未来からの手紙……
―――――――――NOW LOOPING—―――――――――
「……扉……まだ奥があるの? 正直……三十分過ぎたし、これ以上強いやつの相手なんて無理よ!?」
「だが、この場合は先に進むしかないだろうエリシア」
「うぅ、そうだけど……」
ダンジョンの恐ろしい所は、探索の切り上げタイミングを決めても、その時間で帰れないことが往々にしてあることだ。
だからこそ時間配分は大事なのである。
万が一ぎりぎりまで潜って、今回のような事態に陥ったらそれこそ詰みである。
だからこそ、余裕の残っている段階で引き返す……というのはダンジョン攻略に置いて必須事項といえる。
「敵が出るって決まったわけじゃないし、扉の向こうに敵がいるというわけでもなさそうだ」
ステータスのスキルによる索敵結果はオールグリーン。
とりあえず奇襲の様な事は無さそうであり。
俺はその扉をゆっくりと開く。
長年使われておらず、さび付いていたのか、扉は小さいくせに大仰な音を上げてその口を開き。
「ここは……」
誰かの……墓標へと到達する。
部屋の中は小さな小部屋であり……魔法陣の書かれたサークルの中心に……棺の様なものが置かれている。
「……これは、魔王の墓標でしょうか?」
ミユキの言葉に、俺は一度足元にある魔法陣を見た後。
「墓を調べたい……エリシア」
そうエリシアに目配せをする。
魔法のことに関してはからっきしだが、この魔法が罠の可能性もある。
「分かったわ」
俺の言葉に、エリシアは一度うなずくと、魔法陣の近くに立ち、しばらくブツブツと呪文をつぶやきながら観察を行ったのち、一つ大きく息をつく。
「…………どうだ?」
「問題無さそうね……掛けられているのは、ただの保存の魔法陣」
「保存?」
「墓を風化させないように、中にあるものを痛ませないように……そういう魔法がかけられている……まぁ、誰だって墓と遺体は綺麗なままで残したいものね。それを、魔王の心臓から無尽蔵にあふれてくる魔力で発動させ続けているってわけね」
「……ホルマリン漬け標本みたいなもんか」
中に入っているのが心臓だったり、遺体だったりということを考えると。
少しばかり気分が悪くなるが。
俺はとりあえず魔法陣の中に入り、墓標を調べてみる。
そこには何か難しい文字が書いてあり、当然のことながら読むことができない。
明日までに、ステータスに翻訳機能をミユキにつけてもらおう。
そんなことを思いつつ、俺はとりあえず文字とにらめっこをしていると。
「これは……エルフ語ですね」
ミユキは一人そう口を開く。
「なんて書いてあるんだ?」
「そうね……ええと……。 嘘……」
読み始めたエリシアは、一瞬信じられないといったような表情をし。
「どうした?」
問いかけると、声を震わせながら。
「……英雄ダンカ……魔王と共にここに眠る」
そうつぶやいた。
「英雄ダンカってたしか……」
ミユキが確かポロリとつぶやいていた……。
「五英雄……魔王を封印した英雄が一人……エルフ族で、自然と会話をし自然を操る魔法を作り上げた偉大なる賢者」
「リューキ様が飛ばされたあの場所がテルモの峠と呼ばれているのが、かつてあの場所で英雄ダンカは自然を操る魔法を悟り、作り上げたと言われているからなんです」
「へぇ……だけどなんで、そんな英雄がこんな場所で魔王なんかと?」
「……魔王の封印のため……犠牲になったのよ……きっと」
エリシアは震える声でそういうと。
そっと棺に手をかける。
「おい……罠があるから」
「分かってる……でもきっと、この中に……英雄が……」
エリシアは興奮を抑えられないのか、慌てた様子で、しかし慎重に棺の石造りの上蓋を取り払う。
、
重苦しい音はまるでうめき声のように響き、ふたが開くと同時にたまっていた三百年前の空気が一斉に外へと吹き出す。
臭い……わけではないが、独特な香りが鼻孔をくすぐり、眉を顰めつつ。
中を覗く。
だが。
そこにあったのは……一つの黒い結晶と……一枚の手紙であった。
「……これは」
俺はそれを拾い上げ、ランタンにかざすと、なにやら黒い結晶の中では炎のようなものが渦巻いている。
宝石……というよりも何かを閉じ込めている箱のようだ。
黒く、それでいてなにやら深い闇の様なものを感じるが……どこか暖かく、生命の脈動の様なものを感じる。
「……魔王の、心臓……」
そんな不思議な宝石に、俺は首を傾げていると。
エリシアは震える声でそういった。
「魔王の心臓? これが?」
「そう考えて間違いはないでしょう」
「なんだ? 魔王って全身ダイアモンドでできてたりするの?」
「いえ、普通の半神だったと思いますが」
「あらー……鋼鉄の心臓とは言うけれども、随分とハートの強いやつだったんだな」
