スキルについて
「レベルが上がってるな……3になってる」
「あら、よかったじゃない……でも、転生者って便利なのね。 普通だと、魔法で紙にステータスって印字しないとわからない物なんだけど」
「まぁ、そこのところは転生者の特権と言うことで」
「ねえねえ! それじゃあ私はどうなってる?」
「んー……レベル3のまま」
「そっかぁ」
少し残念そうにエリシアは口を尖らす。
「……変だな。 レベル3なら、エリシアもレベルアップしていてもおかしくないと思うんだが」
「私はエルフ族だからねぇ……レベルアップしにくいのよ……」
「そうなのか?」
「ええ、エルフ族は長寿だからね……なかなか成長が遅いのよ」
「だからって、あれだけの敵を倒してレベルが上がらないっていうのもおかしな話だな」
「そう? 一気に二つもレベルが上がる……っていう方が私としては驚きよ?」
「そうなのか?」
「ええ、貴方の世界がどうだったかは知らないけど、こっちの世界ではレベル13になると、その道を極めたもの、マスタークラスってよばれる存在になるの」
「マスタークラス……なんだかかっこいい響きだな」
「そりゃもうね。 マスタークラスってだけでも、伝説に成れるし有名人になるわ……剣士であれば一国の騎士団長くらいにはなれるし、魔法使いであれば魔術の最奥……究極魔法を操れるようになる。今この世界には、マスタークラスの人間は百人もいないでしょうね」
「んー、多いんだか少ないんだかわからないが、狭き門だってのはわかった」
通常、俺たちの感覚だとレベル100ぐらいがレベルの最大値なような気もするが。
ここでは13というのがとりあえずのゴールらしい。
となると、100レベル換算でざっと15レベルは上がった計算になるのか。
そう考えれば妥当な数字である。
「なるほどね、ステータスもこの世界とは違うみたいね。 ごめんねリューキ。 異世界って色々と違うのね。 私詳しくなくて、そうなるとステータスの上限についても知らないわよね」
「ステータスの条件?」
「そう、ステータスっていうのは人間の基礎能力を示すもの。筋力や知識がそうね。 それっていうのはその人の肉体と頭脳が持つ基本的な力を数値化したものよ」
「なるほどね……それでもってレベルも13でマスタークラスというと、18あたりが人間の各ステータスの最高値って言ったところか?」
「本当、こういう時には察しがいいわよね、アンタ」
「まぁな、6面ダイス3回分……それが人間のステータスの初期値っていうのはダンジョンとドラゴンとの戦いが始まった時からの決まりだからな」
「? そんな歴史学聞いたことがないけど……ダイスって?」
「あー気にしないでくれ。この話をすると脱線してしまうからな」
「ふーん、気になるからあとで忘れずに教えてよね……。まぁそれはそうと、話を戻すけど、人間のステータスは18までと決まってるわ。 もちろん数が少ないから同じ数字でも結構な開きがあったりする……どちらかというと数値というよりランクに近いわね」
なるほど、数値化しているが、実質はAとかBとかのランクに近いのか……そしてあえて数字にしているということは。
「なるほど、この数字は人間以外にも適用するということか」
「……本当、よくわかるわねぇ。 というか知ってたんじゃないの貴方?」
「そんなことはないさ、正直俺だって驚いてるよ」
「なら、いいけど、貴方の予想通り限界数値18というのは人間にしか適用されないわ、例えば、大人の灰色熊の筋力は13~20が通常とされているし、馬の敏捷は当然のことながら18~21が普通ね、人間じゃどうあがいても馬にはかけっこで勝てるわけないもの」
そりゃそうだ。
「なるほどね、そうやって、ノームや人間、エルフの肉体的特徴や差異をうまいこと数値化したうえで、他の動物や魔物の身体能力等を数値化することに成功したってわけだ」
「まぁ、そうなるわね」
旨いこと考えるやつがいた者だし、俺のいた世界ではやろうと思ってもできない技術だ……。というか、学校の通信簿みたく自分のステータスに数字をつけられるのはなんとも言えない気持ちになるが。
