12.大掃除始めます!
ヴィヴィアンの操縦テクニックは凄まじく、右に左に、タイヤから煙をあげながら猛スピードでギャングとチェイスする。
飛び交う銃弾を避け、リリーは後部座席から銃を撃ちまくる。これを次々と車を吹き飛ばし、撃破させていった。
「いやはや、壮絶でありますな」
クロエの操縦する車は、真っ直ぐに敵本陣へ。
そこは港に面した倉庫街である。外をうろつく連中はみなヴィヴィアンの車に集められたのか、こちらのルートは見張りの歩哨すらおらず、目的地まで悠々だった。
「ソフィア、周囲に敵がいるでありますか?」
「いませんねえ。あそこの明かりのある倉庫にいる人で全員です」
ソフィアは明々とライトが灯る大きな倉庫を指さした。
そこは中央管制室となる港湾事務所で、硬く閉ざした木製ゲートの前を黒服の男たちが銃を携えて立っている。
「みんな焦っているようです」
「学校への襲撃失敗に、報復に拠点が急襲されてからのカチコミでありますからな。無理もない」
みな狼狽えきっている。
それはエルマが見てもはっきりと分かった。
「捕まったガキどもは分かるか?」
「倉庫の地下にいます。あとは離れた倉庫にも」
ソフィアはぐるりと見渡したのち、正面を向き直る。
「近く、捕まえた子供を船で届けるつもりだったようです。中にいる偉そうな人がそう叫んで、指示してます」
「敵の数は?」
「36人ですねえ」
「それっぽっちか」
エルマは負ける気がしなかった。
「待ってろサムエル。すぐ助けてやるからな」
「それじゃあ、突っ込むでありますよ!」
クロエがアクセルを踏み込む。
【エルマ DEFENSE MODE ∞/0】
【クロエ・ミルズ DEFENSE MODE ∞/0】
【ソフィア DEFENSE MODE ∞/0】
現れた車に、警護していたギャングは棒立ちだった。
鉄の塊はそれらを容赦なく弾き飛ばし、閉ざしたゲートを突き破る。そこは木箱を積み上げた倉庫で、黒服に身を包んだ男たちが唖然と見つめていた。
車のフロントはひしゃげ、パラパラと散った木片を浴びながら、三人のメイドが降りてくる。
「メイド……あの学校の連中か!」
「おうよ。やったらやり返されるのは、てめえらの世界でもあんだろ。待ってんのも退屈だからよ、こっちから礼をしにきてやったぜ」
「しゃらくせえ!」
ギャングどもは躊躇せず、ピストルを抜いてこれを撃った。
倉庫の中は、たちまち硝煙に見えなくなった。吊り下げられたランプの明かりが、もやの中で明々と照るばかり。
ガキどもは死んだか。
撃ち尽くした弾を補充してから、足を前へと踏み出す。だが直後、煙に浮かぶ影を見て、踵へ体重を乗せた。
「!?」
銃弾が命中してるはずなのに、傷一つ負っていない――。
硝煙の煙からナイフが裂いて飛び、短い呻きにギャングの一人が倒れた。
「撃て、撃てェーッ!!」
ピストルの引き金を引いて確実に命中させるものの、誰も倒れない。
「――ハック完了です!」
ソフィアが構え、揮う腕の指先から無数の糸を踊らせる。
明かりを受けてきらりと瞬くそれに、ギャングの目が追ったが最後、一瞬のその隙に真横から飛来してきた木箱に頭を叩きつけられる。
「オレはガキどもを助けに行くぞ」
「私は二階に用が。ここは任せるであります」
「はい。任されました!」
エルマとクロエはそれぞれ逆方向に。
倉庫の奥と二階へと向かう。
「みんなのためです」
【ソフィア/ドール SAVAGE MODE ∞/0】
ソフィアの口元が緩んだその瞬間、ピストルが鳴った。
ギャングではない。クロエの投げナイフに首を刺され、息絶えたギャングがピストルからだ。
硝煙をくゆらせた行く先は仲間の腕であり、彼らは理解不能な目を向けつつピストルを落とした。
だが理解出来ないのはここからだ……。
撃たれたその者は、腕が自分の意思とは関係なく、ぎゅるっと己の首を掴んだのである。
「おい、どうした!?」
「が……が……!?」
無事な仲間が駆け寄ろうとするものの、シィッと息を裂いたソフィアが腕を揮っていた。
「な゛――ッ!?」
荷揚げ用のワイヤークレーンが迫っていた。
フックは鋭く、鈍い音を立てて男の顔を貫くと、そのまま宙に吊される。
「な、なんだ……何なんだこいつは!?」
「人形……? よく見たらこいつ、人形だぞ!?」
「フフフ……」
見せしめには充分すぎた。
