竜殺しの責任
ボッチは仲間を呼んだ。 だが、誰も来なかった。
「ちょっ!? 何を!」
「いいから! ゴブリンだとしたら大変なの!」
エリシアの形相は必至そのものであり、俺はその気迫に負けて、そのまま身を隠すことにする。
【……—―――! 】
子供のじゃれ合うような甲高い声と、しゃがれた老婆の声をミックスしたようなそんな音が森に響き渡り、同時にあたり一面に獣と血のような匂いが充満する。
「うえ……ひどい匂いだ」
「ゴブリンね……間違いないわこの匂い」
おえ、とエリシアは茂みの中でそう漏らす。
やがて、森の奥からゴブリンたちがその姿を見せた。
赤色の肌や緑色の肌……手には棍棒やボロボロの斧や剣を持ち、人の真似事をするかのようにイノシシの毛皮を肩からかけている。
人の子供のような体系ではあるがその鼻は長く、顔の表面は吹き出物があちこちにできている。
捕まっている人間は茂みの奥にいるのか、なにやらもがくようにもぞもぞとうごいている。
横たわった状態なので……袋の中にでも入れられているのだろうか? ステータスが見えない。
しかしまあ、遠目から見ても分かるほど雑な捉え方だ。
「あれには捕まりたくねぇなぁ」
ぼそりと俺はつぶやき、少し大ぶりなゴブリンのステータスをちらりと見てみると。
ホブゴブリン LV2
筋力 10 体力 7 知識 4 敏捷 4 信仰 1 運 2
保有スキル なかまを呼ぶ/ゴブリンの笛/突撃/火薬と火花/道具作成E/残虐性B/群れの統率/楽観主義
確かに、人間の平均に比べると体力や筋力は高く見えるが……ドラゴンやハイアンデッドたちを見た後であるとなんだか物足りなくも感じる。
「あの程度の魔物……ドラゴンやハイアンデッドに比べたら大したこと……」
「馬鹿リューキ!? 言ったでしょう? 魔物はレベルよりもスキルが重要視されるって……あいつらは本当にありんこみたいにあちらこちらから湧いて出てくるのよ!? 一匹見かけたらあたりに百匹はいるってことなんだから……仲間なんて呼ばれた日には生きては帰れないっての」
……なるほど、個だけでも強いし、軍としても強いということか……ゴブリンという種族はなかなかに侮れないらしい。
【――! ――!】
ドラゴンの死体を確認しに来たのか、ゴブリンたちは何やら興味深そうにその死体の調査を開始する。
ぐちゃり……ぐちゃり
といっても、本当に死体の調査をしているのか怪しくなる光景だ。
手に取った棍棒で、ドラゴンの頭を殴りつけるところから始まり、四肢切断、翼を斧でずたずたに切り裂くなど、死体や死因の調査ではなく……まるでドラゴンの死体を痛めつけて遊んでいるようにしか見えない。
「なにあれ」
「……ゴブリンは暴力的で、残虐性の高い種族なのよ……特にドラゴンなんて基本的には自分たちが返り討ちに会ってしまうような大物だから、ああして死んでることを確かめながら自分たちの欲求を満たしてるんでしょ?」
……ずいぶんとまぁ……。
俺は反応に困りながらも、その様子を見続けていると。
「まてよ? ということは捕まった奴って」
「お察しの通り……このままだと、集落に連れてかれて、それこそひどい目にあうわ」
ぞわりと、淡々と語るエリシアの言葉に俺の背筋に悪寒が走る。
生きている人間相手でも……あいつらはあんなことをするのか……。
「……助けないと」
「そうね……ゴブリンを倒すには一度に全員を倒すぐらいの勢いじゃないと……あちこちにいる群れに集団で襲い掛かられて終わりよ……」
「むむっ……となると」
「一度に全員をまとめて一瞬で倒すしかない」
「わお、言葉にすると驚くほど簡単だな」
「……ですが、エリシアさんの魔法であればそう難しいことでも」
「そうね……ただ、助け出す人間がいなければの話だけど」
「……フレンドリーファイアか」
「ええ、私の魔法は強力すぎる……ジャイアントグラップも、ゴッドハンドも……間違いなく捕まってる人も巻き込むわ……かといって、覚えてる通常魔法じゃ、全員はまとめて殺しきれない、あいつらは虫の息でもあれば仲間を呼べる」
「それはいけないな……助けるつもりが殺しちゃいましたじゃ話にならない」
「でしょ?」
「むぅ……スキルグラップの難点は、弱い敵が相手だとスキルグラップの意味がないことだな」
「そうですね……リューキ様、仲間を呼んでもボッチですもんね」
「……やめろ、その言葉は俺に効く」
なんてこった、戦闘前から俺の精神は致死量のダメージを負ってしまった。
「何ふざけたこと言ってんのよリューキ……それで、どうするの?」
「とりあえず、ゴブリンの注意が哀れな被害者からそれた時を狙うしかないだろう……追跡も尾行もやったことないから、自信はないけど」
「……まぁ、エルフだからスカウトのスキルは持ってるわ……。狩りは得意だったから
しばらくは私が追跡するわ……アンタは気付かれない安全圏から私を追ってきて」
「了解……」
エリシアは本当に頼りになるなぁ……。なんて俺は情けない感想を漏らすと。
「ゴブリンが移動するみたいね」
エリシアの言葉に、ゴブリンたちの方を見やると、確かにドラゴンをいたぶるのに満足をしたのか、またもやきぃきぃと騒ぎ合いながら、森の中へと消えていく姿が映し出される。
「……本拠地に戻るみたいね……里からここまで来たってことはありえないから、きっと野営地みたいな場所があるはずよ……そこを見つけて……叩きましょう」
「深追いをして大丈夫なのか?」
「嘘から出た誠だけど……ゴブリンたちがこの場所にいることは立派な不法入国……しかも、国境守りのドラゴンが死んでしまった……そんな情報がばれたらどうなると思うの?」
……力で押さえつけていた略奪集団……その脅威が消えたことを、彼等は知ってしまった。
つまり。
「まさか、ギルドマスターが言ってた通り」
「戦争よ」
エリシアの言葉に俺は息をのむ。
戦争が絶対悪と教わってきた俺たちの世代。当然その言葉すべてを鵜呑みにするほど素直な性格ではないことを自負してきた俺であったが……やはり戦争という言葉には嫌悪感を覚える。 正しいとも完全なる悪だとも言わないが、それでも平和に越したことはないのだから。
「……:どうするんだよ? 内緒にしててってお願いして聞いてくれるタイプではなさそうだぞ?」
「様子を見るしかないわ……最悪人質を見捨てて……王国の騎士団に助力を請う様にギルドに申請するしかないわ」
「嘘から出た誠……責任は取らなきゃな」
随分と面倒くさいことになりはしたが、まぁそれでもやれることをやるだけだ。
【ボッチ】一人ぼっちの略称。 孤独なさま。




