到来のゴブリン
ピカピカ プンプン ピカピカプンプンプン
テルモピュリーの国境線へと続く道は昨日と変わらず穏やかであり、俺たちは速足に直線距離でドラゴンの元へと向かう。
「さっさと証拠隠滅して、油売ってる冒険者を探しましょう?」
「そうですね、この辺りに魔物はいないはずですし、危険な目には合っていないはずなのですが……」
ミユキの言葉に、俺はふと先ほどのギルドマスターの言葉を思い出す。
「そういえば、ゴブリン族がどうとかって言ってたが……そんなに騒ぐほどのことなのか?」
「そうね、ゴブリン族は、国ではないけどれっきとした集落を持った部族よ。 テルモとアルスマグナの間のほんの小さな領土で生活をしてる……。 力が強くて手先が器用なんだけど……その力を暴力と略奪に使うのが大好きなの」
「盗賊みたいなやつらってことか」
「そうね。 一応、同盟を結んで領地内だけでそう言うことはするようにって話にはなってるんだけど、やっぱり約束を守る様な種族じゃないのよ」
「そもそも、ゴブリンとなると、結んだ約束事を正確に理解しているかどうかも怪しいです」
ミユキのため息に、賛同するようにエリシアが首を縦に振る。
「……なるほどね。 なんだか、乱暴者だけど脅威になるようには思えないんだが」
「それがそうもいかなくてね」
「そうなのか?」
「ええ、ゴブリンは総じて、みんな強いのよ」
「強い?」
「体の構造が魔物に近いので、人間よりも卓越した筋肉と、武器の扱いに長けています。 さらには中途半端に発達した知能のおかげで武器を扱える」
「人間は猛獣と相対する為に武器という叡智を手に入れた。 だったら、猛獣が武器を手に入れたらどうなるかしら?」
エリシアの言葉に、俺は納得してしまう。
少し頭の悪い人間……ではなく、知性を得た魔物に近い存在……それがどれだけの脅威になるかは想像に難くない。
「……しかも、魔物に近いだけあってちゃっかりあいつら進化するのよ」
「進化?」
モンスター育成ゲームでよく聞いた単語に俺はエリシアの方に向き直る。
「……そう、ゴブリン、ホブゴブリン、グレーターゴブリンって言った感じにね。 レベルが上がるにつれてあいつらは体の大きさや見た目が大きく変わってくる。 魔物認定してしまえばいいのだけど、正しい知識と進化をしたゴブリンはゴブリンセイジやゴブリンメイジって言った高度な魔法を扱う存在になるのよ……」
「魔法はともかく、賢者や僧侶が使える回復・蘇生の魔法……神聖魔法は神が人と認めた存在にしか授けませんから……学会ではゴブリンを魔物認定するわけにはいかないのです」
「たとえそれが、毎年略奪を繰り返し、条約も理解できないような無法者だったとしてもね」
悪態をつくようなエリシアの言葉に、俺は一人納得をする。この世界も色々と大変なようだ。
「……と、見えてきたわね」
そんなことを話していると、なにやら見慣れた盛り土のような土が盛り上がった場所が現れ、エリシアはその前で一人立ち止まる。
そこにあったのは変わらずに眠る二匹のドラゴン。
俺がみるかぎりでは、俺たちがこの場所を立った後と変わらない様子であり。
「エリシア、誰かが来たかはわかるか?」
「ちょっとまって」
エリシアは森に生きるものだからか、耳や鼻をひくつかせたのち、あたりの地面を見やると……。
「……人が一人……沈み具合から防具を身にまとった人間ね……足跡がある」
そう結論を出す。
「だとすると、それがギルドマスターの奴が言っていた第一発見者だな」
「そうみたい……」
「では、このドラゴンさんを探しに来た冒険者さんは?」
「うーん、それは見当たらないわね……」
「妙だな」
誰にもこのドラゴンの死因を調べられていないというのは俺達にとっては好都合だが。
先に来た冒険者は一体どこへと向かったのだろうか。
場所が分からなかったとはいえ、ここはテルモとアルスマグナの国境線沿いであり、村からは一番近しい場所となっている。
