#25 番外編1④ 家族のかたち
ファーマー子爵領がアリーシャの実家だと知らないサリエルが、とうとう知る回。
ハチ騒動のあと、ファーマー子爵夫妻は被害に遭った者たちを見舞った。
コーディのもとへも夫妻と、息子のセドリックが見舞いに訪れた。見舞いを終えると夫妻は帰ったが、コーディに話しのあるセドリックは一人残った。
「うちの両親には、驚いたでしょう?実害が出てるのに、ハチも生きているのだからと駆除に消極的ですからね。うちの領地で生まれ育った者たちは納得してますけど、他領から移って来た人たちには理解できないですよね??」
「一領民にすぎない俺を、わざわざ見舞いに来てくださったことにも驚きましたよ。子爵夫妻は、生きとし生けるものを平等に慈しんでいるのですね。ハチすらも。」
「それがうちの領地の特性なんです。じつは、もうすぐ兄が爵位を継ぐのですが、自分だけ領地を譲り受けるのは申し訳ないからと、僕に領地を分けると言い出しまして…。」
「領地を分け合おうとするなんて、次期当主様もお優しいお方なのですね。相続を巡っては、いがみ合う話をよく耳にしますけから。」
サリエルはお茶を淹れ直し、出されたお茶を口にしてから、セドリックは少しだけ素の部分を見せた。
「コーディさん、本気でうちの家族の考えに賛同してます?理解のあるふりはしなくてもいいんですよ。領主を悪く言うのは気が引けるとは思いますけど、本音を聞かせてください。」
『本音を』と言われたものの、コーディは地位のある者には逆らわず、事なかれ主義で生きてきたため、領主を非難することなどできるわけがなかった。口を閉ざすコーディの代わりに、サリエルが口を開いた。
「領主様には申し訳ないけど、私は、ハチを駆除して欲しいです。コーディの命の方が大切ですから。」
「それが普通だと思います。よかった。これで、お二人を誘えます。僕が、兄から分けてもらう領地の端へ引っ越しませんか?と言っても、もう少し先の話になるのですが。」
『領地の端へですか??』
セドリックへ聞き返すと、コーディとサリエルは顔を見合わせた。
「ここ数年で移住者が増え、その中にはこの土地の独特な気質に馴染めない者もいるんです。そんな人たちを、僕の管理する土地へ住んでもらおうと考えていて、お二人にも声をかけさせてもらいました。返事は急ぎませんので、考えてみてください。」
これまでセドリックは、18歳になったら領地を出るつもりでいた。姉のアリーシャ程ではないが、聖者のような家族に対して違和感を抱いていたから。暮らしやすい土地を探すため、他領について詳しく調べていたところ、兄から領地を分けることを提案されたのだ。その申し出に、はじめは悩んだが、この地に留まると決めた。人を疑うということがないため、これまで何度も騙され、搾取されそうになってきた家族のことを思うと、この地を離れるのに不安を覚えたから。
それ以降。コーディとサリエルは、セドリックから詳しい話を聞いたり、実際に領地の端へ足を運んだりし、自分たちのこれからについて考えた。
セドリックが管理しようとしている領地の端は、土壌を改良している途中で、今はまだ何もない状態だった。領地の息子であるセドリックが、それも一人で耕耘を行っていると聞き、二人は驚いた。セドリックは、アリーシャの聖力で土壌改良された土を領地の端へと運び、自身の持つ土魔法で荒れ地の土と混ぜ合わせることで土壌改良しているのだ。
訪れる度に荒れ地がだんだんと田畑へと変わっていくのを目にした二人が、この地へ越すと決めたのは、サリエルがコーディの求婚を受け入れた頃だった。
田畑の周辺に家々が建ち並び、井戸や道が整備されると、セドリックに声をかけられた者たちが越してきた。
そして早速、麦や野菜の苗を植えたのだが、その際、よく育つよう祈りを捧げる者がいて、皆に祈りが大事なのだと言い聞かせていた。アリーシャから、祈りが大事だと教えられたミラだ。
ミラの発言を聞き、頭にアリーシャの姿が浮かんだセドリックは、『うちの姉さんみたいだ。』と言い、サリエルは、『同じことを言ってる子を知ってる。』と言った。それで、3人ともアリーシャのことを言ってることが分かると驚きの声を上げたのだった。
