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決められた人生から逃げた先に待っていたもの  作者: IROKA


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16/31

#16 瘴気の調査報告

クロード視点

瘴気の調査報告をするため、ザイフォン殿とともに陛下のもとを訪ねた。

リーシャは、自分も一緒に報告へ行く気でいたようだが、リーシャの力が瘴気にどう影響したかを陛下へ説明するため、本人の前では話しにくい部分もあり、先に家へ帰ってもらった。

陛下はリーシャの力だけでなく、人となりもお知りになりたいようなのだが、リーシャの家族の話題は、本人の前ではできないということを、陛下もザイフォン殿も理解している。そのため、陛下から、リーシャは同席しなくてよいと前もって言われていたのだ。ザイフォン殿は、話の主導権をリーシャに持っていかれてしまうことも、理由のひとつではないかと考えているようだった。

(そう言われれば確かに、謁見の度にリーシャのペースになっていたな。)

陛下の執務室へ入ると、ここでの会話が外に漏れないように、ザイフォン殿が防音壁を張った。執務室にいるのは、陛下と侍従のスチュアート様、ザイフォン殿と俺のために4人だけ。今回の調査で新たに判明したリーシャの力についても、特級聖水と同じく、まわりに知られてはいけないからな。


リーシャの聖水が魔物や瘴気を浄化するとわかった陛下は、彼女の魔力に可能性を見出し、今回の調査隊へ同行を命じていたため、俺とザイフォン殿は今回の調査で知り得た、聖水以外の浄化方法を報告した。

聖力でつくった弓矢や、他人の武器へ聖力を纏わせ、浄化の力を付与することでも効果が得られたことを。

「調査中に例の魔獣と遭遇した際、リーシャの放った聖力の矢が魔獣をかすめると、魔獣から瘴気が霧散しはじめたのです。最後は、我が伯爵家の騎士が、聖力を纏わせた自身の剣で魔獣にとどめを刺しました。」

「例の魔獣はエイダン卿にとっては、主の敵でしたからね。その魔獣のせいで瀕死になったというのに、再び死地へ赴いた伯爵様はどうかしてると思いますよ。」

「あんな場所へリーシャを送り出す方が、生きた心地がしないじゃないか!!」

それからザイフォン殿は、俺が調査中に作戦を守らず、リーシャのことを『聖女様』と呼ばなかったことを告げ口した。

リーシャが聖女として調査隊へ同行したのは、陛下の計らいだった。陛下は、予測していたのだろう。調査中に、リーシャがとんでもない力を発揮することを…。その力を目撃した者がいたとしても、リーシャの正体を知られないよう聖女の衣装を身に着けさせ、さらに認識阻害の魔法をかけたんだ。ザイフォン殿は、その作戦を守らなかった俺に、本気でリーシャの力を隠し通す気があるのかと問いただした。

「陛下の計らいを無駄にするようなマネをしてしまい、言い訳のしようもございません。」

(リーシャの力を隠そうと計らってくださるのなら、最初から調査隊への同行なんて命じないでもらいたかったがな。)

本心を隠して陛下へ頭を下げる俺の言動を見透かしたように、ザイフォン殿が不満を爆発させた。

「本心では、悪いと思ってませんよね?思っていたら、僕に責任を押しつけるはずがありませんから。陛下、聞いてください!伯爵様は、婚約者様の力を隠すために、浄化したのは僕の力だと騒ぎ立てたんですよ!!」

「浄化にはリーシャの聖力だけでなく、ザイフォン殿の雨の魔法の力も大きく貢献していたのだから、嘘はついてません。リーシャの分も、ザイフォン殿が英雄になったらいいじゃないですか。」

「他人事だと思って!!実際、僕はすでに英雄扱いされてるんですよ!?この先、『浄化してくれ』なんて無茶ぶりされたら、どう責任とってくれるんですか!?浄化の力なんて持っていないというのに…。」

「だからそれは、杖や剣に聖水をかけても浄化できると検証したじゃないか!?」

「できたはできたけど、聖力を纏わせたのと比べたら、威力は半分程でしたよね!?」

エイダンの剣や、ザイフォン殿の杖で浄化できた言い訳を考え、試しに聖水をかけた剣や杖で魔物を攻撃したり、瘴気へ雨を降らせてみたりしたんだ。そしたら浄化できたため、"武器に聖水をかけたら浄化力がつく"という噂を流した。この噂により、調査隊へ同行した聖女の存在はみんなの記憶には残っていないはずだ。