当然、竜の世話をしていた人間が通っていたためか獣道も存在しており、俺でさえも道に迷わずにここまでは到着できるだろう。
「ともすると、先に行った冒険者はどこに行ったんだ?」
俺は疑問符を浮かべながら、ミユキの推測を聞こうと首を向けるが。
「……こればかりはなんとも言えないですね」
ミユキもミユキで首を傾げる。
この一直線真っ直ぐの道で迷うとは考えづらい……そこらで油を売っていたり、竜の住処にロマンを求めに言ったのならばそれはそれで好都合である。
「まぁいいや……せっかく来たんだし、この前取り切れなかったドラゴンの素材を集めよう」
「そうね、この前は急いでたから十分に素材をはぎ取れなかったからね」
そういうとエリシアは、俺の腰に刺さっているガッツの剣を抜き取り、慣れた手つきで竜の翼の鱗や、喉笛のあたりの鱗を削っていく。
「昨日はそこそこ涼しかったから、まだ痛んでないわね。 いい感じに土が血を吸ってくれたおかげで……よいしょっと」
鱗を削ると、エリシアは首に刃を通し、綺麗に開いていき。
中から一つ大きな袋のようなものを取り出す。
「それは?」
「火炎袋よ。 龍は食べた物を、燃料と栄養に分けるのよ。 油分の多いものはこの袋の中、そのほかの固形物は胃袋にって形でね。 それもって、この中で延々と炎を滾らせて、体温調節や、ブレスを放つの」
「ははぁ……竜ってどうやって炎を吐くのか気になってたけど、そうなってるのか」
「そうね……高温のガスがこの袋に充満していてんだけど、酸素がないから起爆ができないでいる……それを体外に噴射することで、酸素と反応をして発火、爆発を起こすの」
「バックドラフト現象を利用してるのか……」
魔法的な何かと思ったが、れっきとした化学現象だ。
「……しかし、その話だと口を開いたと同時にドラゴンの体内もまる焦げになっちゃうんじゃないか?」
特に呼吸をして、酸素を体内に送るだけでも毎度毎度爆発してしまいそうだ。
しかし、エリシアはそんな俺の発言に肩をすくめると。
「何のためにこんなきったない臓器を取り出したと思ってんのよ……この竜の火炎袋は、世界最高峰の炎熱防御力を誇る。鋼鉄をも溶かす熱線を、容易に耐えるのよ」
「なるほど、荷物袋にしてもよし、防具にしてもよしってことか」
「そういう事、かの竜の太陽の頂点、リュー・サンは言いました。 ドラゴンは空飛ぶ宝石箱だと」
「宝石箱ねぇ」
「莫大な富と共に地位も名誉も欲しいままですからね……今回はちょっと、名誉には出来ないところが寂しい所ですけど」
「まぁ仕方ないわね。 私達にとってこれからは、知名度は足かせになるだけだもの」
これからなんど不法入国を繰り返すことになるのやら……。
そんなことを思いながら、俺はふと背後を見やる。
と。
「ん?」
森の奥で、俺のステータスのスキルが反応をする。
珍しくも、最初から敵対状態で森の中からこちらへと向かってくる存在。
その大きさは人にしては小柄だ。それも一人や二人ではなく、住人程度の集団でこちらに向ってくる。
更には。
「なぁミユキ」
「はいはい?」
「確かステータスは、青色は友好的、黄色、赤色は敵対だったが……紫色に光ってるのはなんだ?」
「あぁ、それは救援要請ですね。 助けを求めている人は紫色に光るようにしておきました」
「おぉ、そうか……」
「探してた冒険者を見つけたんですか?」
「あら、それじゃあこのドラゴンを片付けてから、ミッションをコンプリートしちゃいましょうか」
「まぁ、それだけならよかったんだけど……どうにも敵襲らしい」
「相手は? まさかサヤ?」
「……いや、小柄だな……まるで子供みたいだ。 捕まってるみたいだが、この辺りには幼児の盗賊団でもいるのか?」
「幼児……まさか……ゴブリン!?」
エリシアはそうつぶやくと同時に、慌てた様子で俺たちを引っ張り、茂みに隠す。
【飛翔する竜の太陽】通称ジャンピングリューサン。 三人のリューサン伝説に登場する竜騎士。
賢いリュー・サンと強いリュー・サン・そしてすばやいリューサンがいる。