セドリックがアリーシャの弟だと知ったサリエルは、クロエへ手紙を書いた。自分が暮している場所が、あの聖人一家が治める、アリーシャの実家の領地であることや、アリーシャの弟のもとで働いていることを。
クロエからの返事には、アリーシャの実家の領地で暮していることを、アリーシャ本人には黙っているようにと書かれていた。その方が後々、おもしろいことになるだろうからと。
それ以降、サリエルとセドリックとミラは農作業をしながら、語り合うようになった。
自分たちが暮らしていた、教会と神殿の待遇や生活水準の違いについて話すサリエルとミラの話を聞きながら、セドリックは二人が聖女であることに気づいた。
その近くではコーディが、3人の会話を聞こえていないふりをしながら、聞き耳を立てていた。サリエルが口を滑らせる度に、『それ、口外したらいけないやつ…。』と思いながら。
そして。話している内に、サリエルはあることに気づき、セドリックへ尋ねた。
「もしかして、ファーマー子爵領が肥沃になった理由はアリーシャの聖力だけじゃなく、セドリック君が土魔法でコツコツ聖力を混ぜ合わせたからなんじゃない?それなのにあえて自分の力は伏せて、アリーシャに功績を押しつけたのね?」
「押しつけただなんて、人聞きの悪い。実際に、ほとんど姉さん一人の功績ですからね。僕の貢献度なんて、ほんの少しですよ。」
「確かに、アリーシャさんの聖力ってすごいですよね。私に纏わりついていた瘴気をあっという間に浄化したんですよ。そのとき私の治癒力でも、数日あれば自力で浄化できると言われたんですけど、私の力ではもっと時間がかかっていたはずです。」
「アリーシャって、自分を基準にするのよね。自分ができることは、みんなもできると思っているのよ。ところで、ミラちゃんが瘴気を纏った原因って…、まさかあの力を使ったの?」
サリエルは、ミラがアリーシャに浄化してもらった話と、アリーシャの結婚披露宴で聞いた話に繋がりがあると確信を持った。アリーシャは、瘴気に侵された王室騎士団の騎士であるクロードを聖女の秘めた力を使って助けたと言っていた。そして、瘴気に侵された騎士はクロードの他にもいたのだ。アリーシャのことを、『口の悪い花嫁』と言っていたレイモンドだ。ミラはレイモンドの浄化をしたが、浄化しきれなかったため、アリーシャに助けてもらったのだろうと、サリエルは考えた。
そんなサリエルの推測力を、セドリックの洞察力が上回る。
「二人も、姉さんのような力を持っているのか。ならサリエルさんも、『あの力』を使って、失明の恐れがあったコーディさんを治したのですか?」
これまで、二人が聖女であることに気づいていないふりをしてきたセドリックだったが、二人がこれだけ聖女の力について口を滑らせているため、『もういいや。』と思ったのだ。
指摘されたサリエルは、両手で口を塞いだ。あの力については国家機密であるため、もし口外したら、国王に咎められると聞かされていたから。そしてその会話を聞いていたコーディは、サリエルの力が露見してしまったため人知れず頭を抱えていたが、サリエルとミラが聖女の力を持っていることをセドリックが口外することはなかった。
セドリックは、アリーシャが聖女であることも一応隠してはいたのが、代わりに、荒れ地だった土地を肥沃に変えたアリーシャは豊穣の女神だと領民へ広めていた。アリーシャが嫌がるのを承知の上で。
そんなセドリックは、サリエルとミラとの会話中にコーディと目が合うと、意味ありげに微笑んでいるのだった。その笑みを見たコーディは、自分が会話を盗み聞きしていることがバレていると察した。
コーディとサリエルが結婚を誓ってしばらく経ったが、変わったのは本人たちの心境くらいだった。周囲の者たちは、もとから二人を夫婦だと思っていたから。
これまでと変わらぬ日常を送っていたある日、エリックは二人へ尋ねた。
「どうしてぼくには、きょうだいがいないの?」