確かに、威力はだいぶ劣るが…。

「ザイフォンが英雄扱いされるのは、どうでもいいが。ともかく、これでまた特級聖水の需要が上がっただろうな。」

陛下から、『どうでもいい。』と一蹴されたザイフォン殿が何か言いたそうにしているが、口は開かなかった。俺は、リーシャの聖水の需要が上がると言われ、頭が痛くなった。

「これからも、リーシャに聖水を作らせるということでしょうか??」

「買い取ると言えば、あの者は喜ぶであろう?元とはいえ、聖女だというのに金儲けが好きなようだからな。」

「お言葉ですが、陛下。リーシャは金儲けしたいだけではないのです。これまでリーシャが作った薬は、家族が領民にあげてしまったり、教会の利益になったりと、本人には還元されなかったのです。ですからリーシャは、頑張った分の見返りが欲しいのだと思います。」

「余に対しても対価を求めるのには、育った背景が関係しているのだな。どういう環境が、あの者を"ああ"させたのだ?」

(『ああ』とはどういう意味なんだ…。)

ザイフォン殿を見習い、気に触る陛下のお言葉を聞き流し、リーシャの育った環境について説明しはじめた。

「陛下は、リーシャの実家であるファーマー子爵家の現状をお聞きになりましたか?」

「肥沃な土地を活かした農業が盛んな領地であろう?領主であるファーマー嬢の親が、人手が足りぬからと、職のない者を領地へ招き入れたと聞いたが。」

「陛下!!リーシャの前では、彼女を家名で呼ばないであげていただきたいです。とても嫌がるので…。」

何度も大きく頷くザイフォン殿を目にした陛下は、頬づえをついて、面倒くさそうにため息をついた。

「分かった、分かった。家名は呼ばぬ。それで、善良な領主を親に持った元聖女殿は、何故(なにゆえ)あれ程までに家族を拒絶するのだ?」

「現在は、豊穣の地などと呼ばれているようですが、リーシャが領地で暮らしていた頃、ファーマー子爵領は不毛の地だったそうです。その日食べる物も困るような、毎日だったと…。」

「それは、まことか?」

「はい、陛下。確かにファーマー子爵家は税を納めるのが厳しい状況で、没落寸前でした。」

スチュアート様から話を聞いた陛下は、怪訝そうな顔をした。

「つまり、ここ数年で土地が生まれ変わったとでもいうのか?…いや、待て。生まれ変わらせたのか!?あの者が!!」

(リーシャをあの者呼ばわりされるの、癇に障るな。)

「リーシャは農作業を手伝っていたと言っていたので、その可能性が高いでしょう。教会へ引き取られた以降に彼女の力の効果が出はじめ、本人に土壌改良した自覚はないので、リーシャは今も領地が不毛な土地のままだと思っていますが。」

「教会へ引き取られた者は、家族との接触を禁じられているかなら。聖女の力を悪用されぬために。」

「禁じられなくても、連絡をとる気はまったくないようです。家族のことを思い出しただけで、溜め込んでいた感情が爆発しそうになりますからね。家族みたいに、聖者のような生き方は自分にはできないと。」

家族の話題になり苛立ちをあらわにしたリーシャを見たザイフォン殿は、また大きく頷いている。

「なぜそこまで、家族仲がこじれたのだ?』

「ファーマー子爵家の者たちは、皆、聖者のような人柄なようです。自分たちを犠牲にして、領民を助ける。それは素晴らしい行いだと、リーシャも理解はしています。けれど、まだ幼いリーシャには自己犠牲心よりも、自分の空腹を満たしたい欲の方が強かった…。」

「子爵は、幼い我が子にも自己犠牲を強いたのか。幼い子にとって、それは酷なことだったろうな。」

「リーシャの両親は犠牲を強いているつもりはないようです。他者を優先させるのは当たり前のことだという考えの持ち主たちのようなので。リーシャの目には、ファーマー子爵領の者たちは幸せそうに映っていたそうです。彼女は含まれませんが…。リーシャは毎日葛藤していたのです。自分は異端だと、自分が信じる神と、家族が信じる神は違うと。」

リーシャの過去を知り、黙り込む陛下の代わりに、スチュアート様が意見を述べた。

「アリーシャ様は以前、温室で薬草を育てる際、神様へのお祈りが大切だとおっしゃってましたね。その祈りを捧げるお姿に、私は違和感を覚えたのです。あれは祈りというより、ひとり言のような、彼女にしか見えない者に話しかけているような。」

「それは…、俺も感じていますが。リーシャにしか見えない者、それが彼女の神様なのかもしれない。」

「もしや。彼女にだけ見える神様へのお祈りは、幼少期からの習慣だったのでは?アリーシャ様のお祈りは、まるで、昔からの親しい友人へ語りかけているように見えましたから。」

スチュアート様の話を聞いたら、簡単に想像できてしまったんだ。家族に心を開くことができないリーシャが、どんどん溜まっていくわだかまりのはけ口として、語りかける相手を自分自身で創造した姿が…。リーシャはその相手を、『神様』と呼び、今もなお毎日語りかけ続けているんだ。

