう一度守り龍に何があったかを調査する必要がありそうですね」
「ええ、だけどゴブリンの集落も近くに構えられているはず」
「先ほどもご覧になったはずですエリシア様、われら兵団はゴブリン程度には遅れは取りません」
「……ですが、エルフ族がバックについているとなると、予想外の奇襲を受ける羽目になります。一度しかるべき装備を整えて再度守り龍の調査を再開するべきですよ」
すぐにでも引き返そうとするアキハに対し、珍しくミユキはそう否定をした。
「それでは、守り龍が死亡していることが、ゴブリン族に知られる可能性があるではないか」
「……ですが、ゴブリンたちはもう知っている様子でした。この場所に一直線に向かってきたということは、あのゴブリンたちは死因の調査にやってきたのかもしれません。 死因を調査されたとしても、関係のない第三者がやったこと、あなた方の手の内があらわになることはありません。今のところは不利益もないはずですよ」
「……むぅ……」
ミユキの言葉に、アキハは納得いかないといったような表情をするも。
「わかった……」
ミユキの巧みな話術にはやはり勝てないようで、渋々と了解をしアルゴンの町へ歩みを再開する。
しかし、俺は少しだけ疑問が残る。
「おい、ミユキ」
こそりと、俺はミユキに対して声をかける。
「はいはい、なんでしょうか?」
「たしかに、わざわざ死体を隠さなくても不利益はないだろうがよ、死体を隠さない理由もないだろう?情報は早いうちに消したほうがいい、それがブラフでもない限り、情報は一切与えないほうが、戦闘は有利に進められるはずだ……」
そんな質問に。
「ええ、確かにリューキ様のおっしゃる通りです」
ミユキはけろりとした表情で返答をした。
「じゃあなんで、わざわざ死体を放置するように説得なんてしたんだ?」
「斥候を排除してしまった以上、おそらく守り龍の死体が排除されたことを敵方も察するでしょう。 そうなれば急いで自らの魔法の証拠を消しに来るはず……そして、最初に来たときエリシア様は魔法の痕跡に気が付かなかった」
「……相手の魔法使いは、エリシアよりも各上の可能性が高い?」
「ええ、加えてこの場には、エリシア様を超える魔法使いは存在しません……」
「ここで鉢合わせるのはまずいってことか」
「どうせ我々ではわからないのです、隠滅をされるならさせたほうが得策でしょう……ここで鉢合わせになれば我々では対処ができないです……アルゴンで対策を練って考えましょう……」
「なるほどな……ゲーム攻略は慎重にってな」
「そういうことです」
「ふぅん……ほんと、リューキはんは賢いんやねぇ……ミユキはんも、どこかの軍師かなんかやったん?」
ふと、そんな会話をしていると檻の中からサヤが声をかけてくる。
「……盗み聞きとは趣味が悪いな、というかどんな地獄耳だ」
「くすくす、うちはあやかしやさかい……。狐は耳がいいんよ?」
「そうだったな、雪の下にいるネズミを捕まえるんだっけか。お前も冬になると雪の中に顔を突っ込むのか?」
「いややわぁ、リューキはん……そないなことしたらお耳さんがひんやりしもやけになってまうやないの」
くすくすと俺の冗談をいなすサヤ、その瞳は笑っていながらも……何か深淵を見透かそうとするような濁りがある。
「……何を企んでるんだ」
「企むだなんて……今はまだなんもしとらんよ」
ステータスを見てみても、その色は青色でありサヤは本心から言っていることがうかがえる。
少なくともからかってはいるが陥れようとはしていないということだ。
「……そうか、しかしお前も災難だったな。 エリシアをだましたことはまぁ許せないが、ゴブリンに捕まったと思ったら今度は騎士団だからな」
「……あら、リューキはん意外とやさしいんね……見た目はうちと同じ詐欺師の香りがするのに……」
「誰が詐欺師だ。俺はニートだ」
「ふふふっ……そうなん?」
妖艶に笑うサヤは、檻の中で少し足を崩してこちらに色気をだしながら一歩近づく。
「なんだよ、今更服の一枚や二枚脱いだからって助けねーぞ」
「リューキはんはそんなお人やないのは分かってますって……ただなぁ、うちは本心から、リューキはんのそばにいたいと思ってるんよ?」
「……殺そうとしたのにか?」
「うん、でもそれは商人やし。 商人は金の亡者、狐は化かしのぷろふぇっしょなる。ほら、行き着く先は【殺してでも奪い取る】やろ?」
「サイコパスかよお前」
「なにそれ? なんやいい響きやなさいこぱす。タコさんみたいや」
「はぁ」
「そう邪険にしないでよ……うちとリューキはん、気があうと思うんよ」
「どこがだ」
「だって、リューキはんからはお金のにおいがプンプンするもの」
「おれから?」
「ええ、魔王のハートなんかよりももーっとたぁくさん……お金さんが寄ってくるにおいがする……こんなおいしそうな男の人……初めて見たわ、だから好きよ? リューキはん」
「……厄介なやつに目をつけられちまったな……」
ちらりと、何となしにステータスを確認してみると。現在進行形でサヤのスキル。
【黄金嗅覚】が真っ赤に染まって点滅している。
どうやら俺から金のにおいがするというのは本当なのだろう。
正直うれしいのやら悲しいのやら。
「ね、ね!? あんな貧相な娘さっさとほっといて、うちと冒険者やらへん? あとでこそっと助け出してくれるだけでええから、そしたらふたりで」
瞬間、サヤの頭上の柵がぐにゃりと変形し、サヤの頭を思いっきりどつく。
「あぶふぅ!?」
「全部聞こえてるからねサヤ……誰が貧相かだれが!?」
相当思い切りどついたのだろう。
サヤは後頭部を抑えたまま悶絶するように声を漏らし……声にならない声で痛みを表現している。
「……まっ、考えといてやるよ」
俺は、そんなサヤの光景に少しだけ同情をしながらも……そこで話をいったん打ち切ったのであった。