近所に住むミラの家には子どもがたくさんいるが、自分の家には子どもは自分一人だけ。エリックが、7人きょうだいのミラたちと、ひとりっ子の自分を比べてしまうのは必然なことだった。コーディとサリエルはその問いに答えるために、エリックへ本当の親のことを伝えると決めた。
3人は、コージーとファツマの墓参りへ出かけた。
二人は同じ場所に眠っている。二人が一緒に眠れるようにと、コーディが、コージーの墓の隣へファツマを埋葬したのだ。
コーディは、この墓には自身の双子の弟と、妹のような存在だったファツマが眠っていると説明した。そして。エリックの両親はこの二人で、自分は伯父なのだと伝えた。
サリエルは困惑するエリックに、出産時の様子を聞かせた。ファツマが命懸けでエリックを産み、取り上げたのが自分なのだと。
「エリックには、二人のことを知っていてもらいたかったんだ。エリックの存在は、二人が愛し合っていた証だから。けどな。おまえの本当の両親がコージーとファツマだとしても、俺たちが家族であることには変わりないんだからな。」
「そう。私たちはね、本当の家族なのよ。だからコーディと私に赤ちゃんが生まれたら、それはあなたの弟か妹になるの。そしたら、仲良くしてくれる?」
「そのときは、面倒も見てやってくれよ?エリックはお兄ちゃんになるんだからな。」
「ぼくが、おにいちゃん??」
「ふふっ。そうよ。」
「いつ!?ぼく、いつ、おにいちゃんになるの!?」
「エリックは、はやくお兄ちゃんになりたいんだな。なら、はやく赤ちゃんができるように一緒に神様に祈ろうな。」
失明しかけた際、コーディが神様へ文句を言ったのを聞いていたサリエルは、調子のいいコーディにあきれながらも内心ホッとしていた。エリックが、『おにいちゃんになりたい!』と言い、笑顔を見せてくれたから。
墓の近くには、コーディの育った孤児院があるのだが、コーディには立ち寄る気がまったくなかった。孤児院だけでなく、この地自体に負の感情を抱いているためだった。コージーにとって、この地での出来事は消し去りたい記憶なのだ。
孤児院の院長に命じられ、コーディとコージーは夜な夜な、貴婦人を相手に恋愛小説の朗読をさせられていた。一人で相手をするときもあったが、二人一緒に呼ばれることもあった。そして読まされる本は純愛から官能的なものまで様々で、時にはベッドへ誘われることもあった。そういった誘いをコージーが上手くあしらっていたことを、コーディは思い出していた。
3人は、サリエルの育った孤児院へ立ち寄った。
サリエルは、エリックに家族を紹介した。血の繋がりはないが、みんな自分の家族なのだと。それから、以前コーディをもみくちゃにしていたちびっ子たちのことをエリックの兄や姉だと紹介すると、コーディが、サリエルの弟と妹なら、エリックにとって叔父と叔母だと指摘したため、大きくなった子どもたちから顰蹙を買うのだった。
エリックが家族についてどこまで理解したかは分からないが、今回、たくさんの家族と触れ合ったエリックからは笑顔が見られた。それでも、エリックがいつかグレてしまうのではないかという不安が拭えないでいるサリエルに、コーディは真剣な表情で尋ねた。
「サリエルも、エリックのママじゃなく、姉の方がよかったか??」
その問いに、サリエルは笑って答えた。
「いいえ。私は、エリックのママよ。」
孤児院をあとにした3人は、サリエルが暮らしていた教会へ向かった。司祭様へ会うために。
司祭様と再会したサリエルは、あの夜、出産を手伝うよう声をかけたのがなぜ自分だったのかと尋ねた。
「それが、神の思し召しだったからじゃよ。」
(聞くんじゃなかった…。)
司祭様の返答を聞いたサリエルは、ため息をついた。長年、司祭様へわだかまりを抱いてきたが、今回思い切って会いに来たというのに、答えをはぐらかされた気がしたから。
「彼とサリエルは、同じ色を纏っているからのう。」
(司祭様の話って、相変わらず言葉が足りないのね。意味がわからないわ!!)
サリエルは、司祭様から納得のいく答えを得られず嘆いていたが、聞き耳を立てていたコーディは、その話を都合よく解釈していた。
(同じ色を纏っている??つまり、俺とサリエルは運命的な何かで繋がっているのか!?)