「……えと、確かに自らを~意志の力~となのるぐらいですから……ハートの強さは折り紙付きかと」
俺の冗談の嵐すべてにミユキは真面目に答える。
悲しい。
「ミユキ、今のはジョークよジョーク。 リューキも知らないんだったら知らないって言ってよね。分かりづらいわ」
「ごめんなさい……」
「わかればよろしい。 ふむ、でも知らないってなると、そっちの世界ってエルフとか妖精とかはいないのリューキ?」
「いたら良かったんだけどなぁ」
「そうなのね、じゃあハートのことは知らないのか……ごめんなさい、こっちの世界だと常識だから知ってるものだと思ってたわ」
「ハートっていうのは心臓のことじゃないってことだな?」
「ええ、人間が持っている心臓とは少し違う……魔王の心臓っていうのは魔王の魔力路の事なのよ」
「魔力路?」
聞きなれない言葉に、俺は首を傾げる。
「そう、一般の人間にはない器官なんだけどね、魔法が得意な種族、生まれつきヒューマンやドワーフ族、ノーム族に比べて魔力が高いエルフや妖精たちはね、その体の中に魔力を生成する器官が存在するの。 まぁその分、エルフは普通の人より血を送る方の心臓が小さくできているから……肉弾戦は不向きなんだけどね」
納得の理由であり、俺はよくできてるなぁと感心する。
「じゃあ、エリシアの中にもこんなのが入ってんのか?」
「私はまだ……若いからできてないわね」
「ん? どういうこと?」
「あーごめん。 分かりにくかったわよね。 簡単に言うと、アンタが持ってるのは魔王の心臓……で生成されたクリスタルなのよ」
「クリスタル?」
なんだ、急にジャンルの違う物語が始まりそうになってるぞ。
「そ、長い年月をかけて魔力をハートで循環させてると、ちょっとづつだけど体の中に魔力の結晶ができてくるのよ」
「尿結石みたいなもんか」
げんこつ。
「真面目に聞く?」
「しゅびばしぇん」
「そして、高純度の魔力を凝縮されているそのクリスタルは、普通の魔力石とは比べ物にならないほどの魔力を誇る」
「まぁ、分かりやすく例えると。 石炭と核燃料ぐらいの差はあります」
雲泥の差だなおい……。
異世界怖え。
「そこら一般の老エルフや妖精からとれるハートだけでも、平穏な家庭に暮らす人間が生活に使用する魔力一生分を補えると言われているの」
「こんなちっぽけでか」
俺は手の中でハートを転がすが。
「エルフと妖精の物は、穀物一個分の大きさもあればいいほうよ」
「……マジか」
「そういう事よ。 さてでは問題ですが、一般のハートでそれだけの魔力を誇るのなら、一体この魔王の心臓はどれほどの魔力を保有しているのでしょうか?」
想像するだけで寒気がする。
なるほど、魔力だけでこれだけの建物を構築したり……街一つを簡単に豊かにできるわけだ。
「いうなれば、何でも願いがかなう賢者の石といったところか」
「赤くないですけどね」
「賢者の石……錬金術師が目指す最終極地……確かにこの存在はそれに限りなく近い権能を持つわ。……だからこそ、個人の手に渡るのはとても危険なの……本来であれば私も触りたくはない」
「だが、魔王が復活してしまったら……」
「必ずその魔力を取り戻しに来る。 だけど逆に、今魔王の命をつなぎとめているのはそのハートから生成される魔力でもある……四つに別れていても、このハートがここにあれば、魔王は生きていられるの」
「なるほどな、壊してしまえば、魔王は復活する前に死んでしまうと」
「そういう事」
「んじゃあさっそく割って……」
「そんな簡単に割れるんだったら苦労しないわよ!」
「そうなのか?」
「当たり前でしょう!?」
「じゃあ何か? 火山にでも捨てるのか?」
「そんなことしたらそれこそ大陸の形が変わるほどの大噴火が起きるわよ……」
「それは大変だな……小説の様にうまくは言ってくれないようだぞミユキ」
「そんな都合よくいくわけないでしょう……でもまあ、私だって馬鹿じゃないわ。方法もないのにこんなものを集めたりはしないわよ」
「なるほどね、じゃあその方法はエリシアに任せるとして」
「……そうね」
「どうやってここから出ましょうか? リューキ様?」
振り出しに戻る。
「どうするのよ、本格的に出口なんてないわよ」
エリシアは今の状況を思い出したのか、涙目になりながらもそういうが、こればかりは俺だってどうしようもなく。
またもやパニックを起こしそうなエリシアに、俺自身もパニックになりかけながらも思考をめぐらし、一つ思い出す。
「そ、そうだエリシア!? 手紙、なんか手紙みたいなのも入ってたじゃないか、あれには何が書いてあるんだ?」
何か脱出のヒントになるかもしれない……そう思い俺は口にすると。
