だが、扉は開かない
いしのなかにいる
「はぁあああああああああああ……つっかれたもおおぉ」
粉塵が舞う中で、俺はその場に倒れて体を伸ばす。
体の痛みは、やはりただ忘れていただけのようで、生き残った安堵感を感じると同時に全身がずきずきと痛みはじめ、俺は大きく息を吐く。
口の中に血の匂いが充満しており不快だ。
「リューキ!? ちょっとリューキ大丈夫!」
「ふぐおぉ!?」
「え、エリシアさん急に動かしたら!」
俺が倒れたことで心配してくれたのか、エリシアは慌てたような声を上げて俺の方に走り寄り、倒れた俺を抱き上げてくれる。 柔らかい腕の感触を普段であれば心の奥底に刻み付けるのだろうが……今回ばかりは無理に動かされたことによる激痛により俺は苦悶の声を上げる。
「あっ!? ごめ!? 大丈夫?」
「な、なんとかな……」
痛みで涙目になりながらも、俺は大きく息を吸って吐き出すと。
少しだけ痛みが和らいでいく。
怪我も、目立った外傷は額の切り傷ぐらいであり体はほぼまともに動くが。
全身が破裂しそうなぐらい痛くしばらくは動きたくない。
「……えと、リューキ。 もうあのアンデッドは動かないの?」
「あぁ……ガッツも発動してないし、ステータスも反応しない」
「そうでした! リューキ様、どうしてあのアンデッドを倒せたんですか!? さっきのスキルグラップでは倒せなかったのに!」
「あぁ……その答えはあれだ」
「あれ?」
俺はそういうと、地面に転がっている剣を指さす。
それは、アンデッドが持っていた剣だ。
「あれが?」
「まぁ、見た方が早いか……でもその前に回復お願い」
「あ、ご、ごめん!?」
そう言うと、エリシアは慌ててバッグの中から薄い青色の液体が入った小瓶を取り出し、俺の額に半分、そして口の中に半分流し込む。
味はほんのり甘く、香りはすっきりとしたミントの様な香り……。
こんな、お菓子の様なものが効くのだろうかと俺は懐疑的な心持でごくりと喉を鳴らすと。
その不安をあざ笑うかのように、全身に浸透するような感覚がし、同時にあれだけ全身を支配していた激痛が、嘘のように消え。
「うん……良かった、大きな怪我はないみたい……」
エリシアの言葉に、俺はふとポーションがかけられた額に触れてみると。
先ほどまでぱっくりと割れていた額の傷が、嘘のようにふさがっていた。
「切り傷も一瞬ですよ! リューキ様!」
「そりゃ残念だ……傷の一つでもありゃ、少しはしまりのある顔になるかとも思ったが」
「何言ってんのよ、今でも十分かっこいいんだから、もったいないわよ」
「え、あ……ありがとう」
「?」
なるほど、これが無自覚な一撃か……恐ろしいな、心臓が破裂するかと思った。
ポーションが無ければ心停止の一つでも起こしていたんではないだろうか。
ただでさえ女性に褒められたことなどない俺には大ダメージである。
「ま、まぁとりあえず……痛みも消えたし!」
ごまかすように俺は、エリシアの膝枕から離れて立ち上がると、ふらふらと剣まで歩いていき、剣を拾い上げる。
と。
【スキル・爆裂を使用可能になりました】
不意にステータスが現れ、そんなテロップがあらわれ。
「そいっ」
俺はアンデッドを叩き潰した巨大な木の拳に向かって剣を振ると。
【-――――――――――――!】
爆音が響き渡り、木の拳が破壊される。
「お、思ったより威力でたな」
「なっ……なっ!? リューキ、貴方一体何を」
「要は、エクスプロージョンもガッツのスキルも……この剣の保有しているスキルだったってことさ」
俺が抱えていた疑問……なぜ自動的に爆発が起こるなら、最初の一撃の時にこいつは爆発をしなかったのか、その答えがこれである。
爆発をするようになったのは、剣を引き抜いてから。
そして、スキルをすべて奪ったというのに発動したエクスプロージョンのスキル。
以下の点から導き出されたのは、マジックアイテムによるスキルの発動だ。
「な、なるほど……確かに、アイテムが保有している特殊効果は~鑑定~のスキルでしか見切れません……だからスキルグラップでも奪えなかったし、ステータスでは検知できなかったというわけですね?」
「あぁ、何事も万能ではないってことだ」
「むむむ……これはミユキ、神様として改造の余地ありですね……しかし鑑定……鑑定ですか」
ミユキは難しい表情をしてそう唸る。
確かにステータスで相手の情報を見れるのは良いことだが、今回は逆にそれがあだになってしまったといったところだろう。
ま、結果として無事にボスを倒すことができたし……ボスが使うようなレア(っぽい)武器も手に入ったことだし結果オーライという奴だろう。
「後ろの霧もこれで晴れて……」
「……ないですね」
こういうダンジョンでのお約束は、ボスを倒すと自動的に扉が開くというのが定石であるが。
