9.それは人の形をした……
「――遠路はるばるよく来なすった」
村に到着すると、ヒゲがもみ上げまで繋がった初老の男が駆けつけてきた。
ソフィアの父だ。事前に葬儀のていで向かうと連絡していたからか、恰好は白いシャツに黒のパンツな装いをしていた。
「まずは家へ。そこで疲れを取ってくだされ」
ヴィヴィアンの馬は村の奥へと進み、放牧場のある家の前で駐められたところ、そこから子供たちがぞろぞろと現れた。
男が3人と女2人、年齢は上が9歳で下が3歳といったところ。エルマたちが降りると、みな表情を明るく両手を広げた。
「ようこそー!」「よこそー!」
「はははっ、ありがとうよ。でもオレたちより、姉ちゃんを歓迎しないと悲しむぞー」
エルマが馬車に目をやると、
「オネエチャン、イナイヨ」「オネエチャン、ニンゲンダヨ」
「そ、そうか……」
『もー、ちゃんといますよーっ! 早く開けてくださいーっ!』
子供たちの中に、何らかの“言い聞かせ”があるのだろう……。
どこか洗脳めいた目に、エルマたちは同情するしか出来なかった。
◇ ◇ ◇
子供たちは慣れた動作で厩舎へと馬を連れてゆく。
その間に、ソフィアが入った棺を家に運んだ。賊の検問があるからフリをしただけであるのに、何故か中でも葬儀の準備が整えられてあった。
中に入ったことに気づいたか、板張りの床に置かれたなり棺に打ちつけられていた釘がみずから浮き、蓋が開いた。
「はーっ、息苦しかったですう……」
「おお、ソフィア……」「元気だったかい……」
父母は娘との再会を喜び、優しい包容で迎えた。
「こんな帰宅になって申し訳ありません……」
「いいんだ、それは前の帰宅で済ませたから」「もう受け入れたよ」
「んん?」
ソフィアは首をかしげる。
それをエルマたちは慌てて誤魔化した。
「しかし、どうして本当に葬儀にしたでありますか」
クロエが両親に訊ねる。
すると両親は困った表情を向けあい、肩を落とした。
「おらたちの村を、北方教会で管理すると言われてなあ……」
「助け合いだ、信仰があるならと食糧をよこすように言ってきたんだよ……」
娘の葬儀があるから、今はそれどころではない。
村をあげて弔うのだ。
父親は咄嗟にそう述べて、話を先延ばしにしたと話す。
「北方教会って、うちは教会はあっても関係ないはずです!」
聞くなりソフィアは、ムッと口を曲げて感情を露わにした。
「そうなんだけど領主様が決めたことでね。村長が確かめに行けば、不本意そうにしながら確かだと言われたんでよ」
ふむ、とクロエは顎に指をかけてムニムニと揉んだ。
「つまりは……検問していたのはその領主の兵でありますな」
「まさか!?」
クロエの父は目を大きく開いた。
「賊ではないというのですか!?」
これにリリーが言葉を継いだ。
「断定はしかねますが、あれは間違いなく貴族の類いでしてよ」
「んなはず……領主様がそんな……」
エルマはまったく話が見えない。
置いてけぼりを食らうのに耐えかね、おいと唇を尖らせながら割り入った。
「何だよさっきから。教会だとか何とか」
「北方教会は、この国の北部にある比較的新しい組織ですの。規模はそこまでですけど、まあアコギですわね。そして、ここの領主はそれに抗う力がない」
「坊主の言いなりかよ。情けねえな」
「先ほども述べたように、国と教会の力は相互しますの。けれど領などはこれになく、教会の力で存続しているのが現実……金や権力など握られ、領主は何も出来ず、その地位を放棄したがるくらいですわ」
面倒くさい話だとエルマは思った。
大人になると嫌でも理解しなきゃいけなくなる。それが子供との境目というなら、実に面倒くさい。
「だけど、領主が教会をよく思っていないのは朗報でありますな」
「きっかけ一つで追い出せますわね」
「ならソフィアのためにも、早く追い出してやろうぜ」
「ノンノン。コトを急いてはであります」
クロエは父親に訊ねた。
「村の付近に現れた賊は、賊と分かる身なりで?」
「一目で分かります。いかにも荒くれ者といった風体で」
「それはいつ頃? 具体的には、いつ頃に見なくなったでありますか?」
「え? そうですなあ……教会の話がくる少し前でしょうか。神が御守り下さると言って……まさか」
「ノン。状況情報で断定するのは早計であります」
とりあえず時間を稼ぎつつ情報収集が大事。
クロエはそう続ける。
「とりあえず、さっさと葬式しようぜ。腹減ったよ」
「そうでありますな。ソフィアを弔うであります」
「ちょ、ちょっと!? 私はまだ生きていますうー!?」
ねえ、と戻ってきた子供たちに反応を求めるが、みな乾いた笑いをするだけで、
「オネエチャン」
「ダイスキ」
と、抱きついて誤魔化すしかできなかった――。




