↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/52

12.大掃除始めます!

 ヴィヴィアンの操縦テクニックは凄まじく、右に左に、タイヤから煙をあげながら猛スピードでギャングとチェイスする。

 飛び交う銃弾を避け、リリーは後部座席から銃を撃ちまくる。これを次々と車を吹き飛ばし、撃破させていった。


「いやはや、壮絶でありますな」


 クロエの操縦する車は、真っ直ぐに敵本陣へ。

 そこは港に面した倉庫街である。外をうろつく連中はみなヴィヴィアンの車に集められたのか、こちらのルートは見張りの歩哨すらおらず、目的地まで悠々だった。


「ソフィア、周囲に敵がいるでありますか?」

「いませんねえ。あそこの明かりのある倉庫にいる人で全員です」


 ソフィアは明々とライトが灯る大きな倉庫を指さした。

 そこは中央管制室となる港湾事務所で、硬く閉ざした木製ゲートの前を黒服の男たちが銃を携えて立っている。

 

「みんな焦っているようです」

「学校への襲撃失敗に、報復に拠点が急襲されてからのカチコミでありますからな。無理もない」


 みな狼狽えきっている。

 それはエルマが見てもはっきりと分かった。


「捕まったガキどもは分かるか?」

「倉庫の地下にいます。あとは離れた倉庫にも」


 ソフィアはぐるりと見渡したのち、正面を向き直る。


「近く、捕まえた子供を船で届けるつもりだったようです。中にいる偉そうな人がそう叫んで、指示してます」

「敵の数は?」

「36人ですねえ」

「それっぽっちか」


 エルマは負ける気がしなかった。


「待ってろサムエル。すぐ助けてやるからな」

「それじゃあ、突っ込むでありますよ!」


 クロエがアクセルを踏み込む。


【エルマ DEFENSE MODE ∞/0】

【クロエ・ミルズ DEFENSE MODE ∞/0】

【ソフィア DEFENSE MODE ∞/0】


 現れた車に、警護していたギャングは棒立ちだった。

 鉄の塊はそれらを容赦なく弾き飛ばし、閉ざしたゲートを突き破る。そこは木箱を積み上げた倉庫で、黒服に身を包んだ男たちが唖然と見つめていた。

 車のフロントはひしゃげ、パラパラと散った木片を浴びながら、三人のメイドが降りてくる。


「メイド……あの学校の連中か!」

「おうよ。やったらやり返されるのは、てめえらの世界でもあんだろ。待ってんのも退屈だからよ、こっちから礼をしにきてやったぜ」

「しゃらくせえ!」


 ギャングどもは躊躇せず、ピストルを抜いてこれを撃った。

 倉庫の中は、たちまち硝煙に見えなくなった。吊り下げられたランプの明かりが、もやの中で明々と照るばかり。

 ガキどもは死んだか。

 撃ち尽くした弾を補充してから、足を前へと踏み出す。だが直後、煙に浮かぶ影を見て、踵(かかと)へ体重を乗せた。


「!?」


 銃弾が命中してるはずなのに、傷一つ負っていない――。

 硝煙の煙からナイフが裂いて飛び、短い呻きにギャングの一人が倒れた。


「撃て、撃てェーッ!!」


 ピストルの引き金を引いて確実に命中させるものの、誰も倒れない。


「――ハック完了です!」


 ソフィアが構え、揮う腕の指先から無数の糸を踊らせる。

 明かりを受けてきらりと瞬くそれに、ギャングの目が追ったが最後、一瞬のその隙に真横から飛来してきた木箱に頭を叩きつけられる。


「オレはガキどもを助けに行くぞ」

「私は二階に用が。ここは任せるであります」

「はい。任されました!」


 エルマとクロエはそれぞれ逆方向に。

 倉庫の奥と二階へと向かう。


「みんなのためです」


【ソフィア/ドール SAVAGE MODE ∞/0】


 ソフィアの口元が緩んだその瞬間、ピストルが鳴った。

 ギャングではない。クロエの投げナイフに首を刺され、息絶えたギャングがピストルからだ。

 硝煙をくゆらせた行く先は仲間の腕であり、彼らは理解不能な目を向けつつピストルを落とした。

 だが理解出来ないのはここからだ……。

 撃たれたその者は、腕が自分の意思とは関係なく、ぎゅるっと己の首を掴んだのである。


「おい、どうした!?」

「が……が……!?」


 無事な仲間が駆け寄ろうとするものの、シィッと息を裂いたソフィアが腕を揮っていた。


「な゛――ッ!?」


 荷揚げ用のワイヤークレーンが迫っていた。

 フックは鋭く、鈍い音を立てて男の顔を貫くと、そのまま宙に吊される。


「な、なんだ……何なんだこいつは!?」

「人形……? よく見たらこいつ、人形だぞ!?」

「フフフ……」


 見せしめには充分すぎた。

 ピストルは効かない。相手は人の形をした“人形”……微笑む唇に冷たい瞳が、児戯の相手を選んでいる。


「死んだらオモチャ――」


 人ならざる声が響けば、どれだけ修羅場をくぐり抜けた者でも恐怖し、何もかも捨てて逃げだそうとした。


「さア、たっぷり愉しみまショウ」


 だが木箱が動き、扉が閉ざされる。

 恐怖に顔を歪めた彼ら。伸ばすソフィアの手が、次の遊び相手を選びはじめた――。


 ◇ ◇ ◇


(人でなしと、人ならざる……あれは本当、説明のつかない化け物でありますな……)


