共犯の女神
ばれなきゃ犯罪じゃないんですよ
どうやらエリシアもあのドラゴンの話であることを理解したらしく、プルプルとした表情で瞳に涙を浮かべながら。
(どうしよう?)
と懇願するように問いかけてくるため、慌ててエリシアの手を引き、店の隅へと走り密談を開始する。
「どうしよう!? どうしようリューキさん!? わ、わた! とんでもないことしちゃったんですけど! 大騒ぎになってるんですけど!?」
慌てふためくエリシアはバタバタと落ち着きなく暴れてわかりやすく困惑をしている。
「……落ち着けエリシア……なんか口調が変だぞ」
「落ち着いてなんていられないんですけど!? どうしようリューキ! もし、もし私たちがやったってばれたら……」
「アルスマグナ刑法43条……国境を脅かすものは、回復魔法をかけながら皮を三日剥ぎ続けそののち消滅……だそうです」
随分とえぐい刑だなおい……そういうところは中世のままなのか。
「いいいやあああああああ!?」
エリシアはギルドの前で悲鳴を上げながら、頭を押さえてヘッドパンキングに似た奇怪な行動をとる。
「……落ち着けエリシア……とりあえずどうして冒険者たちが帰ってこないかは不明だが、
これはチャンスだ」
「チャンスって何よ!?」
「まだ俺たちが犯人だってことにつながる証拠は出てきてない……だから今なら」
「いまなら?」
「証拠隠滅ができる」
「うわっ、リューキ様どや顔で最低なこと言ってます!?」
「うるせー!? ばれなきゃ犯罪じゃねーし! なによりドラゴンの素材をもっとゆっくりと回収できるだろ!? ギルドの依頼を受けたって形にすれば、簡単に国境付近に近づけるし……」
「なんというマッチポンプですか!?」
「俺達で巻いた種だ……報酬はもらわない。 結局竜は見つからないからな……何かに理由をつけて報酬はもらわない様にすればいい」
「そういう問題なんですか!?」
「リューキの言うとおりね……殺しちゃったものはしょうがないもの」
「え、エリシアさんまで何を言い出してるんですか!?」
「ううん、これは証拠隠滅じゃないわ……ただお墓を作ってあげるだけだもの! ちょっと地中深く700メートルぐらいまでは沈めるけど」
「お墓の深さじゃないですよそれ!? 明らかにダンジョンよりも地下深くに葬ってるじゃないですか!」
「エルフ族には、地中深くに埋葬すればするだけ輪廻転生が早くなるという教えが」
「あるわけねーだろ! です!」
「じゃあどうするよミユキ? このまま消滅しろってか?」
「……うぐっ……それは」
「私たちのせいで行方不明になっている冒険者がいるのよ? 少なくとも、彼等は助け出さないと!」
「あうぅ」
「お気の毒ですが、リューキの冒険の書は……」
「あああーー!分かりましたわかりましたよ!? 片棒を担げばいいんですね! 言っておきますけど私これでも一応神様なんですよ! 神様なんですよ! 神は見てるんですよ!」
「神が共犯なら怖いものないな」
「そうね、神様の思し召しなら仕方ないわね」
「うわーーん!! 天罰下ったって知らないんですから!」
可愛らしく嘆くミユキを、頭に乗せ、俺は再度冒険者ギルドへと入場する。
「お前ら、一体何を話してたんだ?」
「なに、英雄的な行動の前には相談は欠かせない……それだけだ」
「英雄的って……お前」
剃髪の男は俺のことを止めようと手を伸ばすが、俺はその手をすり抜け、くすぶるように周りを取り囲んでいる冒険者たちを押しのけ、依然喉が張り裂けそうになっている男の元へと歩いていく。
「話は聞かせてもらった」
俺達が巻いた種ではあるが、一応不可抗力的な部分も往々にあったし、下手におどおどしてても怪しまれるため、できるだけ余裕をもって男に話しかける。
「君は?」
「今は、俺の名前よりも、この依頼を受ける利点を俺に話す方が重要なんじゃないか?」
「あ、あぁ、もしかして君は、この依頼を、冒険者の捜索を受けてくれるのかい!?」
「それは内容次第だ……だが、アンタの叫びを聞く限り受けてもいいと思えている」
「あぁ素晴らしい! 竜英傑ボーゼットよ!? 知恵と勇気の使途を授けてくれたことを感謝します! ギルドマスター エルドーがあなた方に感謝の意を……」
