やきもち
――――――死を逃れる術は、道を歩むことである―――――
初代アルスマグナ皇帝、ガラドラム一世
「ハートを奪っても……案外街は変わらないんだな」
竜王国アルスマグナ最西端国境沿いの街、アルゴン。
ダンジョンを攻略し、この地の栄える要因となっているハートを盗み出した俺たちであったが、レンガと華やかな花の香りのこの街はそんなことを気にも留めることなくいつも通りの日常を謳歌している。
旅の者たちに色々な物珍しい品物を提供する商人の姿はもちろん、待ちゆく人は見たこともない食べ物をほおばりながら、人それぞれ千差万別の格好、思い思いの言葉で街を闊歩する姿があり、街は昨日と変わらず……いやそれ以上に活気に満ち溢れている。
「そうね……これだけ活気のある街であれば……ハートのあるなしなんてさしたる問題ではないんでしょうね……魔鉱石も大量に運び込まれてるだろうし、魔力精製所もあちこちに作られてるみたいだしね」
「魔力精製所?」
「いつまでも大地からマナを吸い上げてたら、土地も痩せるしいつかは枯れるでしょ? だから、人工的に魔力を生み出すための施設があるのよ」
「……発電所みたいなものか?」
「リューキ様のいた世界に例えるとそうですね」
「そ、確かにこの土地にある魔力は無尽蔵に近いけど、下からくみ上げるだけじゃやっぱり効率が悪いしね……ハートが役立つのは最初だけよ。 発展しやすいけど、ある程度発展したら用済みになるの」
エリシアの言葉に、俺は一度なるほどと感心すると同時に、この街から活気が奪われるようなことにならなくてよかったと内心安堵する。
「しかしなぁ……こんな活気のある街の足元に、あんなものがあるとわなぁ……崖の時みたいに崩れたりしないだろうな?」
昨日の冒険を思い出し、俺は改めて、二三度足元にあるタイルをかかとで蹴とばす。
あれだけの大空洞だ、いつ崩壊して大穴ができてもおかしくはないはずだ。
だが。
「ダンジョンとは、もとより魔法の世界の産物ですからね、基本的に物理法則は適用されません……ハートという名の願望機に投影された影の様なもの……一度作られればそこは現実とは切り離された異界となります」
「異界っていうと、もっと大仰なことしないと入れない場所みたいな感覚だったが」
「入り口以外からはですよリューキ様。 恐らく、このまま地下に地面を掘ってもあのダンジョンにはたどり着きません……異界の門を正確にくぐること、それが異界へ侵入する条件なんです」
「なるほどね、今回はたまたま入り口が開いていたと」
そう考えると、あの場所にダンジョンがあることを突き止めたサヤという人物の、情報屋としての手腕はなかなかのものであるのかもしれない。
入り口を正確に見つけなければ発見することはかなわない異界を……誰よりも早く発見したのだから。
……もっとも、そんなことを言えばエリシアの機嫌が急転直下することは目に見えているため口には出さないが……。
「……そう言うこと。 つまりは、次に必要になるのは」
「異界への情報収集が必要になると」
「流石はリューキね、話が早いわ」
「しかし、ダンジョンってのは意外と探すのが大変なんだな」
「そうですね、ハートに限らず、ダンジョンに侵入するには最低でも二つの行程をパスしなければならないです」
「まずは場所を見つけ、入り口を見つけることか?」
「ええ、そうですね」
「それに加えて、ハートのダンジョンには鍵が必要になる」
「三つの封印……なるほどね。 今回はあらかじめ三つの行程を終わらせていたけど、次からはまた一から探さなきゃいけないと……ちなみに、アルゴンのダンジョンの情報はどれぐらいかけて集めたんだ?」
「ハートの存在を知ったのは一年前……。ダンジョンにハートが分断されて隠されているって知ってから、魔道王国エルダンの学校長にも手伝ってもらって……今に至るまでにはそうね……大体三か月といったところかしら……。それでも、元々エルフ領だったということもあって、ここの資料はたくさんあった。これからはこうはいかないでしょうね」
「うーむ……仕方ないことかもしれないが、長丁場になりそうな旅だなぁ」
「……そうね、全部終わるのに一年……それ以上かかるかもしれないわ。 その……もしほかにあなたに優先事項があるなら……」
「あいにく、神様には自由に生きろって言われててな。 目標も使命も与えられてない」
「そうなの? 転生者はだいたい使命だったり何か役割を与えられるんだけど」
「……まぁ、リューキ様は特別なので」
ミユキの言葉に気遣いを感じ、その優しさに俺は少し傷ついた。
「そう。 きっといろんな世界を救ってきたから、ご褒美って感じなんでしょうね?」
そしてこのエリシアの何も疑わずに全面的に肯定的にとらえてくれるのも胸が痛い。
「そうなんですよ!」
「でも……それだったらなおさらせっかくの休暇を私なんかにつき合わせちゃっていいのかしら? 結局魔王復活の阻止みたいな大役を手伝わせちゃおうとしてるし」
「魔王と真正面から戦わされるよりかは何倍もましだろうよ……。それに、エリシアと一緒にいると楽しいし、今はここが俺の一番いたい場所なんだ……だからそんな風に言わないでくれ」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
そういうものなのだ。
「……そう、じゃあもうこれ以上は聞かないし、逃げ出したいって言っても離さないんだからね?」
にこりと笑うエリシアに対し、俺も言葉など使わず……ただ口元を緩めて頷き返す。
……エリシアとの絆が深まった……ような気がする。
「ふふふっ! 正式契約っていう奴ですね!」
そんな光景を見ながら、ミユキは嬉しそうにステップを踏みながら上下に飛ぶ。
「ふっふふ、改めてよろしくねリューキ」
太陽のような笑顔なんて言葉、ただの小説の枕詞と思っていたが。
エリシアの笑顔はまさに玉のような太陽そのものであり……見とれてしまう。
「リューキ様……鼻の下伸びてますけど」
「あいたっ!?」
ミユキのびんたが上唇に決まる。
「ふーんだ! 」
意外と痛い。
「やきもちか?」
「違いますー!」
やきもちのようだ。
好感度が高すぎるのも考えすぎだな。
ナイスボートなんて終わり方はさすがに避けたい。
【やきもち】 焼いてある御餅。