この世界ではそれが常識であるらしい……。
「だが、一つ一つの幅が広いんじゃあんまり意味ないんじゃないのか?」
「まぁね、あんまり意味はないわよ? そもそも、ステータスなんてあくまで指標だし……肉体の能力が高ければ高い程、使える武器や覚える技に差が出てくるのは認めるけど、正直そこまで重要でもないのよ、重要なのはスキルよ」
「そうなのか? なんかスキルってのは能力のおまけってイメージがあるんだが」
その言葉に、エリシアは首を振り。
「それだと、人間は幾ら力を得てもドラゴンには勝てないじゃない?」
「勝てないのが普通だと思うんだが……」
「アンタは勝ったじゃない」
「そうだった、なんてこった」
「あんたも実感したでしょ? 通常ではありえない【怪力】や、【直感】。それがスキルよ……それは、肉体の能力である数値とは分けて考えられるの」
「スキルってすごいんだな?」
「ええ、極端な話、スキルをたくさん持っているレベル1の冒険者とスキルを何も持っていないすべてのステータスが18のマスタークラス冒険者でも、スキルを持っているレベル1が勝つ……それだけスキルっていうのは戦闘や職業に大きな影響を及ぼす。 そのかわり、スキルを手に入れるには莫大な修練と努力を要するわ。 にわか仕込みではスキルにまでは消化されない……いわばスキルっていうのは、その道を極めた証としてその体に刻まれるものなのよ」
……熟練の技は記憶喪失になったとしても記憶に残っている。
そんなのは漫画やドラマではおなじみの展開であるが……なるほど、それを可視化したものがスキルなのか。
だがそうすると、俺のスキルというのは。
「どうしたのよ、自分の手なんて見つめて」
「いや……もし仮にだけど、相手のスキルを奪うスキルなんてのがあったら、どう思う?」
「それは……そんなスキルは聞いたこともないけど……人の時間と努力を盗んでるみたいなものね」
その言葉に、俺は少しうつむいて。
「やっぱ……そうだよな……」
そう小さくつぶやくが。
「でも」
「?」
「かっこいいわよね!? なんだか、怪盗みたいで!」
そうエリシアは瞳を輝かせて付け足した。
「……怪盗なんて言葉この世界にあったのか」
「もちろん! この世界にだって正義の為に戦う怪盗くらいいるんだから!」
「ほぉ? アルセーヌルパンみたいなのがこの世界にもいるのは驚きだ」
「アルセーヌ?」
「俺がいた世界の怪盗紳士さ……」
「怪盗紳士!!」
「な、なんだ?」
エリシアは瞳を輝かせ、身を乗り出してくる……ローブ等を羽織っていないため、胸元の谷間がくっきりと俺の視界に飛び込んできて……嬉しい。
「怪盗なのに紳士……すごい素敵ね!! 正義の為に盗みを働き、その力で弱い人を救い出す……うんうん。 わたし、魔法使いじゃなかったら怪盗団を結成するのが夢だったの!」
「随分とお転婆なお嬢様だことで」
「だって、怪盗は自由なのよ? そして悪党から颯爽とマジックアイテムを盗み出して……困っている人を助けるの! とっても素敵じゃない!」
きらきらと瞳を輝かせて笑うエリシア。
そんな彼女の姿に……俺は自分のスキルをもう一度見つめなおす。
「自由……ねぇ」
ただ、人から時間と努力を一時的に奪い取る卑怯なスキルだが。
その力を、人の為に使うのであればそれは立派なものだ。
泥棒が、正義の怪盗になるように……。
このスキルがどんな目的で作られたのであれ……その力をどう使うかは言葉の通り俺の自由なのだから。
「なんか、やる気が出てきたな……」
「お、さっそくレベルアップの効果が実感できたのかしら?」
エリシアは勘違いをして手を叩いて喜ぶが、気恥ずかしいのでそう言うことにしておくことにしよう。
「まぁな、それでエリシア。 俺たちは何を手伝えばいいんだ?」
「荷物持ちに値切りの交渉……大図書館でこの前の石碑の解読とやることはてんこ盛り。はっきり言ってダンジョン探索よりもハードワークになるからそのつもりでね」
「うぇえ……」
「あからさまにテンション下がらないでよ!?」
そうは言われても……やはりNEETに労働はつらいでござる。




