エルフとお風呂
混浴NOW
「え、エリシア!!」
突然の登場に俺は一瞬その全裸姿をガン見してしまう。
その体は一部タオルで隠されているが、体に巻いているわけではなく、たらんと垂れた白いタオルの隙間から、豊満な果実やしなやかな細い艶のある生足が漏れ出してしまっており。
「!? わっわりい!?」
すぐさま凝視をしてしまった助平な自分の本性を戒めつつも、慌てて浴槽の真ん中にでかでかとそびえたっていた岩陰に隠れる。
「……なに隠れてんのよ?」
エリシアはそう、あっけからんと言い放つと、そのまま何食わぬ顔で温泉へと入ってくる
いやいやいや、なんで入ってくるの貴方!? そこ悲鳴を上げて俺にたらいやら桶とかを投げてくるところでしょうが!?
「ちょっ!? なぜ入ってくる!」
「なんでって、私も温泉入りたいからよ」
「いやそうじゃなくて……もしかして俺が間違えたのか? ここって女湯だったのかミユキ!?」
「いいえ、ここは女湯じゃないですよ?」
「え?じゃあ、エリシアが痴女なのか?」
「誰が痴女か誰が!? まったく、何言ってんのよリューキ……ここは貴族専用の温泉じゃあないのよ? 混浴に決まってんでしょう」
「こん……よく?」
なんて嬉し……いやけしからん。
「そうよ、珍しいもんじゃないでしょうに?」
エリシアの発言から、どうやらこの世界では混浴というのは身近なものであるらしい。
「……いや、その……えと……」
だからと言って、はいそうですかとエリシアの隣まで行く勇気は俺にはなく、岩陰に隠れたままちらりとエリシアの方を覗くと。
「……何よ……」
目前に広がるのは空前絶後のナイスバディ。
貧乳と言ったな……あれは嘘だ。
見るだけで呆けてしまいそうなほど美しい姿……金色の髪を束ねているため、くっきりと見える首から肩のラインだけでのぼせてしまいそうであり、そしてなにより胸部付近の湯船の上に……我儘果実が浮いている。
エリシアは着やせするタイプ……うん、リューキ覚えた。
「ちょっと、こっち来なさいよ?」
「いや、そういわれても……俺は……その、恥ずかしいというか」
「……今更混浴で恥ずかしいとか、思春期の女の子か何かかしら?」
「それよりも繊細なハートなの! ニートってのは!」
「紳士も大変ねぇ、まぁでも、騎士の矜持じゃしょうがないわね」
エリシアは何か納得したようにうなずき、興味なさげに欠伸を漏らすが。
「……ちょっとリューキ様、さらっと流してしまいそうになりましたがなんでその疑問が私とお風呂に入るときに出てこなかったんですか?」
岩陰に隠れる俺に対し、ミユキはワントーン低い声で問いかけるが。
「いや、ミユキの場合は保護者同伴というか……そんなイメージで」
「まさかの幼女ポジション!? ちょっとリューキ様それは聞き捨てなりません!? ミユキは、ミユキはこれでも……あっ!? 私まだ一歳でした!? チクショー!」
「まぁでも、ミユキの場合誰かが見てないと、排水溝とかに流されちゃいそうだから、仕方ないんじゃない?」
「ミユキそこまで小さくないです!? エリシアさんもひどいです!?」
「溺れるかもしれないし……浴槽にぷか~って浮いてたら、嫌だろ?」
「私は温泉に迷い込んだ虫ですかああぁ!?」
きぃきぃと騒ぐミユキをからかい、俺は岩の影からエリシアと一緒にカラカラと笑う。
「ふっふふっ……本当、あんた達と一緒にいると飽きないわね。 サヤに裏切られてよかったわ」
「そうだな、あいつらがウイットに富んだ会話ができるとは考えにくい」
「旅に出るときはこんなに楽しくて、笑えるなんて思ってなかった。 人って、一日でこんなにも笑うことができるのね」
暴れるミユキを胸の間に挟み、母親のように頭を撫でながらエリシアはそう微笑む。
「そんなつまらない所なのか? エルフの里ってのは」
