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決められた人生から逃げた先に待っていたもの  作者: IROKA


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11/31

#11 国王陛下への謁見

ミラの浄化が完了すると、エロイーズ様は彼女を連れてトンプソン伯爵家の馬車に乗り、シュレースヴィヒ公爵家をあとにした。その慌ただしさを目の当たりにして、ただごとではないと感じた。それでもまだ、聖女の力を使ったというだけで本当に国が動くだなんて半信半疑だったわ。

だから馬車を見送りながら、シド卿がミラにプロポーズを断られた話をする余裕があったのよ。

「シド卿、気を落とさないで。ミラは、騎士の妻なんて務まらないから断ったそうよ。ケガの心配ばかりして気が休まらないからって。ほら、重体のレイモンド様を見てしまったからね。決して、シド卿に魅力がないわけではないわ。」

「聖女様…。そんなふうに慰めてくれなくても大丈夫ですよ。傷ついてませんから…。」

「そう?まぁ、そもそもお互いに気持ちはなかったようだし、罪悪感だけで結婚しても幸せにはなれなさそうだものね。ご縁がなかったのよ。」

ミラは、田舎で静かに暮らすのが性に合ってるって言ってたわ。

「同じ聖女でも、性格が全然違うんですね。」

「あら、私とミラのこと?でも、シド卿。騎士だって、そうでしょう??同じ騎士でも、性格はみんなバラバラじゃない?」

「あ…。確かに…。」


アダルベルド伯爵家の馬車で、私とクロード様も公爵家をあとにした。その馬車の中で━━。

「リーシャは、誰とでも親しくなれるんだな。トンプソン伯爵令嬢とは、いつの間にか愛称で呼ぶ仲になっているし、あちらの聖女とも、シド卿とも出会って間もないのに。」

「愛称呼びは、エリー様に強要されたからですからね。ミラの場合は、同じ聖女ですし、4つ年下だったからで、シド卿はからかいがいがあるからです。」

そう、私はエロイーズ様の押しに負けて、愛称でお呼びすると約束しちゃったの。ミラには、年下だから、"さん"はつけないでいいと言われたのよね。

「ですが…。その極めつけは、出逢って半月足らずのクロード様と結婚しようとしていることですわね。」

「あ…!?確かにな…。結婚と比べたら、親しくなるくらい何でもないな。リーシャにとって人と仲良くなるのは、朝飯前ってことか。そういえば、娼館の人たちとも仲良かったな。…あとから出会った者たちの方が、俺より、リーシャについてよく知ってるんじゃないか??」

「これから、知っていけばいいじゃないですか。私にも、クロード様のことを教えてくださいね。でも、私は幻滅させてばかりになってしまうかもしれませんけど…。聖女と言っても、清廉潔白ではありませんからね。」

幻滅されるのではないかと心配する私の話を聞いて、彼は吹き出した。

「ブッハハ。清廉潔白でなくとも構わないさ。俺は、塀を飛び越えるのも、特級聖水を作ってニヤつくところも、魔力を暴発させて研究室をうっかり聖域に変えてしまうところも、どんなリーシャも好きだよ。」

クロード様の不意打ちの『好き』に、心臓が跳ねて喜んでいる。

「…司祭様は、特級の聖水も、聖域のことも、ずっと隠してきたのに、どうしてみなさんには、私の力を話したのかしら??」

「陛下への謁見を見据えてのことだろう。リーシャの力を把握し、陛下からの追及をうまくかわせるように。」

「本当に、陛下からの呼び出しがあるのでしょうか??」

クロード様は心苦しそうな表情になり、私の隣に移動すると、私を抱き締めて、『巻き込んで、すまない…。』とつぶやいた。


アダルベルド伯爵邸へ戻ると、イヴォンヌ様との話し合いが待っていた。

私は、イヴォンヌ様からの謝罪を受け入れる代わりに、要求をふたつした。ひとつは、クロード様との結婚を認めてもらうこと。もうひとつは、私が作った薬の卸し先を探してもらうことよ。これからは、教会に売り上げ金を差し引かれずにすむの。イヴォンヌ様は、ふたつの要求を聞き入れてくださった。薬の卸し先も信用の置けるお店を探してくれるそうよ。

話し合いが終わり、ホッと一息ついたところで、イヴォンヌ様からあることを尋ねられた。

「ところでしたクロード。あなた、正式に求婚したのよね?アリーシャさんは、指輪をはめていないようだけれど。」

私とクロード様は顔を見合わせ、記憶を辿り、ハッとしたわ。クロード様は二度もプロポーズしてくださったのに、私はまだ返事をしていなかったのよ。クロード様にも、返事をもらってないことを馬車の中で嘆かれたけれど、あのときはエリー様たちも一緒だったから、はぐらかしたのよね。

