狐は二度捕まる
「人質がいたのか、私としたことが、エリシア様に気を取られ、とらわれた一般人をおろそかにするなど騎士の恥……」
「そうね、助けてあげてアキハ」
「はっ!」
その声を聴き、アキハは己を恥じる様にそういうと、慌ててゴブリンの死体の中に転がっている麻袋に手をかける。
その麻袋は相も変わらずもぞもぞと動いており、アキハは慎重に麻袋のひもをほどくと、ゴブリンにとらわれた哀れな冒険者を助け出す……。
が。
「リューキ様、今のしゃべり方って」
「あぁ、俺もそんな気がする」
なんとなく嫌な予感が俺の背中に走り、アキハを止めようかとも思ったが……それよりも早くアキハの手はたやすく麻袋の口を開く。
と。
「ぷはあ~……ほんに災難やったわぁ……どらごんさんの住処漁ってたらいきなり後ろからどつかれるんやもの……はぁ、しんど……ダンジョンもいかれなくなったし、ほんと災難続きやわぁ……あぁ、助けてもらっておおきに……なんかのみものある?」
開きたる麻袋、その中にあるは魅惑の黄金ではなく、黄金耳の狐娘。
先ほどまでゴブリンにとらわれていたとは到底思えないほど大きな態度で現れたのは、忘れもしない裏切り者の女狐娘、サヤであった。
まぁ、俺自体は別段裏切られたわけでもなく、恨みはそこそこにしかないのだが。
俺が危惧するのは……。
「ああああああああああああああ!?」
大声をあげ、さらには姫様とは思えないほどの大口を開けてサヤを指さすエリシア。
「あら……」
それを確認すると、きょとんとした表情でエリシアを見るサヤとアキハ……。
出会ってはいけない二人が、ここにきてどうやら出会ってしまったようで。
俺と美雪はそのとき、一瞬だけ時間が止まったような前後不覚な感覚にさいなまれる。
ついでに頭痛もだ。
「……えと、エリシア様」
しばしの沈黙の後、口を魚のようにパクパクとするエリシアに対して、アキハは疑問符を浮かべてそう問いかけ、ようやくエリシアも考えがまとまったのか、杖を取り出し臨戦態勢をとる。
「あ、あ、あんた!? よくものこのこと顔を出せたわね!?」
「いやいや、出したくて出したわけやないんやけど……なんやろなぁ、うちら不思議な糸で結ばれてるんやろか?」
「ふ、ふ、ふざけんじゃないわよ!?あの時の借り、みっちりきっちりかっちりここで返させてもらうんだから!!」
「……こんなことなら、ごぶりんさんに連れてってもろたほうが楽な死に方できたやもしれんねぇ……」
状況が読めず、困惑した表情を見せるアキハ、それにお構いなしといった表情で突進をするエリシア。
「ジャイアント!!」
唱えるはおそらくジャイアントグラップ。 密入国もなんのその、森の中では関係ないといわんばかりに、最大火力でかよわく小柄な少女を容赦なく握りつぶそうとしている。
念のためだから一応再確認で言っておくが、こんなでもこの国のプリンセスである。
だが。
「なんてねぇ……化かす逃げるは狐の十八番……」
こんっと小さくサヤは声をあげると、狐火が上がる。
「むっ!?」
その炎はアキハへと襲い掛かり、アキハは思わず手で顔を隠すが。
「……しまった、幻覚」
炎はアキハを包み込むも、熱があるわけでもなく手で払うとあっという間に霧散する。
しかし、手を逃れたサヤはにやりと口元を緩めると。
「忘れてもうたみたいやからもう一度いうね? うち、逃げ足だけははやいんよ」
またもや脱狐のごとき速力で走り出し、森の中を逃げていく。
「あぁっ!?またっ!こうなったらこの森全部握りつぶして!」
「いや、少し落ち着きませんかエリシアさん!!」
エリシアはその素早さに怒り狂いながら、めちゃくちゃな魔法を放とうと声を荒げるが……。
「お任せを、エリシア様」
ようやく事態を飲み込めたのか、アキハは近くに落ちていた石ころを拾い上げると。
【スキル・絶対的中の発動を感知しました】
里中の声が脳裏に響き、同時にアキハは綺麗なフォームを取ると、森の中にその石ころを投擲する。
と。
「きゃん!?」
しばらくして森の奥から、かわいらしい悲鳴があがったのであった。
◇