エリシアは慌てて棺の中の手紙を取り出し、いぶかし気に封筒を見回すと。
「だめ……読めないわ、なんだか表に色々と書いてあるけど……エルフ文字でも供用後でもない……ミユキ読める?」
「はい! ミユキにお任せです!」
ため息とともに、エリシアは手紙をミユキへと見せるとミユキは待ってましたと言わんばかりに手紙の近くに飛んでいくと。
「リューキ様」
不意に俺に声をかけてくる。
「ん?」
「えーとですね、リューキ様に渡してくれって書いてあります」
「はぁ?」
意味不明なことを言うミユキに、俺は疑問符を浮かべるが。
「……ほら」
ひらりと移動し、手紙を俺に渡すミユキ、何の冗談かと俺はミユキに渡された手紙の表紙を見ると。
【スキルグラッパ―……佐藤竜騎様】
そこにはそう、分かりやすい日本語で書かれており、俺は困惑をする。
しかも、名前に至ってはリューキとしか名乗っていないのに、フルネーム……しかも漢字だ。
「……どういうことだよ、これ」
「こっちに知り合いでもいるの?」
「いや……俺の身内や知り合いの中で、最初に死んだの俺だし」
そう考えると、随分と親不孝をしたものだと少し胸の中が締め付けられるような気持になるが、しかし今はそれどころではない。
この世界に来て俺はまだ四時間しかたっていない。
佐藤竜騎なんて名前も、今まで一度も名乗ったこともないというのに、どうして手紙なんかがあるのか。
「……予言者が残した手記かしら」
「予言者?」
「文字通り未来を予言する術者よ。 通常は、言語化された予言をするのだけど……強大な術者は本当に自分が未来を追体験するというわ」
「追体験っていうと? 実際に未来に行ったみたいになるってことか?」
「そんなところね。 優れた術者はその光景、痛み……感触全てを覚えているというわ……恐らくこの予言者はそんな未来であなたと出会って、手紙を残した」
「ふぅん……ってことは、この手紙の主ともどっかで出会う可能性があるってことだな」
「そう考えておいて間違いはないと思う。 何はともあれ、予言者がこんな形であなたにメッセージを残すということは……」
「変えなきゃならない未来があるからってことだろう? そしてその答えが書いてある」
「そういうこと」
「だがなんで日本語で書かれてんだ?」
「日本語が使える転生者は珍しくありませんし、リューキ様自身から学んだ可能性があります」
「あぁ、便利だな予言」
未来の知識も思うがままか。
「まぁその代わり、未来でも自分が生きている……というのが必須条件ですけどね。未来の自分の記憶を、引っ張り出す魔法ですから」
タイムリープの進化版みたいなもんか。
しかしまあ、この手紙が俺への忠告だとしたら、これは大きな財産となる。
この先に起こることが、俺にとって利になる事だったら、わざわざ手紙なんて残す必要はない。
もしかしたら、このダンジョンから脱出する方法が書いてあるかもしれないため、俺は腹落ちをさせると、すぐさま手紙を開いて中を見る……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
拝啓……佐藤竜騎様。
私は……貴方を殺した
だから今度は間違えないで。
役立たずの私を、無価値な私を出会ったらすぐに私を……殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺してころ……私はあなたの……すぐ後ろ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
黒い髪の毛が、三本……指にまきついた。
◆
【ハート】 妖精や、エルフなど魔力が高い生物に存在する器官。 本来体内に滞留している魔力を循環させる臓器であり、人間、ドワーフ、ノーム、ハーフリングには存在しない。 掛け合わせにもよるが、デミゴッドにもハートが生成される場合がある。 ちなみに、ハートの中で生成されたのがストーンと呼ばれるものであるが、この呼称は俗称であり、魔王の場合はルシフェルストーンとも呼ばれたり、一般的には魔王の物だけはまがまがしさも込めて魔王の心臓、魔王のハートと呼ばれる。 これは、妖精女王ティターニアが再生と祝福の女神であり、彼女の涙が宝石になり、貧しきものを救ったとされるドロップオブストーンの伝説がフェアリーストーンの呼び方の始まりであるからで。 その対をなす存在であるため。魔王の心臓をストーンと呼ばれるのは敬遠される傾向にあるが、呼び方は人それぞれである。 今回は、エリシアの用いている表現をミユキが認識し、全て日本語に翻訳しているため。 エルフ訛りが強い場合は~魔王のハート~共通語の発音の場合は~魔王の心臓~と発音される。




