11.悪人は種は尽きず、これをハジく弾も尽きず
車は二台、どちらも天井のないオープン式だ。蒸気で走る最新式で、エンジンはすでに温められてある。
一台はヴィヴィアンがハンドルを握り、リリーが乗り込む。もう一台はクロエがハンドルを握り、エルマとソフィアがこれに続いた。
「ヴィヴィアンは、車の運転もできたのでありますな」
「ううん。説明書を読んだら割といけそうだったから」
「……じゃあ、うちらは先に行くであります」
クロエがアクセルを踏むと、後ろから『私もあっちに乗りますわ!?』と、リリーの悲鳴が聞こえてきた。
きっとヴィヴィアンのジョークなのだろう。最初は少しフラついたものの、すぐにクロエと平行して走りだした。
「速いもんだなー」
「うちでカスタムした次世代型であります。馬車の時代は遠からず終わり、個人が車を持つようになりますよ」
「これなら荷物もたくさん積めそうですー」
灰色の町を流れてゆくさまは注目を浴びた。
それでなくてもメイド服を着た少女たちが、車という場違いなものを運転しているのだ。
おかげで、みなの顔にもどことなく得意が浮かんでいる。
「クロエ。地図を見るに、連中のたまり場であるパプが道中にありますわね」
「どうするでありますか。無視しても警察隊が行きますが」
「貴女たちは先を行きなさい。私たちは名代として挨拶をしてから、外で連中を引きつけますわ」
了解であります、とクロエは唇を舐めてハンドルを切った。
「お前ら気をつけろよー!」
ヴィヴィアンとリリーが手を掲げて応じると、クロエは車の速度をあげて道をどんどん突き進んだ。
◇ ◇ ◇
クロエたちと別れてからしばらく。
ヴィヴィアンの運転する車は、クレイルという町で停止した。
「我々のウィルブスの町に比べると落ち着いてますわね」
「初めてきたけど、割と人通りが多いね」
日暮れに差し掛かっても人通りは多い。
しかしある一画に入った途端、人の気配がはたと消えた。代わりに物々しい雰囲気の酒場が、周囲を威圧するように橙明かりを照らしている。
「どなたかー、どなたかいらっしゃりますかー?」
リリーが両手を輪にして呼ぶと、酒場の中にいた男が顔を覗かせた。
「どうした、道でも迷ったか?」
「もう遅いからよ、ここで休んでけよ。天国だぜぇ」
それが蒸気の車に乗った若いメイドだと気づくと、たちまち好奇と好色に目をやに下げ、ニタニタと笑みを浮かべて歩み出てきた。
世間知らずな良家のメイドでも思ったのだろう。興味しげしげ、中から人相の悪いのが集まってくる。
「それもいいですわね」
リリーが言うと、おー、おー、と、下卑にどよめく。
「じゃあ中に――」
「ですが、申し訳ありません。時間が無くて急ぎますゆえ、これでご容赦下さいまし」
リリーは鷹揚に言うと、機関銃を持ち上げた。
男たちはしばらく間を置いて、それが銃だと気づくや、引きつった息を吐いて驚愕の表情を浮かべた。
「おーっほっほっほっほッッ!!」
「ぐああああああああああーッ!?」
絶え間なく続く激しい銃声。それはまるで布に針を刺してゆくミシンのよう。
激しい振動を伴い、ダラララララララと射出された弾があらゆるものを粉砕し、人間の身体ですら容易く穴まみれとなってゆく。
「いいなあ、うちの組合にも導入しようかな」
「是非そうなさいまし! 地獄へのチケットよりどりみどり、遠慮はいりませんことよー!」
弾は永遠かとばかりだ。
それもそのはずで、
【リリー・ハートウェル ∞/0】
能力の〈シューター〉により、いくら使っても弾切れがないのだ。
店内に人の気配がなくなるまで銃声は続き、最後は大量のリンゴが放り込まれると、
「おつりは不要ですわ」
建物は天井が抜けるほどの大爆発を起こした。
それを見て、ヴィヴィアンはアクセルをべた踏みする。
「さあ――このまま敵陣で暴れますわよ!」
「おうさあ!!」
クラーケン・イルの町は目と鼻の先だ。
その町はギャングに支配されているのだろう。入り口から彼らのと思われる車がずらり、並んでいる。
「わりゃら、ぶっ潰してやるけえッ!! 往生せえやぁッ!!」
こうなると、ヴィヴィアンも滾らざるを得ない。
リリーは目に付くものから銃弾を撃ち込むと、彼らは目を血走らせて車に乗り込み、これを追いかけてきた。