「結局のところ、聖女の秘めた力とは何なんであろうな。よもやまことに、祈りが発動条件だというのか?」

この中で、聖女の力について一番情報を持っている陛下がお手上げ状態だとおっしゃった。

「リーシャは、俺とレイモンドの治り具合を比べ、力の発動について考察していました。発動条件に純潔は重要なのか。交わることでどれ程の効果が得られるか。交わる時間や回数。治癒する者とされる者の想いについて。それから。やはり、神への祈りが大事なのだと。」

「結局、祈りか…。」

「それと。聖女の秘めた力が明るみに出たらどうなると思うかという陛下のお言葉についても、改めて考えていました。交わるだけでもそれなりの効果が得られるのであれば、聖女を何人も囲うことで、より強い効果を得ようとする者もいるかもしれないと。そうなった際、どのようにして聖女の身を守ればいいのか頭を悩ませていました。」

「世の中には、なんの躊躇いもなく他人の力を搾取し、尊厳を踏みにじる者もいるからな。しかし、そのような外道な者が考えそうな卑劣な行為を思いつくとは、聖女としてどのような暮らしぶりだったのだ?」

「教会では、やりたいことを自由にやらせてもらえていたようです。ただ、善の塊のような両親はリーシャにとって、反面教師になってしまったのだと思います。人は心に善意しか持っては駄目なのか?誰しも多少の悪意を持っているのが普通なのではないかと。」

リーシャのこじらせぶりに、陛下が頭を抱えてしまった。本来なら、悪い見本を見てそうならないよう心がけるところを、リーシャの場合、見本が聖者のように立派過ぎて、逆に悪について考えるようになったのだろう。

「…反面教師の意味が違うと分かった上で、あえてその言葉を選んだのだな??」

「はい…。その言葉が、ぴったりだと思ったのです。リーシャは、人の持つ悪の部分を肯定しているんです。多少であれば、ですが。ですから、我が家がリーシャへした仕打ちを許してくれたのです。」

「人には悪の部分があってもよい、か…。その許せる悪の基準も、曖昧なのであろうな。」

聖女の秘めた力。悪に対しての許容範囲。リーシャはどちらも、明確な答えを持ってはいないだろうな。そのときの気分で、リーシャの答えは変わる気がする…。


陛下への報告を終え帰宅すると、執事からリーシャがポーター子爵邸へ出かけたと伝えられた。馬車へ乗り込む姿がただ事ではない様子だったと聞き、俺は不安に駆られ、すぐ様ポーター子爵邸へ向かった。

ポーター子爵というのは、リーシャが教会から逃げ出す原因となった人物だ。司祭様から、ポーター子爵の治療を頼まれたリーシャは、そのときに聖女の秘めた力について聞かされたんだ。そして自分が売られたと思い、教会を飛び出した。…いや、飛び越えたか?

俺たちが瘴気の調査へ行っている間に、リーシャを訪ねて来た者がいたらしい。たぶんその者が、リーシャの代わりにポーター子爵のもとへ行った聖女なのだろう。そして、その者の力ではポーター子爵を治せず、リーシャを頼ったに違いない。聖女の力には、個人差がある。レイモンドを治療した聖女のミラも、リーシャより力が弱かったからな。

そして。リーシャと司祭様は、純潔でなくとも聖女と深く繋がれば強い治癒力が得られるという仮説を立てていた。ポーター子爵の容態はわからないが、力が必要ならば、リーシャはためらわず交わるかもしれない。はじめに治療を頼まれたのは自分だからと、責任を感じて…。

(俺に、したように…??)

治療のためとはいえリーシャが誰かと交わるなんて、そんなの耐えられない。ああ、わかってるよ!自分は嘘をついてまでリーシャに助けてもらっておいて、リーシャが他人を助けるのは嫌だなんて、自分勝手だってことは!

俺は心の中で、誰とも分からない相手に逆ギレしていた。


ポーター子爵邸へ着くと、相手の家格が下なことをいいことに、半ば強引に屋敷の中へ入らせてもらった。そして俺は、部屋の前で右往左往しているポーター子爵殿と遭遇した。

(…ポーター子爵殿??なぜここに?)

容態が悪いと思っていた子爵殿が起き上がっているため、俺は、横になってなくて大丈夫なのかと尋ねたんだ。そこで、治療が必要なのは子爵殿ではなく、子爵夫人の方だったことを知り、拍子抜けしたよ。

それと。リーシャは、自分は薬屋だと説明したようだが、子爵殿は、リーシャの正体に気づいているようだった。

子爵殿に茶を用意してもらい、茶を飲みながら処置が終わるのを待っていると、屋敷内に魔物の断末魔のような叫び声が響いた。その、人のものとは思えない声のもとへ向かうと、使用人らしき女がのたうち回っていた。苦しむ声も尋常ではないが、みるみる皮膚がただれていく様子に誰も近づくことができず、立ちすくんでいるのだった。


そこへリーシャがやって来て、のた打ち回っている使用人よりも、子爵邸に俺がいることに驚いていたよ。






子爵邸で起きた事件の詳細は17話で

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