8.チーム結成
間を置かず、終了を告げる鐘が鳴り渡った。
ポイントがダメージを代受するシステムのおかげで、クラスメイトに怪我らしい怪我はないようだ。ただ一人……カトリーヌを除いては。
「まっさか、高慢ちきも能力持ってたなんてなあ。しかも鉄砲とか凄えじゃねえか」
「私に出来ないことはなくってよ」
ほほほ、リリーは口に手をやって高笑いを浮かべる。
能力は最初から決めていたらしい。
使用するのはボルトアクション式の小銃だ。軍隊でも長く使われてきた型だが、倉装弾式や連射式に代わられた現在では時代が古い。入学時に私物として持ち込んだが、その際に『弾がなければ』という条件がつけられたらしい。
彼女の〈シューター〉は、ポイントを使用した空気弾を射出する。実にリリーらしい解決方法と呼べた。
「能力で人を撃ったのは初めてですが、申し分のない威力でしたわ」
「実弾では撃ったことあんのかよ」
「ありますわよ。暴動を起こした領民から脱出する馬車で5人ほど、姉たちは使い物になりませんでしたし」
「苦労してんだなお前も」
「ふふふ……あれだけ世話してやった我々に、仇で返した連中……これでようやく、全員ぶち殺せますわ……ふふ……ふふふふ……!」
「威力は強烈だけどよ、ポイントの消費デカすぎやしねえか? 500ポイント丸ごと減ったろ」
カトリーヌは今ごろ医務室で唸っていることだろう。
裏切りの代償は高くついたが、リリーもまた【27/527ポイント】と大きく減らしている。
「……弾って思ったより高いんですのよ」
遠くを見つめるリリーに、全員が『ああ……』と納得の表情を浮かべた。
◇ ◇ ◇
親睦戦を終えて、みな食堂に集められている。
長いテーブルに1人を除く新入生が座り、お互いに戦った状況や恨み言など、バークルが現れるまで感想戦は止まない。
その席にはヴィヴィアンもいた。
彼女の見立て通り症状は軽く、医務室で治療を受けただけで回復したらしい。
「――みなさん、本日の親睦戦お疲れさまでした。能力の使い方、実際に相手を置いて対峙した時の状況など多くを知れたことでしょう。まだ不明な点もあるでしょうが、今日をもってオリエンテーション期間を終了とし、あとは各々の訓練で学び得てください」
授業としての説明は終了らしい。
バークルが手を広げると、外に待機していたらしい上級生たちがトレイを押して入ってきた。
「今夜は大いに羽を休め、明日の英気を養ってください」
トレイにはパスタや焼いたチキンなど、打ち上げに相応しい食事が載せられていた。
感謝祭ぐらいしかお目にかかれない料理だ。どれも出来たてで香ばしい香りにエルマは涎を垂らし、テーブルに乗せられる皿を眺めながら、何から食べようか目を移動させる。
そこに、隣に座るクロエがヒソヒソと顔を寄せてきた。
『エルマさん、先輩の動きを見ておくであります。完璧な所作であります』
『それがどうしたんだよ。上級生なら当然だろ?』
『我々も来年には、その当然が求められるであります』
確かに所作はテキパキと確実だ。
目を合わせず、衣擦れを立てないほど静かに手早く、並べる皿の位置はすべてミリ単位で正確に……授業で教わった殆どを完璧にこなし、屋敷の家族に提供するメイドそのものの動きである。
想像するだけで出来る気がしない。
「では、グラスを手に」
机に置かれたグラスにブドウ酒が注がれ、みなそれを手にする。
「皆さんのこれからの栄光を祈って――乾杯!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
グラスを掲げ、宴が始まった。
みな待ちかねたように料理に飛びつき、舌鼓をうつ。エルマも「美味え、美味え」と、ムシャムシャ、ガツガツと食らいつく。
今日ばかりは無礼講で、作法を忘れても何も言われないようだ。
「食事をしながら聞いてください。オリエンテーションの終了により、明日から施設はこれまで通りのようには使えず、各々がメイドポイントを使っての解放となります。今回は親睦戦を終えた特別ポイントとして、クラスに100ポイント50人分――5,000ポイントを与えます」
足りないと危惧していたポイントが付与され、ワッと湧いた。
「これでどれを解放するか、残ったポイントは各人に均等に割り振ります」
話し合いはさほど揉めることはなかった。
とりあえず必要最低限な風呂と食堂、キッチンの施設を開放。残りは全体で必要になった時にと1,000ポイントはクラス用にキープ。残る2,500ポイントを50人に分配して、それぞれが50ポイントを得ることにした。
「あら、今年は堅実ですね」
バークルが微笑むと各施設の使用手続きを行ってゆく。
教師に与えられる能力か、その場で項目を表示して解放してゆくようだ。
「あれが〈ハウスキーパー〉の能力でありますか」
「何だそれ?」
「学校が持つ能力との噂であります。ポイントの付与や管理など学校機能すべて」
「おいおい、そいつ無敵じゃん! ……あれ、でもそれ校長じゃねえの?」
「どうやら違うであります。教師たちはその使用権限が与えられているだけで、校長は初代から変わっておらず、実は魔女ではないかとか」
「なら学校ごとオバケってことか?」
能力の付与も、もしかすると本当に魔女によるものかもしれない。
「さて、今回の親睦戦で組んだチームは暫定ですが、これと変更がなければこのままでゆきます。入れ替えなどは自由ですが、チームポイントは均等に分けられるので注意してください」
「エルマさん、我々のチームに入るでありますか? カトリーヌのだまし討ちでフリー状態のままですし、前衛向きのエルマさんがいればいい組み合わせと思うのです」
「んー、そうだな……チームのが色々便利そうだし、そうすっか!」
よろしくであります、と手を差し出す。
これが加入の印なのだろうか、エルマはそれをぐっと握った。
「それと授業での加点、減点はこれまで通りクラスからも引かれますので」
その横で、バークルは明らかにこちらを向きながら言う。
(……ってことは)
エルマはそっと周囲を窺った。
やはり全員の目がこちらを向いていた。
――減点喰らったら全員で張り倒すぞ
そんな殺意が伝わってくる。
「わー、料理おいちー」
エルマは皆の目を見ないよう、皿を向いて黙々と食べるしか出来なかった。




