3.メイドと能力
改めて新入生への祝辞が贈られた。
担任となるのはエルマが書類を渡したバークル・ウィスタットで、気品や清らかさについて語ったが、内容は式典と大差なかった。
「あなた方はみな、メイドとしてのすべてが出来ていません。正直に言えば、そこいらの娘がメイドの恰好をしているだけです。外の世界ではそれでもお給金を頂けるでしょうが、ここは違います。明日から授業が始まりますが、浮かれた気分は今日までとするように」
生徒が顔を引き締めるのを見渡してから、バークルの言葉が続く。
「では、我が校にある〈特別能力〉について説明してゆきます」
聞き慣れない言葉に、エルマの目線があがった。
ほかの新入生たちも同じく。しかし何人かは知っているようで、その表情はより真剣になっている。
「能力を得る方法はただ一つ、それは『必要と強く思うこと』です」
「必要……?」
「本日より、メイドとしての振るまいを覚えてゆきます。その学びの中で必要に思うものが出てくるはず、能力は本人の望みや意思に応じて発現されます」
エルマは『凄い力』を思って手をかざしてみた。
特に変わった様子はない。ただ手の平が突き出されただけだった。
「その能力に深く関わってくるのが〈メイドポイント〉です」
バークルが人差し指を振ると、突如、みなの前に数字が現れた。
「な、なんだ!? なんだこれ!?」
「この数字が〈メイドポイント〉です。授業の評価で増え、減点されれば減ります。これは能力だけでなく、食堂や購買など生活に必要な支払いも、すべてこのポイントで行われます」
今は入学直後なので、みなの数字はゼロか。
上級生のサリーには【サリー・ネア 19,244/20,844ポイント】と数字が表示されている。右側が最大値で、左側がポイントを使用した現在の値なのだろう。
「生活に必要な支払いってことは、授業でダメダメだったら……」
「はい。食事などは出来ませんね」
おお……とエルマは絶望に瀕した。
勉強は嫌いなのに、メイドの仕草なんて自信がない。
「おい高慢ちき、よろしくな」
「愚民にくれてやるパンはございませんわ」
リリーはツンと言い放った。
「ミス・サリーは〈ボルテクス〉という雷能力で、非常に強力な威力ですが……ポイントも相応に消費されます」
「ええー……能力使ってポイント減るんじゃ、ただ損じゃん……」
エルマは説明の殆どを理解していなかったが、
(要するに、ポイントは飯で、能力の源か……マジか……)
と、納得して机に伏した。
ほかにも能力やポイントについてあるようだが、その時になれば話すとバークルは告げる。
「身に着けた使用人としての素養、これらの能力。我が校の卒業生たちの多くは、配属された屋敷で成果をあげています。みなさんも先輩方が築いた信頼と信用を損なわぬよう、日々勤めてください」
誰の合図もないまま、教室は「はい」と声を揃えた。
◇ ◇ ◇
バークルの説明が終わり、生徒たちの自己紹介へと移ってゆく。
「――私はクロエ・ミルズと言うであります。家はトレス地方で、軍に入っている父親とその妾の子であります。学校にきた理由は、父と本妻との間に男児が産まれ、身の危険が迫ったので、家を出てメイドを目指すことにしました。よろしくであります!」
中には複雑なのもいながら順番が進み、ついにエルマの番となる。
「オレはマーサルの孤児院から来たエルマって言うんだ。得意なのは駆けっこや缶蹴り、あと喧嘩も好きだぜ!」
ニッと歯を見せる。拍手がぽつりと起き、すぐ止んだ。
なんだよと唇を尖らせる。
(まあこいつら普通の家だもんな)
親がいて、兄弟姉妹に親戚がいる。家という中でそれぞれが暮らす世界は、エルマにとって遠いものだった。
クラスメイトの殆どは庶民の出で、地方役人や商家の出などが中にいる程度だ。
そうなると上流階級はやはり珍しく、リリーに順番が回ってくると、彼女は意気揚々に立ち上がった。
「私の名は、リリー・ハートウェルですわ。ご存じの通り高貴な生まれ、共に学べることを光栄に思いなさい」
その時だ。
先ほど、自己紹介を終えたクロエという女が「あっ!」と声をあげた。
「思い出したであります! ハートウェルって、10年前にカナート地方で没落した貴族でありますな!」
リリーは目だけを逸らした。
「そういうことも、あったかもしれませんわね……ほほほほ!」
確かさっき、高貴かと訊ねたら、こいつ答えなかったよな……?
いやそれよりも――。
「オレらと同じ身分じゃねえか!? 10年前って庶民のが長げえだろ!?」
「だーまらっしゃい!! 私は心まで捨ててませんの、お前のようなドブネズミと比べないで欲しいですわ!!」
「何だと、やんのかこのアマッ!!」
「いいですわ!! 愚か者に分からせてやりますの!!」
椅子を倒し、ふたたび身構える二人。
双方の頭上から壮絶な雷が落ちたのは、バークルが上級生に合図をした、そのすぐ後のことであった――。