あきれ顔のイヴォンヌ様から、伯爵家に伝わる指輪とは別に、私たちの指輪を用意するよう提案された。

『婚約指輪を作りなさい。』

…提案というよりは、強制ね。


次の日。私たちは早速、指輪を作るため街へ出かけた。イヴォンヌ様に、屋敷から追い出されるように…。

お互いの瞳の色の宝石を探し、クロード様はライトブルーサファイアを、私はヘーゼルサファイアを選んだ。だけど…。

「すまないな、俺の目がこんな色で…。本当は、リーシャには、もっときれいな色を身につけさせてやりたいんだ。」

私が選んだヘーゼルサファイアを見ていたら、クロード様が、ご自分の瞳の色のヘーゼルブラウンを、『こんな色』なんて言い出したの。

「ほら、よく見てください。この宝石は、光の当たる角度によって色が変わるんです。クロード様の瞳みたいに。この、ご自分の色の石を私に身につけて欲しいとは思わないんですか??」

彼は、私にご自分の瞳の色の指輪をはめて欲しい思いと、鮮やかな色をつけさせたい思いとの間で葛藤していた。

「…俺の色をつけて欲しい。」

絞り出すように言うから、笑ってしまったわ。彼はきっと、私の想いを軽く見積もってるのね。はじまりがはじまりだったからね…。


指輪の制作を依頼し、馬車に戻ると、クロード様は私の隣に座り、寄りかかってきた。お店に向かう馬車の中でも、こうだったわ。

「まったく!最初は子作りを強要していたくせに、今度は、結婚するまでは適度な距離を保てってなんだよ!?」

クロード様が、"こう"なってしまった理由は、イヴォンヌ様から過度な触れ合いを禁止されたからなの。それなのに昨晩、私の部屋を訪ねてきて、でも結局、クロード様の行動を読んだイヴォンヌ様に見つかって叱られたのよ。さすが母親よね。

「ですが、結婚を認めてくださったではないですか。反対されてもおかしくないのに…。」

「そんなふうに萎縮する必要なんてない。リーシャは、俺の命の恩人なんだから。」

「私が、命の恩人だから、結婚してくれるのですか?司祭様から聞いたのでしょう??私には、帰る場所がないって…。」

クロード様は体を起こすと、私と向き合った。

「結婚したいと思ったのは、俺のために泣いているリーシャの涙を見たときだよ。それとな。司祭様は、『帰る場所はあるが、帰りたい場所がない。』と言っていたよ。だから、俺がリーシャの帰りたい場所になりたいと思ったんだ。」

「クロード様が、私の帰る場所だと思ってもいいのですか…??」

「ああ、もちろんだ。それに。俺の帰る場所も、帰りたいと思う場所もリーシャだから。」

クロード様は笑顔でそう言うと、唇を重ねた。そしてまた、口を食べるようなキスをしてきたわ。こんなに激しく唇を奪う姿は、先程まで指輪の色で落ち込んでいた人とは思えないわね。

私はね、クロード様の色を身につけたいのよ。それでいつか、瞳の色でも、髪の色でもいいから彼の色のドレスを身に纏いたい。彼の色に包まれたいの。でも。クロード様なら、ご自分のアッシュブロンドを、『くすんだ色だ。』と言って、また落ち込みそうだわ。それでまた、私に似合う色を着せるか、ご自分の色を着せるかで頭を悩ませるのだろう。


そして数日後。私たちのもとへ、王宮からの使者が訪ねてきた。登城を命ずる書状を持って。クロード様とイヴォンヌ様は覚悟していたとはいえ、表情が険しかった。それでも私は、聖女の力を使ったぐらいで、ご多忙な国王陛下がわざわざ臣下を呼ぶわけがないと、呼び出された理由は他にあるんじゃないかと考えていたわ。例えば、殿(しんがり)を務め、仲間の騎士たちを逃した功績が認められ、陛下への拝謁を賜ったとか?もしかして、恩賞を授けるためなんじゃない??

なんて考えていた私が、国王陛下についてなにも知らないのだと考えを改めたのは、陛下へ謁見しているときだった。


謁見の場には、私とクロード様、イヴォンヌ様の他に、レイモンド様とエリー様の姿もあった。レイモンド様のお母様である公爵夫人は別室に通されたみたい。

陛下からは、殿(しんがり)を務めたお二人への労いと、体を気遣うお言葉がかけられた。それから、お二人の功績を称え、クロード様は伯爵から侯爵へ陞爵(しょうしゃく)し、レイモンド様は伯爵位を叙爵(じょしゃく)される運びとなった。

(ほら。やっぱり、功績を称えるために呼ばれたのよ。)

そう思い込む私とは対照的に、みんなの表情は依然として強張っていた。

「じつは、この陞爵と叙爵はな、そなたたちの命が助からぬと報告があった故、せめてもの餞のつもりだったのだ。」

(は!?お二人が死ぬと思ったから、爵位を上げたり、授けようとしたってこと!?)

