↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/20

第12話 駅の改札、希望の光

父と交わした約束の翌日。

俺はいつものように大学の講義を終え、帰りの電車に乗るため、人が行き交う喧騒の駅構内を歩いていた。

ふと、前を歩く見覚えのある後ろ姿に目が留まる。 スーツジャケットに、見慣れた書類の入った封筒。ひまわり児童養護施設の職員・佐藤さんだった。


「……佐藤さん?」


声をかけると、佐藤さんは振り返り、驚いたように目を丸くした。


「あら、太陽くんじゃない。こんなところで奇遇ね学校終わり?」


「はい、大学の帰りです」


お互いに立ち止まり、気まずさと懐かしさが入り混じった空気が流れる。先日のこともあるし、なんと声をかけるべきか迷っていると、佐藤さんは柔らかな笑みを浮かべて駅の時計塔を見上げた。


「ちょうどよかったわ。もし時間があるなら、駅の近くの喫茶店でも入って、少しお茶でもしながらお話しないかしら?」


「……はい、ぜひお願いします」


俺がうなずくと、佐藤さんは「じゃあ行こうか」と優しくリードしてくれた。


駅前の静かな喫茶店のカウンター席。 湯気の立つブレンドコーヒーを前にして、俺は意を決して頭を下げた。


「あの……先日は、偉そうなことばかり言ってすみませんでした。その……結月ちゃんのことも、勢いだけで……」


謝罪の言葉を紡ぐ俺を、佐藤さんは穏やかな目で制するように手を挙げた。


「顔を上げてよ。君が本気で悩んで、傷ついて、それでも考えてくれたことは、あの子にとっても悪いことじゃないわよ」


その言葉に、胸のつかえが少しだけ降りた気がした。 佐藤さんはカップをコースターに置き、少しだけ真剣な表情になって俺を見た。


「実はね、太陽くん。君が来なくなってから……結月ちゃん、少しだけ変わったのよ。相変わらず口数は少ないけれど、あなたがいつも座っていた公園のベンチを、時々じっと見つめているの。『お兄ちゃん、また来るかな』って、言葉には出さないけれど、あの子の目がそう言っているような気がしてね」


「――っ」


心臓をぎゅっと掴まれたような衝撃が走った。 俺が自分のエゴに悩んで引きこもっている間に、あの小さな子は、あの場所でずっと待っていてくれたのか。胸の奥が熱くなり、居ても立ってもいられなくなった。


「佐藤さん……俺、もう一度、結月ちゃんに会いに行きます。それに、俺……この施設でボランティアとか、何かできることはありませんか? ここで働いたり、近くでサポートできれば、もっと……」


前のめりになる俺を見て、佐藤さんは少し困ったような、けれど優しい笑みを浮かべて首を横に振った。


「気持ちは嬉しいよ、太陽くん。でもね、今の君がいきなり施設の内部に入り込んだり、職員の真似事をしたりするのは少し違うと思うんだ。児童福祉の現場に関心を持つこと自体は素晴らしいことだけれどね」


「……どうしてですか?」


「あの子は今、ようやく君という『特別な存在』を見つけたところなの。そこに、もし中途半端な距離感のまま大人が入り込むようになったら、かえってあの子の心が混乱してしまうわ。それにね、太陽くん。将来的にもし、君が本気であの子の法的、あるいは社会的な支えになりたいと願うなら――

単なる一介のボランティアとしてではなく、もっと広い視野で福祉や社会の仕組みを学び、自分の足で社会的・経済的な基盤や実績を作る方が何倍も意味があるのよ」


「社会的・経済的な基盤、ですか……」


「えぇ。例えば、他の地域での社会経験を積むことや、生活の基盤をしっかり固めること。君自身が社会的に自立した大人として信用を得ることが、ゆくゆく法的な手続きや審査を進めるときの一番の強みになる。だから、今すぐこの施設に縛られる必要はないんじゃないかしら。むしろ、別の場所でしっかりと自分の足場固めをしてごらん?」


佐藤さんの言葉は、優しかったけれど、児童福祉の制度や現実をよく知るプロとしての重みがあった。


(別の場所で、自分の足場固めを……)


勢いだけでどうにかしようとしていた自分の未熟さが恥ずかしくなるのと同時に、自分がこれから進むべき道筋が少しだけ見えた気がした。


「……はい。……分かりました」


俺がぐっと拳を握りしめてうなずくと、佐藤さんは「でもね」と優しく付け加えた。


「公式なボランティアや職員としてではなく、これまで通り、たまに夕方の公園に顔を出して、一人の『お兄ちゃん』として少しずつ時間を共にしてあげることはできるんじゃない?それに、君が外の世界でしっかり頑張っている姿は、きっとあの子にとっても誇らしいものになるわよ」


その言葉を聞いて、視界が一気に開けた気がした。 大きな魔法なんて使えなくてもいい。急に何者かになろうとしなくていい。 ただあの場所へ行き、結月の隣に座って、同じジュースを飲む――それだけでいいんだ。


「……はい! ありがとうございます、佐藤さん!」


窓の外の夕暮れが、昨日までよりも少しだけ明るく見えた。

ご覧いただきありがとうございます!

もし面白いと思っていただけたら、下部の評価(★)やリアクションをしていただけると励みになります!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。