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初めてのレベルアップ

~リューキはレベルがあがった~

 「寒いね……お兄ちゃん」

 

凍える様な寒さ……あの日は確か雪が降っていて……彼女の最後の言葉は確かこれだった。


―――俺は、母親の顔を知らないし。

                父親の顔も覚えてはいない。


妹は目の前で逝ってしまい……俺は結局何も守れずに、無様に死んだ。


 世界に奪われ……守りたかったものは、俺の手から零れ落ちていく。


冷たく凍ったアスファルト……。 


腕の中の小さな体はまだ暖かく……そうして当然のように冷たくなっていく……。


思い出も、これからも停止するように。


それはやがて……俺の体へと伝染し……停止させていく。


いつも同じ……誰も守れず、こうして自分は止まってしまうのだ。



……あぁ……嫌だなぁ。



最初にあった俺の熱ももうすっかり冷めきって……ただそんな情けない言葉だけを残して。

このまま俺は停止をするのだろう


しかし……。


「リューキ……」


そんな、凍った俺の体を、ほんの少しだけ……その言葉が溶かしたような気がした。



                     ◇

「……リューキ? 大丈夫?」


「んあ?」


自分でも間抜けだと思うような声を漏らし、瞳を開けると。


心配そうな表情をしながら、ベッドの隣に座っているエルフ耳の少女がいた。


「……随分とうなされてたみたいだけど? アンデッドとチークダンスでも踊る夢をみたのかしら?」


「んーにゃ……絶世の美女を抱きしめる夢を見ただけさ……胸が苦しくなっちまってな」


「呆れた。 アンデッドに呪いでもかけられたんじゃないかしらって心配して損したわ」


エリシアは顔を少し赤らめ、苦笑を漏らす……彼女のいう通り、本当に心配をしてくれたのだろう。


俺の左手がほんのりと暖かい。


「ミユキは?」


「まだぐっすりよ。 子供はまだ寝る時間だもん」


「子供ねぇ……今何時?」


「朝の五時」


「いつもの俺だったらちょうど布団に入る時間帯か」


「働きすぎは体に毒よ? アンタの世界の言葉でしょう? カロシーって死因。 最近問題になってるのよ? 体も何もかもがボロボロになったうえで死ぬから、蘇生が難しいんですって……アンタも気を付けてね」


「その点については問題ない……絶対に過労死では死んだりしないさ」


ニートが過労死するわけないし。


「そ? ならいいんだけど、あ、コーヒー? 紅茶?」


「コーヒーで……」


「はいはい……」


「悪いな」


「いいわよ、一人分も二人分もおんなじだわ」


立ち上がるエリシアの姿を見ると、既に冒険の支度は済んでいるようで、俺はふと首を傾げる。


「随分と用意が早いな……」


「まぁね、これから朝市に行って、色々と旅支度を済ませないとだもん」


「旅支度?」


聞きなれない言葉に、俺はそう聞き返すと、あからさまなため息を漏らしてエリシアにジト目でにらまれる。 


少しぞくぞくした。


「よっぽどの美女と昨夜はお楽しみだったのね? アルスマグナのダンジョンは攻略した……そしたら次は他の国へと行かなきゃいけない……国境を超えるんだもの、そんな簡単にはいかないわ……少なくとも、ここに来たのと同じように正規のルートは使えないでしょうね」


「長旅になるってことか」


「そういう事。 テルモピュリーからは近かったから軽装できたけど、ここからだとドワーフの国もノームの国も、そこそこの長旅になるから」


「食料に水、それにマジックアイテム……野宿用にテントも、何よりも足になる馬が必要になると……そのための買い出しか」


「やっと目が覚めてきたようでよかったわ。 コーヒーを飲んだら、ミユキを起こして早速行きましょう? お腹もすいちゃったしね」


「賛成賛成~」


寝ぼけた頭も整ってきたため、ベッドから抜け出して用意されている机に座ると。


「はい、お待たせ」


香ばしい香りを漂わせたコーヒーが目前に置かれる。


「そういえば、コーヒーってあるんだな」


黒々としたその色と香りはまさしくコーヒーそのものであり、対面に座るエリシアにそんな疑問をつぶやくと。


「そうねぇ、なんか鉄の時代からあったみたいな話はあるけど。 思えば名前も同じ名前なのも変な偶然ね」


エリシアもそこの所の理由はわからないのか、こくりとコーヒーに口をつけ、俺もそれにつられて口をつける。


苦く……うまい……。 酸味が少し強い気がするが、それでも俺が知っているコーヒーの味だ。


「そういえば、体の調子は大丈夫? ポーションと軟膏の力でも、さすがに疲労までは消せないからね……」


「……ん? あぁ、確かに言われてみれば平気だな」


おかしいな、ここ数年引きこもりニート生活を送ってきた俺が、あれだけの運動をしたのだ。

全身筋肉痛による絶叫を上げるというイベントが待っているはずなのに……。


俺は肩をぐるりと回してみるが、異常はなくその代わりに曲げた腕から力こぶが現れる。


「……成長期?」


「そんなわけあるかい……レベルアップよレベルアップ」


「レベルアップ?」


「あんた、レベル1なのにドラゴンにチンピラに……ハイアンデッドを倒したでしょう? きっとそれが原因ね? 本来そんな簡単にレベルって上がる物じゃないんだけど、さすがに伝説級(あれだけ)の魔物を二体も倒せばおかしくない話よ」


「ふぅん」


俺はエリシアの言葉に一つうなずいて、自分のステータスを表示してみると。


【リューキ】LV3 職業 NEET 称号 竜狩り


筋力  8

体力  7

信仰  8

敏捷  11

運   3


【保有スキル】スキルグラップLV2/スキルチェンジ/ 戯言LV3 /剣技E



【レベル】 人間の肉体の成長を表す言葉。一般人が経験しえぬ冒険や体験、試練を乗り越えたものが己の限界を超越した瞬間に訪れる肉体の成長を数値化したもの。 鍛錬や修行では上がらず、主に立ちはだかる障害を打ち倒し続けた末にたどり着く境地。 そのため、冒険者のように魔物と相対し続ける存在でなければ、レベルアップを一度も経験することなく人生の幕を閉じる物も多々いる。13段階、つまり12回レベルを上げると、マスタークラスと呼ばれ英雄に近い存在とされる。 これは、鉄の時代初期の英雄が、12の試練を打ち破り至高の英雄と呼ばれた伝説が起源とされている。 余談だが、レベル13、マスタークラスにレベル1から到達するためには、リルガルムの迷宮に眠る世界最強の剣豪 ルーシーズゴーストを300回ぐらい倒す必要がある。 また、その弟子である脳筋エルフは、ナイトオブラウンドテーブルの迷宮最下層にて、グレーターデーモンを一匹つるし上げ、延々と仲間を呼ばせ、グレーターデーモンを絶滅寸前まで追い込みマスタークラスへとなった。

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