陛下のお言葉に悶々しながら、まわりの様子を伺うと、みんなは本題が来たと、気を引き締めていたわ。

(じゃあ、今までのくだりはなんだったの!?時間のムダじゃない!?)

「余は、そなたたちの命が助かったことはな、誠に喜ばしく思うておるのだ。」

(助かったこと"は"??その"は"って、なんなのよー!?)

「して。そなたたちに、どのような奇跡が起きたのか、余に聞かせてくれぬか?」

(回りくどい!!つまり、聖女の秘めた力について聞きたいのでしょう??)

みんなが頭(こうべ)を垂(た)れる中、私だけは顔を上げ、陛下をまっすぐ見据えていた。そしたら、視界の端にイヴォンヌ様が頭を上げるのが写ったの。覚悟を決めたイヴォンヌ様の表情を見て、私は、手を挙げた。

「陛下。発言をお許しいただけますか?」

イヴォンヌ様が発言するより先に、陛下へ発言の許しを求めた。

(ダメダメ!!イヴォンヌ様はバカ正直過ぎるから。)

こういう状況でもね、まずは足掻いてみないと。イヴォンヌ様はきっと、私へ謝罪したときのように、潔く自分の罪を認めるつもりなのだろう。だけど、その罪っていうのは誰に対しての罪なの?陛下ではないわよね?陛下にはご迷惑をおかけしてないもの。だから、イヴォンヌ様の安易な謝罪は阻止させてもらうわ。

それで。陛下がお知りになりたいのは、お二人が助かった経緯。それなら、治療に携わった私が説明するのは当然でしょう?

「よかろう。では、そなたが奇跡について聞かせてくれるのだな?」

「奇跡…。確かに、重篤な状態だったクロード様がご回復し、今こうして陛下への拝謁が叶いましたことは、奇跡と呼べますわね。」

"なるほど"と少し大げさに両手をパチンと合わせると、ハラハラしているクロード様へ微笑みかけた。私が、陛下へなにを話すのか予想ができなくて、心配なのね。

(大丈夫。私に任せて。言い訳の仕方はね、司祭様とのやり取りで鍛えてあるから。)

「今のクロード様のお姿からはご想像できないでしょうけれど、半月程前は、瘴気に侵され、魔物化しそうな状態だったのです。」

「それは、騎士団の方から報告を受けている。助かる見込みはないとな。それがどうだ?半月でここまで回復したのだ。どのような方法で、治療したのか教えてくれぬか。その治療法があれば、今後、騎士たちの生存率はぐっと上がるだろう。」

(騎士たちの生存率ね…。本当に騎士たちを思っての発言なのかしら??)

「治療法をお教えするのはもちろん構いません。ですが。はじめにお断りさせていただきますが、私と同じことをしても、同じ効果を得られるとは限らないのです。私はただただ、クロード様とのお子を授かりたい一心でしたから。」

(あら??場の空気が変わったわ。)

陛下は怪訝そうね。クロード様はハラハラ具合が増しているわ。イヴォンヌ様の表情は…、読めないわね。エリー様は、目を見開いていて、レイモンド様は笑いをこらえて震えている。

「あぁ…、すまぬが。もう一度、わかるように"治療法を"説明してくれ。」

「わかりました。では、順を追ってご説明いたします。まず私は、クロード様のお命が残りわずかだと覚悟したイヴォンヌ様から、クロード様の子を身ごもるようお願いされました。アダルベルド伯爵家には、跡取りがクロード様しかいないので。」

「……それで?」

「はい。それで私は、瘴気に侵されないよう聖水を飲み、クロード様へも口移しで飲ませ、彼の子がお腹に宿るよう神様へ祈りを捧げました。それと、クロード様のお命を助けてくださいとも。それを5日間続けた結果、クロード様は回復なさったのです!ああ、これは確かに奇跡ですわね!?」

(どう?嘘は言ってないわよ!?)

陛下が先程から視線を送っている先には、魔導師と思われる人物がいるの。その魔導師は、陛下から視線を向けられる度に、首を横に振っている。術を使い、私たちが嘘をついていないか確認しているんだわ。でも残念ね。嘘みたいな話だけど、これは本当の話なのよ。

「んんっ…。つまり、聖女であるそなたと交わったことでアダルベルド卿は助かったのだな?」

(あぁ。やっぱり、聖女の秘めた力の話に持っていくのね。)

陛下はしびれを切らしたようで、私の正体が聖女であることを知っていると打ち明けたわ。ここに呼んだ人たちのこれまでの情報は、すべて把握されているのだろう。


「あのう、陛下。すみませんが、私、聖女ではありません。」

私の発言に、陛下は眉間にシワを寄せると、魔導師の方を見た。魔導師は首を横に振っていたわ。

(だって、嘘じゃないもの。)












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