それから二人は、エリックが見守る中、司祭様に立会人となってもらい結婚の誓いを立てた。
ファーマー子爵領へ戻ったコーディは、サリエルと晴れて夫婦になった喜びを誰かに聞いてもらいたくて、セドリックに、教会で結婚の誓いを立てて来たことを話した。
話の流れで、自身の生い立ちや、エリックの生まれ、サリエルとの出逢いから長い片想いについてなど、いろいろなことを打ち明けた。
コーディの出自を聞いたセドリックは、以前調べた領地のことが頭をよぎった。双子を忌み嫌う土地があり、その土地では双子が生まれると、後から生まれた方を捨てるという風習がいまだに残っているのだという。コーディとコージーが二人とも捨てられたのは、その家にはすでに跡取りがいたからではないかと自身の考えを伝えた。
しっかり者で、若いながらも自身の管理する土地で暮らす人々をまとめ、いつも落ち着いた雰囲気のセドリックが、ある日、匿って欲しいとコーディの家へ飛び込んで来た。苦手な相手が訪ねて来たため、見つからないよう逃げて来たのだそうだ。その相手の対応をミラへ押しつけて。
「あの子は、昔から僕に好意を持ってくれているんだけど…。いい子だとは思ってるんだよ。いい子なんだけど、この領地の気質を色濃く受け継いでいるから、領民として接する分には問題なくても、結婚相手としては考えられないんだよ…。いい子過ぎて、心が休まらないから。」
セドリックの話を聞いたサリエルは、『アリーシャみたいなこと言ってるわ。やっぱり、姉弟なのね。』と思った。
しばらくすると、ミラが訪ねて来た。
「彼女には、帰ってもらったわよ?でもね。この地への移住の際、誘われなかったって嘆いていたわ。セドリックがいる、この地で暮らしたいみたい。」
「彼女、まだ諦めてなかったのか…。ミラ、追い返してくれてありがとう。断っても断っても、好意を押しつけてくるから、いい子ではないのかもしれないな…。もはや、いい子かどうかの問題じゃなく、生理的に受け付けない…。」
「そうね。彼女の話を聞く限り、セドリックの表の顔しか見てないようだし。それに、『セドリック様』って呼んでいたもの。セドリックは、様をつけられるのを嫌がるのにね。」
「ミラは、僕の気持ちをわかってくれるのか!?」
セドリックは歓喜の声を上げ、コーディとサリエルも大きく頷いていた。この地に越したばかりの頃、セドリックに、名前に様をつけて呼ばないで欲しいと強めに言われていたから。
「彼女は悪気なく、『セドリック様』と呼んでいるから、注意できないわよね。それでも、セドリックにしてみれば嫌がらせなのよね。」
「そうなんだよ!それなのに姉さんは、僕とあの子をくっつけようとしてきてさ。彼女の好意を断った僕のことを、人でなしとか、無情な奴とかボロクソにけなしてきたんだよ。」
サリエルは、アリーシャがセドリックのことを悪く言う理由がわかった。
セドリックとミラにとってこの出来事は、相手を特別な存在だと思っていることを気づかせるきっかけとなった。
ミラは、セドリックの上辺しか見ていない彼女の想いを否定したり、彼女がこの地に越して来なければいいと思っている自分に気づいた。
セドリックは、自分の気持ちをわかってくれたミラに惹かれていると自覚した。そして。ミラについてもっと知りたくなり、言葉巧みにミラの過去を暴いていった。それから、突けばうっかり秘密を漏らすサリエルからもいろいろと情報を得た。コーディとは、サリエルとミラに聖女の力があることを協力して隠そうと約束を交わし、協力関係にある彼からも、情報を提供してもらった。
そうやって、ミラが体を捧げて瘴気を浄化したことを突き止めた。助けた相手が、シュレースヴィヒ公爵家のレイモンドだということや、その際、媚薬を飲み過ぎて大変な状態に陥り、公爵家の騎士のシドに介抱してもらったことまで…。セドリックは、レイモンドとシドへ嫉妬心を抱いたが、最終的に怒りの矛先は、媚薬なんてものを用意したエロイーズへと向けられた。
それからアリーシャも、ミラと同じような状況だったということも掴んだ。それでどうしても、姉が、体を張ってまで人の命を救う姿を想像することができなかった。心が優しく、お人好しなミラとは違い、アリーシャが無償で人助けをするわけがないからだ。どんな対価をもらったのか?どんな状況だったのか?と、セドリックは様々な仮設を立てた。
そうやって、ミラと話をしている中で、セドリックは彼女の異変に気づいた。しかし、彼女が話しにくそうに口を閉ざしていたため、セドリックは、『ミラが話したくなったら聞くよ。それまで待つからさ。』と声をかけた。ミラは、セドリックになら話しても大丈夫だと思い、媚薬の後遺症に悩まされていることを打ち明けた。媚薬の効果は体から抜けているのだが、快感を覚えた体が、快楽を求めてしまうのだった。
