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第15話 季節の変わり目、それぞれの足音

あれから、どれくらいの時間が経っただろう。 大学の講義をこなし、児童養護施設のボランティアの帰り道、僕はいつものように夕暮れの公園へと足を向けていた。

季節は少しずつ進み、肌を刺すような冷たい風から、どこか温もりを含んだ穏やかな空気に変わりつつある。 あの母との激しい修羅場から、もう数ヶ月が経った。

最初は「自分のエゴなんじゃないか」「何もできない無力な自分が、この子に関わっていいのか」と、自室の暗闇の中で何度も絶望しかけた。 けれど、父の言葉に背中を押され、佐藤さんから現実的なアドバイスをもらったあの日から、僕の中で何かが確実に変わっていた。

すぐに大きな何者かになろうとするのではなく、まずは自分の足でしっかりと立ち、社会的な基盤をつくること。 甘えを捨てて目の前の現実と向き合い、泥臭く毎日を積み重ねるうちに、いつの間にか「俺」なんて軽口を叩いていた自分の視野が、少しだけ広くなっているのを感じる。

そして――。


「……お兄ちゃん」


公園のベンチ。 相変わらずボロボロのクマの人形を抱えているけれど、あの頃の怯えたような影はすっかり薄くなった結月が、僕の姿を見つけてふっと柔らかく微笑んだ。


「待たせたな、結月」


僕は隣に腰を下ろし、自販機で買ってきた紙パックのジュースを差し出す。 以前のように毎日ベタベタと会うわけではない。けれど、数日おきにこうして同じ時間を共有し、他愛のない話をする。その距離感こそが、今の僕たちにとって一番心地よく、確かな絆になっていた。

彼女はジュースを受け取り、ストローに口をつけながら、楽しそうに今日施設であった小さな出来事を話し始める。 その穏やかな横顔を見つめながら、僕は心の中で静かに誓う。

――いつか必ず、胸を張ってこの子の隣に立てる大人になってみせる。

それはもうエゴではない。僕が選んだ、まっすぐな現実だった。

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