アキハ・イガキンデ
「……して、エリシア様……この者はいったい何なのです?」
組み伏せられた状態から解放された俺であったが、とらえていた女騎士は依然疑念の目を向けながらエリシアへと問いかけると。
「紹介するわね、彼はリューキ、転生者で職業はナイトなの……襲われているところを助けてもらって、それからずっと行動を共にしているわ。謙虚でそれでいて勇敢で、とっても素敵な人よ?」
褒めすぎである。
「転生者……疑わしい奴だ……そもそも転生者とは、この世界の文化レベルを一段階上昇させる、もしくは世界の構造の一部を変革させるほどの力を有する存在です……騎士というのも納得がいきません……この白い肌に細い腕に足、どう考えても日がな一日家の中で本を読んでいるような隠者としか思えない、いや、隠者のように書を読みふけるようならば重い本を持つ故ある程度腕が引き締まっているでしょう、ですがこの男はどうです!?まるで、スライムの体表のようにたるんでいる……絶対に騎士なわけがありません!? エリシア様、あなたはこの男にだまされています! おそらくはエリシア様の玉体に欲情し劣情を満たすための道具としか思っていない種類の人間です! 例えるならば、アルスマグナの黄金劇場の演目が変わるごとに、主役の女性への恋心を抱くオタクヌスと呼ばれる部類の観客に等しい!」
いいすぎである。
が、おおよそ当たっているところが悔しい。
「ちょっと!いきなり出てきてリューキ様の悪口とはけしからんです!確かにリューキ様はちょっとエッチですが!ヘタレなので、劣情をぶつけられるはずもありませんよ!失礼な!」
「お前のほうが失礼だよ美雪!ガラガラと自信が崩れていく音がしたよ!?」
「……妖精族!?妖精族の捕縛や飼育は禁止されている!? この男、密猟者か!」
「どうしてそうなるんですか!?っていうか飼育は禁止って何ですか!!私たちはれっきとした人間ですよ!そんなこと禁止されてもよけーなお世話ってもんですよ!あ、あとリューキ様が密猟者なわけないでしょう!言いがかりもよしてください!」
「俺の弁護のほうがついでなのね……まぁいいんだけど」
険悪な空気があたりに走りはじめ、俺は少し冷や汗を垂らす。
特に美雪のやつはなぜかこの鎧の女騎士に敵意むき出しである。
と。
「アキハ! しつこいわよ!?」
「しかし!?」
エリシアの鶴の一声により、その場に漂っていた空気が和らぐ。
「助けてもらったのは事実よ……それとも、アルスマグナ王家は人から受けた恩を軽視するようになったのかしら?」
「まさか!?」
「なら、挨拶して!」
「むっ……か、畏まりました」
さすがはエリシア……。 なんだかプリンセスとナイト……というよりもお姉ちゃんと妹みたいなやり取りではあったが、あの堅物そうな女騎士が渋々とこちらへと向き直り、口をなんだか数度もごもごさせたのち、心底不機嫌そうな表情で俺に自己紹介をした。
「私の名前は、アキハ・イガキンデ。このアルスマグナ王国に使える騎士。そして私たちの部下、アルスマグナ騎士団第一部隊の兵士たちだ」
「俺はリューキ……ニートだ。よろしくな」
「よろしくするつもりはない……」
気が強そうな釣り目は、言葉自体は普通だが、あからさまに敵視しているような感じであり、ステータスを見ても真っ赤に染まっている。
レベルも6とかなりの実力者であるようで、俺は依然としてまとまらない頭で現在の状況を必死に整理しようと試みる。
通常であれば、敵意むき出し、ぶっきらぼうなあいさつに怒るべきところなのかもしれない。
だがしかし、ここまでいくつも新情報を並べ立てられると整理もくそもあったものではなく、混乱した頭では怒ることなど二の次になってしまう。。
そもそも、さっきまで一緒にいた少女が、お姫様だなんて……一体何を言ってるんだとしか言いようがなく、通常であればエリシアの頭を疑うのだが、実際にエリシアに頭を垂れるアルスマグナ騎士団を見せられては、疑いようもなく俺は混乱をするばかりである。
「……あー、そうよね……混乱するわよね」
困惑し頭がふらふらし始めた俺に、エリシアはばつが悪そうにそう呟き、コホンと咳払いをする。
「混乱どころの騒ぎじゃねーよ、今にでも頭がパーンしそうだ」
「できればそれはしない方向でお願いするわ」
「というか、なんでエルフ族のお前が、アルスマグナのお姫さまなんだよ」
「……それは」
「エリシア様は、エルフ族の女王とアルスマグナ国王の間に生まれたからだ」
「……国をまたいでの結婚?政略結婚というやつですか?」
「さすが、美雪は察しがいいわね」
「そうだ、エリシア様は長きにわたるエルフ族と龍神族の部族戦争を止めるため、両国の王が婚姻を結ぶことで和平を結んだのだ」
「その間に生まれたのがエリシアと」
「そういうことだ」
「だけどなんでそしたら、エリシアはエルフ領からこっちにわたってきたんだ?しかも内緒で」
「それは……」
「平和は長く続かなかったんですリューキ様……当時のエルフ族の王女を失ったエルフ領は、新たな統治者を立てたのですが……そのものは戦争を再開させようとした」
「それを止めるため、お母さんはエルフ領に戻った……そして……」
続きを放そうとしたエリシアの肩に、アキハは手を乗せて言葉を止める。
当然、俺もその様子にうなずいて続きは必要ないと告げた。
「……なるほど……だがどうしてエリシアまで?」
「人質としてだ……アルスマグナ王は、人質としてエリシア様を差し出し、今の仮初の和平を結んだのだ……」
「それはおかしいだろ? あっちが戦争したいのに……人質を送るなんて」
「あちらの要求だったのだ……エリシア様を渡せば、戦争はしないとな」
「なんて自分勝手な」
思わず俺はそんな怒りが口をついて出てしまう。
しかし、エリシアはその言葉を否定するように首を左右に振り。
「だけど、お父様の英断のおかげで……今も平和にやってるのよ」
そんな言葉を漏らす。
「よくぞ御無事でした……」
「ええ、なんとかね」
「あー……まぁなんとなく事情は察したわ……」
「ごめんなさい、隠すつもりじゃ」
「いいや、隠してくれてて正解だ。 はっきり言って転生してすぐの頭でその情報を伝えられてたら、パンクしてた」
「……そう」
「貴様! なれなれしくエリシア様に!」
間に割って入るアキハ、その形相は般若のようで、体に触れようものなら全身を真っ二つに両断されてしまいそうだ。
おぉ怖い。
「そうかっかしないで下さいよアキハさん8
「妖精か……これが落ち着いていられるか!? エリシア様をゴブリンの攻め込んできているこんな危険な場所まで連れてきて……牢獄につないで、いやむしろこの場で処刑を」
「アキハ!」
なにやら物騒な言葉をつぶやいたアキハであったが、エリシアの言葉にたしなめられ、先ほどまでの般若のような表情が、子犬のように崩れる。
どうにも、これからどうなるのか不安な出会いだ。
と、そんな一抹の不安を抱えながら、新しい登場人物や新情報に相変わらず混乱した頭を落ち着かせることに神経を集中していると。
【お~い……だれかぁ、助けてーなー】
そんなかわいらしくも悲痛な叫びが、すっかりと存在を忘れてしまっていた、人の入った麻袋から聞こえてくるのであった。