 下階層で繰り広げられる惨劇を傍目に、クロエはナイフを構えて走った。


「――ッ、せいッ!」


 一瞬で間合いを詰め、敵の腕から脚、首を切り裂く。

 新たに現れたのは四人。通常ならリスクが大きく、特に体格にはあまり恵まれていない自分では勝ち目が薄い。

 しかし、今の自分には友の助力がある。

 ダメージはポイントが受け、服ですら鉄を纏っているように堅い。 クロエは間髪入れず攻撃を仕掛ける相手に、目を光らせる〈フラッシュライト〉を浴びせ、強光に眩んだ隙に、次々と刃を突き立てた。


(やはりポイントの大きさによって、光量がかなり変わるのか)


 能力の威力も凄まじく上昇している。

 至近距離で浴びれば失明し、高速で瞬きをすれば意識を飛ばせられるだろう。


「このアマァッ!」

「おや、女の構成員とは珍しい」


 背後からナイフを伸ばすのは女ギャングだった。

 クロエは難なく身体をひねってかわし、裏肘を顔面に入れ、その流れで脚を回して大外刈りに地面に叩きつける。

 受け身がとれず頭をぶつけて意識が飛んだが、両膝に挟んで腰をひねり、女の首をへし折った。


「スカートを穿いて家いれば、死ぬこともなかったのに」


 次に立ちはだかるのは大男だ。

 ボクシングの動きで左に薙ぐようなパンチを繰り出し、慌てて後ろに飛びすさった。


「このチビ、殺してやる……!」

「生(・)身(・)だったらチビってるかもね」


 男の拳にはメリケンサックが嵌められていて、振り抜く拳に風圧があった。

 図体の割に攻撃はストイックで、なのに筋肉は鋼の鎧のように硬く、ナイフで切りつけるのも牽制に近い攻撃になってしまう。


(まったく……好きな男のタイプだけど)


 敵だから倒さなきゃいけない。

 難儀だなとクロエは思いつつ、男の右ストレートを横から押すようにい(・)な(・)し(・)ながら懐に潜り込み、その場に倒れるよう、軸足にしている左足の甲にナイフを突き立てた。


「ぬ、ぐゥゥゥゥゥーッ!?」


 男の動きが止まった。

 クロエはすぐさま〈フラッシュライト〉で目を潰し、相手の右腕を取って、肩車するように両脚を首に入れた。


「ッ……が……が……ッ……ッ」

「女の股で死ねるのって最高でしょ」


 三角締めである。

 男の腕は使い物にならず、ギリギリと締め上げる脚に為す術もない。あっという間に力を失って息絶えた。


(さて、ここからが大事――)


 クロエは車を降りてからカバンを提げており、二階の戦闘時に置いていたそれを拾うと、奥にある隣の部屋への扉をくぐる。

 そこはギャングの待機所のようだ。

 乱雑に積み上げられた武器類の木箱をひっくり返し、ロッカーの戸を開けたまま。だが目的は次の部屋だ。


「おっとと、これはこれは」


 ケースに隙間無く収められた金塊。それと札束。

 書類のようなものまで、小さな部屋にずらりと並べられてあった。


「おー、これはマックモンド家の書状。こちらはベイラー家からの“ご融資”。おやおやおやおやおや、公になれば大変な証拠がいっぱい。まあ公表すると知らぬ存ぜぬで、貴族の得意な言い逃れをしてきましょうが」


 クロエはありったけの書類をカバンに詰め込み、


「――いるか?」


 と、壁を叩いた。


『はッ――“小さき巨人に”』

「“子どもたち”――証拠を手に入れたので、持っていって」

『承知。奥方には何と?』

「片付いたら父と旅行でもしてきたら、とでも言っておいて」

『は――ッ』


 クロエはカバンからボトルポーチを取り出すと、黒い粉の入った瓶――中は火薬のそれを壁に撒いて、小さな穴をあけた。

 向こうには誰もいない。しかしそこにカバンを滑らせると、民間人の恰好をした男が現れ、持ち去っていった。


「あー、やれやれ……」


 ポーチには油の入った瓶もある。

 札束や床にそれをたっぷり撒いて、火をつけた。


「これにて任務完了であります!」


 クロエはビシッと敬礼をしてから、ニッと笑みを浮かべ、燃えさかりだした炎を背に部屋を後にした――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。