そこには依然として靄がかかり続けている出口があった。
「なんだとぅー!?」
「ちょっちょっどうするのよこれ!?」
慌てふためくエリシアであるが、このパターンは俺も予想外である。
「こういう時はボスを倒したら扉が開くっていうのがお約束パターンだろミユキ!?」
「し、知りませんよそんなこと!? 私に言われても!」
「……わ、私達ここから出られないの!? あっ、もしかして、先に心臓を手に入れて出て行った人間の罠!? 自分が心臓を取ったのを知られないために!」
「いや、この部屋に入ってしばらくしたら霧が発生したことを考えると……この霧はダンジョンに設定されていた元々の罠だった可能性が高い!」
「ということは?」
「発動していないってことは、この罠があることを察して引き返したんじゃないのか?」
「つまり! ハートはまだ残ってるかもしれないってことね!」
「あぁ、ボスが倒されていないってことはそう言う可能性も……」
「えと、心臓を奪おうとした人間の成れの果ての可能性も……中の人が全員死に絶えると……効果が切れるとか……」
ミユキの一言で、その場の空気が一斉に凍り付く。
どれもあり得るが、その可能性が一番高い。
俺は、剣が刺されていた二人の騎士の亡骸に目を移し。
血の気が一瞬にして氷点下まで落ち込み、エリシアと互いに顔を見合わせると。
どうやらエリシアも同じ心境の様で、とてもひどい表情をし。
「「ぴゃあああああああああああああああああああああああ!?」」
発言をしたミユキとエリシア両名が、可愛らしい悲鳴を上げた。
「どどどどどど!? どーしよーー!リューキさああぁん!? 死んじゃうんですけど!? 私まだ死にたくないんですけどおおぉ!? どおぉするのよおお! こんな魔力だらけの所にいたら百パーセントアンデッドになるんですけど!? 知ってるでしょ!? アンデッドになると、教会でお金払っても助けてもらえないのよおお!?」
ストレス値が限界になったのかパニックを起こし抱き着いてくる。
やばい……貧乳かと侮ったが……こいつ着やせするタイプだ!?
じゃなくて!
「おおおぉおお!? 落ち着けエリシア!? まだ手はあるかもしれないし、何よりまだこいつらが成れの果てだって確定したわけじゃ!?」
「うああああああああああああああん!」
ガチ泣きである。
その体はカタカタと震えており、まるで幼子が子供に甘えるように俺にしがみ付いてはおいおい泣いている。
「ふえええええええん!? リューギざまああああ!? 怖いです!? 助けてくださあいいい!」
「お前もかミユキ!?」
先ほどまで冷静かつ気丈にふるまってはいるし、こんなすさまじい魔法を使えはするが……やはり基本は普通の女の子なんだな……なんて俺は少し安堵をしつつ。
同時に俺よりも慌てふためく少女とおまけに俺はため息を漏らして立ち上がる。
人間というのは不思議なもので、自分以外の人間が慌ててたり怒っていたりすると自然と冷静になってしまうものだ。
まぁ、俺の感情の動きが人よりも緩慢である証拠-―――とろいともいう――――なのだが、今回ばかりはそんな自分の性質に感謝しつつ、一度立ち上がり閉じ込められはしたが平和になったダンスホールに視線を移す。
「いやあああぁ!? おいていかないでぇええ!」
「ですうううう!?」
ずりずりと俺の腰に掴まり引きずられるエリシアとミユキ。
「ええい!? ミユキはともかくエリシア!? 重いから自分で立て!?」
「重くないもん! エルフのみんなからは細身でいいわね! 軽そうでいいわねって言われてるもんんん!」
「仲間のエルフからも貧乳認定されてんじゃねえか!」
「貧乳じゃないもんん!!リューキのばかああー!」
そう言うとエリシアは抜けた腰が元の位置に落ち着いたのか、立ち上がると杖で俺の頭をポカポカ殴り始める。
あぁ、これならばまだ引きずってダンジョンの床掃除に使っていたほうがましだったかもしれん。
そんなことを思いながらも、俺は倒れている騎士二人……そして玉座の奥を覗いてみる。
先ほどから気になっていた、玉座の裏側だ。
薄汚れた垂れ幕がかかっているということはただの代わりではないし、実際爆風で何度かはためいていたことから奥がありそうに感じていたが。
俺は垂れ幕をくぐり、ランタンにて照らすと。
「……扉だ……」
そこには、少し奥に続く道があるのと同時に……ダンスホールの入り口に比べるとやけに小さな扉があることに気が付いた。
【異界の霧】 どこにつながっているかわからない、異界と現実世界が無理やりにつなげられた際に発生する霧。 入るたびに世界線が変わったり、バタフライエフェクトが起こったり、はたまた全くの異次元に飛ばされて帰ってこれなくなったりと、ろくなことがない。 見つけてもふれないが吉。。