ピストルは効かない。相手は人の形をした“人形”……微笑む唇に冷たい瞳が、児戯の相手を選んでいる。
「死んだらオモチャ――」
人ならざる声が響けば、どれだけ修羅場をくぐり抜けた者でも恐怖し、何もかも捨てて逃げだそうとした。
「さア、たっぷり愉しみまショウ」
だが木箱が動き、扉が閉ざされる。
恐怖に顔を歪めた彼ら。伸ばすソフィアの手が、次の遊び相手を選びはじめた――。
◇ ◇ ◇
(人でなしと、人ならざる……あれは本当、説明のつかない化け物でありますな……)
下階層で繰り広げられる惨劇を傍目に、クロエはナイフを構えて走った。
「――ッ、せいッ!」
一瞬で間合いを詰め、敵の腕から脚、首を切り裂く。
新たに現れたのは四人。通常ならリスクが大きく、特に体格にはあまり恵まれていない自分では勝ち目が薄い。
しかし、今の自分には友の助力がある。
ダメージはポイントが受け、服ですら鉄を纏っているように堅い。 クロエは間髪入れず攻撃を仕掛ける相手に、目を光らせる〈フラッシュライト〉を浴びせ、強光に眩んだ隙に、次々と刃を突き立てた。
(やはりポイントの大きさによって、光量がかなり変わるのか)
能力の威力も凄まじく上昇している。
至近距離で浴びれば失明し、高速で瞬きをすれば意識を飛ばせられるだろう。
「このアマァッ!」
「おや、女の構成員とは珍しい」
背後からナイフを伸ばすのは女ギャングだった。
クロエは難なく身体をひねってかわし、裏肘を顔面に入れ、その流れで脚を回して大外刈りに地面に叩きつける。
受け身がとれず頭をぶつけて意識が飛んだが、両膝に挟んで腰をひねり、女の首をへし折った。
「スカートを穿いて家いれば、死ぬこともなかったのに」
次に立ちはだかるのは大男だ。
ボクシングの動きで左に薙ぐようなパンチを繰り出し、慌てて後ろに飛びすさった。
「このチビ、殺してやる……!」
「生身だったらチビってるかもね」
男の拳にはメリケンサックが嵌められていて、振り抜く拳に風圧があった。
図体の割に攻撃はストイックで、なのに筋肉は鋼の鎧のように硬く、ナイフで切りつけるのも牽制に近い攻撃になってしまう。
(まったく……好きな男のタイプだけど)
敵だから倒さなきゃいけない。
難儀だなとクロエは思いつつ、男の右ストレートを横から押すようにいなしながら懐に潜り込み、その場に倒れるよう、軸足にしている左足の甲にナイフを突き立てた。
「ぬ、ぐゥゥゥゥゥーッ!?」
男の動きが止まった。
クロエはすぐさま〈フラッシュライト〉で目を潰し、相手の右腕を取って、肩車するように両脚を首に入れた。
「ッ……が……が……ッ……ッ」
「女の股で死ねるのって最高でしょ」
三角締めである。
男の腕は使い物にならず、ギリギリと締め上げる脚に為す術もない。あっという間に力を失って息絶えた。
(さて、ここからが大事――)
クロエは車を降りてからカバンを提げており、二階の戦闘時に置いていたそれを拾うと、奥にある隣の部屋への扉をくぐる。
そこはギャングの待機所のようだ。
乱雑に積み上げられた武器類の木箱をひっくり返し、ロッカーの戸を開けたまま。だが目的は次の部屋だ。
「おっとと、これはこれは」
ケースに隙間無く収められた金塊。それと札束。
書類のようなものまで、小さな部屋にずらりと並べられてあった。
「おー、これはマックモンド家の書状。こちらはベイラー家からの“ご融資”。おやおやおやおやおや、公になれば大変な証拠がいっぱい。まあ公表すると知らぬ存ぜぬで、貴族の得意な言い逃れをしてきましょうが」
クロエはありったけの書類をカバンに詰め込み、
「――いるか?」
と、壁を叩いた。
『はッ――“小さき巨人に”』
「“子どもたち”――証拠を手に入れたので、持っていって」
『承知。奥方には何と?』
「片付いたら父と旅行でもしてきたら、とでも言っておいて」
『は――ッ』
クロエはカバンからボトルポーチを取り出すと、黒い粉の入った瓶――中は火薬のそれを壁に撒いて、小さな穴をあけた。
向こうには誰もいない。しかしそこにカバンを滑らせると、民間人の恰好をした男が現れ、持ち去っていった。
「あー、やれやれ……」
ポーチには油の入った瓶もある。
札束や床にそれをたっぷり撒いて、火をつけた。
「これにて任務完了であります!」
クロエはビシッと敬礼をしてから、ニッと笑みを浮かべ、燃えさかりだした炎を背に部屋を後にした――。