物事はシンプルに。 変に言葉を交わしてぼろを出すのはごめんであるため、俺は出来るだけ怪しまれないように話を続ける。
周りでくすぶっていた冒険者たちは、命知らずがいた者だと嘲笑の笑いを浮かべているが、耳に入らない。怨嗟と糾弾の声に比べればなんと平和なことか。
「感謝はいいわ、それで私たちは何をすればいいのかしら?」
「できればシンプルでお願いします……えぇ、すぐに終わるならなおいいです」
ミユキは諦めモードだ。
「そうでした!? 依頼自体は簡単です、先に向った冒険者たちの安否の確認、もし怪我をして動けないようであるならば救助……もし何らかの理由で死んでいるのであれば、その死因の調査を行ってください……同時に、余力があればドラゴンの死体の調査を……死因や損傷の程、殺害方法や、使用された魔法などが分かれば、それに応じて報酬を……」
「おい、ギルドマスター……せっかくこの嬢ちゃんとあんちゃんがやる気になってるところ腰を追ってわりいが、エルフとゴブリンの連合軍と戦争になる可能性を伝えないのはフェアじゃねえぞ?」
不意に野次馬に徹していた冒険者の一人が見かねたとばかりに声を上げる。
先ほど話しかけた剃髪の冒険者だ。
意外といいやつの様である。
「……い、いえその……話さないつもりはなかったのですが」
このマスター……あわよくば何も話さないまま俺たちを向かわせようとしたな……。
見た目はおどおどして気弱そうだがなかなか悪知恵の働く男のようだ。
まぁ、今回は犯人が俺達なのでそんな心配事は無問題なのだが。
「……構わない。 だがゴブリンたちとの戦闘になりそうになったら俺たちは逃走するが構わないな?」
「そ、それは構いません!? 戦争行為は互いの国の益にはなりません!? アルスマグナ王国の騎士団の到着を待つべきです!」
「じゃあ決まりだ、俺たちのやるべきことは二つ、竜の死体のいんめ……調査と、行方不明になった冒険者の捜索」
「ええ」
「冒険者の特徴は?」
「すみません、あの時は急で、私が不在だったため特徴等は……」
「まぁそうよね。 いちいち依頼を受けた冒険者の名前なんて……特に出入りの激しいアルゴンではそうそう名前と顔が一致するなんて稀な話よ」
「一人は、やけに派手な服を着ていたため覚えていたのですが……」
「派手な服ね、それなら森の中でも目立つから探しやすいかも」
「早めに終わりそうで助かります……」
ミユキとエリシアはそう安堵のため息を漏らすと、ギルドマスターが持っていた依頼の髪を受け取り眺める。
「死体になってた場合、蘇生はどうするの?」
「まずはギルドが建て替え、その後回収という形です。 損傷が激しくなければ、ギルドの方で回収しますが……持ち帰っていただければその分は追加報酬にします」
「了解……探索時間だけど、リミットは何時間?」
淡々と話を進めるエリシアは、一度話に区切りがつくと契約書を丸めて自分のポーチに差し込む。
「明確に時間を決めているわけではないのですが、危険性も考慮して一日探して何も見つからなければ戻ってきてください……戻ってこない場合は、再度探索部隊を編成するか、王国の戦士団へ依頼を出すことになります」
「……まぁもっとも、冒険者の救助の方はあてにならなそうだけどな?」
ちらり、とあたりを見回すと、くすぶっていた冒険者たちはいっせいに視線をそらした。
「すみません」
ギルドマスターも、うつむき気味にそう謝罪をし、ちらちらと上目遣いでこちらをうかがっている。
まぁしかし、危険がないと分かっているし。 もとより自分の蒔いた種、断る道理もなく。
「分かった、こっちで何とかする」
そう二つ返事で承諾をし、ギルドを後にするために踵を返す。
「あ、あと! 最後に!?」
「ん?」
「し、死んでしまっても……ギルドは責任を取りませんので、悪しからず」
契約を結んだ後に、とってつけたようにそう語るギルドマスター。
ちゃっかりしてるというか、狡猾というか……。
「はいはい……」
俺はその言葉に肩をすくめながら、エリシアと共に、ドラゴンの死体があるテルモピュリーへと向かうのであった。
【ゴブリン】—―――お馬鹿なゴブリンは山火事へ飛び込んで死ぬ。賢いゴブリンは水をかぶった後山火事へ飛び込んで死ぬ―――― ゴブリン研究家グレゴリークレンゴ




