↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/52

1.仲間はずれ

 親睦戦を終えて季節は11月を迎えていた。

 雨の多い地域のせいか地面の濡れる日が多く、川から風が吹くたび冷たさが流れ込んでくる。学校の堅牢な外壁はそれらを凌いでくれているが、それでも寒いものは寒い。


「――うし、湯の温度はいいな。おーい、部屋の温度をもうちょい上げてくれー」


 エルマが声をかけると、クラスメイトが通気口の蓋を広げる。

 炉で薪を燃やしたその温風を、壁や床下の通気口(チャンネル)を通して送り込む構造で、しばらくすると暖かな空気が部屋に流れ込んでくる。

 それを確かめてから、エルマは傍に置いた赤ん坊――の人形を抱いて、用意した湯の中に浸けてやった。 


「お、気持ちいーかー? そかそか!」


 にんまり笑って湯を掬い、身体にかけてゆく。

 目や口など各パーツが可動する訓練用の人形だ。首の後ろに添えた手の位置や温度が適していなければ反応せず、クラスメイトたちの誰もが悪戦苦闘する中で、エルマのだけはパッチリと口まで開いている。

 人形でも身体を冷やさないように。

 手早く洗ってから、さっとタオルで包んで服を着替えさせる。


【乳幼児の世話 +300ポイント】


 すべてを終えるとエルマに得点が入った。


「流石、一日の長がありますな。私の方は全然であります」

「湯が熱すぎんだよ。赤ん坊の肌は薄いんだ、大人の『ちょうどいい』だと熱すぎるし火傷しちまう」

「そうでありますか? 手でぬるめを感じる温度でしたが」

「指や手の平で計ったろ。手首や肘の内側で見るんだよ、手だと感覚鈍いから」


 ほう、とクロエが実行する。「確かに、私にちょうどいい湯加減であります」


「孤児院でも赤ん坊の世話をしていたでありますか?」

「おう、やったぞ。おっぱいもあげたぜ」


 感心するクロエの横で、のんびりした明るい声がした。


「わあ、私も出来ましたあ」

「お、ソフィアも終わったのか。やるじゃん」

「はいー。私、お人形のお世話好きなんです」


 いや訓練……と隣でヴィヴィアンが呆れる。

 ソフィアは長身でおっとりした性格だが、それが彼女の母性を引き立てている。大事そうに抱っこする様子は、人形であれど赤ん坊が心地よさそうに見えた。

 訓練はチーム単位や2、3人で1組でおこなわれる。

 みなが四苦八苦している中で、部屋の隅で一人、モタモタと苦戦している人物がいた。エレノアである。


「うわっ、うわわわっ!?」

「おっと」


 エレノアは手を滑らせ、たらいから落としそうになった赤ん坊の人形を、エルマが両手でキャッチした。


「気をつけろ。これが本物だったらシャレになってねえぞ」

「ご、ごめん……」

「余計なとこに力入れすぎなんだよ。自分が体重を預けられる存在で、それを受け止める緊張は分かるけど、だからこそ支えになる意識が大事なんだ。自分がこいつのベッドになるんだってな」

「わかった」


 エレノアは再び真剣な表情で向き合う。

 彼女の周りには誰もいない。それは親睦戦にて判明した『病気にかかる』という能力により、いつどこで伝染(うつ)るかと警戒されているからである。

 本人の意思で制御しきれていないのも理由だ。

 軽い風邪でも重篤にいたる赤ん坊は尚のこと、その名を〈ホームシック〉とした能力は、大人でも病に至らしめる。メイドとしても致命的であるゆえに、肩に力が入るのも無理はなかった。

 教室でもひとりぼっちになった彼女に、エルマは『何とかしてやりたいが……』と思うも手立てが見つからない。

 こうして喋っても会話が続かず、言いたいことを言い終えると、後味の悪さを残して去るしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。