「えぇ、退屈もいい所よ。 権力争いに派閥争いが絶えない退屈な場所。 制度は古くて年功序列式で……いつまでも上が死なないもんだから、椅子取りゲームにみんな余念がないわ」
「……それはそれは……」
「エルフ族は、知識の探求と魔法の源……最初の炎に到達することを目的とした種族と聞き及んでいましたが?」
「ええそうね、最初の炎はみんながみんな欲しているわ……なんでかって? それを手に入れれば確実にエルフの国の王になれるからよ」
「最初の炎?」
「かつて英雄ダンカが到達した魔法の原初……魔法の始まりと呼ばれるもので、最初の炎とこの国では呼ばれています……今のところ、この世界で最初の炎にたどり着いた人間は英雄ダンカと……私の母であるミユキ様だけです……たどり着いたとされるものならまだ数人存在しますが使用したという伝承が残るのはこの二人だけです」
「……そんなすげー魔法なのか?」
「ええ、私は知識でしか知りませんが……【我を捨て欲を排し世界の真理に至る時最初の炎は胸の内に宿る】と文献で読んだことがあります」
「要は無心の境地にたどり着いたら手に入るって奴か……皮肉な話だな、エルフのお偉方はみんな手に入る確率はゼロに近い」
「ざまあみろね……」
エリシアは心底愉快そうに笑い、同時にパシャリと水面を跳ねさせる。
どうやら本当に退屈な世界らしい……。
しかし、考えてもみれば年功序列式でエルフは長寿の一族……となれば想像しただけでい息苦しい。・
「よくもまぁ、そんな国を救うために命をかけるよな……」
「え……ま、まぁほら! そういうのは上でふんぞり返っている奴らだけだし!? 基本的にエルフ族っていうのは自然を愛する優しくて美しい種族なの」
「ふうん」
エリシアの言葉に、俺は一度首を傾げるが、エリシア以外のエルフを見たことはないので何も言うことなくそのまま飲みこむことにする。
「エルフの里を救うってんで思い出したがエリシア……魔王の復活って今どれぐらい進んでるんだ?」
予言により魔王の復活が示唆されたとは言ってたが……具体的にどれぐらいのペースで残りのハートを見つけなければならないのかの目安は欲しい。
のんびりしていて間に合いませんでした……ではシャレにならない。
全てが自由である分そういったタイムリミット等には敏感になる必要があるだろう。
この世界には時を巻き戻す不思議な歌は無さそうだし。
「……ミユキ様の予言では、具体的な予言はされてなかったわ……ただ、パッチ?という存在が魔王復活のカギを握るそうよ……おかげで今、大神官はパッチの捜索を最優先で進めているわ」
不意にその言葉から俺は転生するときにサトナカの奴が言っていた言葉を思い出す。
――――――――――――――――「違う……今魔王まだいない」
「いないのかよ!?」
「パッチ1,2ぐらいで実装する予定」
「せめて完成させてから、実働させろよな」
「ゲーム業界ではよくある話」――――――――――――――――――――――――――
あれかぁー。
まさかのあんなふざけたセリフが伏線になっているとは。
というかサトナカの奴、あのままの説明をエルフの大神官にしたのか。
おかげで大神官が明後日の方向に解決策を見出しているじゃないか。
まさに誤った指図という奴だ。
俺はそう面倒くさがりな女神さまに振り回される大神官に対し憐憫の情を抱きながら、ふとミユキを見てみると。
難しい表情をして顔には「ごめんなさい」と書いてあった。
本当、よくできた子である。
【パッチ】コンピュータにおいてプログラムの一部分を更新してバグ修正や機能変更を行うためのデータのこと。「修正プログラム」や「アップデート(プログラム)」などとも呼ばれる。実際に変更を施す際は「パッチを当てる」、「パッチを適用する」と言う。 この世界では、ミユキの説明不足のため、魔王復活をもくろむ災厄の首謀者として指名手配をされている。