セドリックは、その問題を解消する役を買って出た。それから、責任を取ると約束した。しかし、ミラは求婚には頷かなかった。シド同様、罪悪感からくる求婚だと思ったからだ。
一方セドリックは、シドの行為は媚薬を過剰摂取したミラへの処置で、今の自分と同じ状況だと理解はしていても、シドに対して一方的な対抗心を抱くのだった。
セドリックは、ミラへ求婚したことを彼女の家族や周囲へ報告し、外堀を埋めていった。
ミラは、計算高いセドリックに思うところはあったが、求婚を受け入れる証として、二人の新居を建てることで意趣返しすると決めたのだ。家族には隠していたが、シュレースヴィヒ公爵家とトンプソン伯爵家から多額の謝礼金をもらっていたミラは、セドリックが驚くような立派な家を建てようと意気込んでいた。だが。どこで話を聞きつけたのか、トンプソン伯爵家の者たちが裏で手を回し、ミラの思っていた以上の豪邸が建てられた。
「ミラ、掃除するの大変そうだな…。メイドでも雇おうか?」
「いいわよ。セディは、家に他人を入れるの嫌でしょう?だって人の目があると、ずっと表の顔を取り繕ってないといけないものね。それじゃあ、気が休まらないでしょう?」
「ははっ。それもそうだな。」
「それに。メイドを募集して、もし"彼女"が応募してきたら困るじゃない??」
「それは、本当にそうだな…。」
完成した自分たちの屋敷を見上げながら、二人はそんな会話を交わしていた。
それから間もなく。二人は、領内で結婚式を挙げた。
豪邸が建てられた時と同じように、結婚式も当初の予定とは異なり、豪華なものになっていた。ウエディングドレス、宝飾品、料理にお酒、会場の装飾、引き出物…。今回もまた、トンプソン伯爵家が裏で手を回していたのだ。
二人は、領民たちから祝福され、新婚旅行へと旅立った。
一番念入りに準備したのは、アダルベルド伯爵邸への訪問だった。セドリックは、姉との15年振りの再会に心を弾ませていた。それと、アリーシャの身に何が起きたのか様々な仮設を立てた、その答え合わせを前に、口角を上げていた。
セドリックとミラが新婚旅行へ出かけている頃、サリエルは子育てに奔走していた。コーディとの間に生まれた子どもが歩けるようになり、目が離せないのだ。それも、二人。
子どもを授かったと分かり、エリックへ、弟か妹ができると話していたが、生まれたのは男の子と女の子の双子だった。
お兄ちゃんになったエリックは、弟と妹の面倒をよく見てくれている。サリエルは、両親のことを知ったエリックがショックを受け、非行に走るのではないかと心配していたが、乳児の頃からこの地で育ったエリックは、ファーマー子爵領の気質の影響を受けているのだった。そう。聖人の気質を。
そんなエリックにも、納得できないことがあった。
コーディと、父親であるコージーは双子で似ていたと聞いていたため、双子は似ているものだと思っていたのだ。実際、エリックは、よく父親似だと言われていた。周囲の者たちは、コーディがエリックの父親だと思っているから。そのことが、コーディとコージーが似ていたことを証明していた。それなのに、弟と妹は双子だが、似ていないのだ。
本当の両親のことや、血の繋がりについては受け入れることができたエリックは、"双子なのに似ていない"ということを、この先何年にも渡り疑問を抱き続けるのだった。
新婚旅行へ行っていたセドリックとミラが帰って来た。
セドリックは、15年振りに会った姉のアリーシャとのやり取りをサリエルへ教えた。
「やっぱり、姉さんには驚かされたよ。まさか、記憶喪失になっていたなんて。サリエルさんも知ってたなら教えてくれてもいいのに。」
「ごめんなさいね。クロエから、なるべくアリーシャのことを教えないようにと言われていたの。その方が、後々おもしろいことになるからって。」
「黒幕はクロエさんだったかぁ。聞いた話だと、ずいぶん姉さんの尻拭いをさせられてきたようだから、その仕返しだろうな。ポーター子爵家のこととかさ。」
「あの二人、ポーター子爵夫妻のことまで話してしまったの!?」
「ああ、話してくれたよ。司祭様からポーター子爵邸へ行くよう言われた姉さんが、自分の人生を勝手に決められたくないと教会から逃げ出し、そのしわ寄せがクロエさんにいったんだって。」
「でも。逃げ出したことで、アリーシャはクロード様と出逢うことができたのよね。」
サリエルの話を聞いたセドリックは、笑いながら言い返した。
「違うよ。姉さんが逃げ出した先で出くわしたのは、馬車だよ。」
(もしかして、セドリック君。"それ"、アリーシャにも言ってしまったのかしら…。)
サリエルは、腹を抱えて笑うセドリックを見て、アリーシャの弟への嫌悪感度がさらに上がってしまったことを悟るのだった。




