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第5話

 試合はその後も白熱した展開が続いた。

 レッドフェニックスが追加点を奪えば、相手もすぐに追いつく。

 好守備が飛び出すたびに歓声が上がり、惜しい当たりにはため息が漏れる。


 皓太郎は気付けば、唐揚げを食べる手を止め、グラウンドを見つめていた。


「今のプレー、すごかったですね。」

「はい。あそこまで止められる選手は、そう多くないですよ。」

 千尋は目を輝かせながら答える。

 説明は相変わらず簡潔だった。

 けれど、その一言だけで「すごいプレーだった」ということは十分伝わった。

 イニングが進むにつれ、皓太郎の質問は少しずつ変わっていく。


「今の場面、なんで代打だったんですか?」

「打つのが得意な選手と交代したんです。」

「なるほど……。」

 皓太郎は感心したようにうなずいた。


 野球は、ただボールを投げて打つだけではない。

 その裏には、いろいろな駆け引きがあるらしい。

 そんなことを考えているうちに、レッドフェニックスが勝ち越しのチャンスを迎えた。


 ノーアウト満塁。

 スタンド全体の熱気が一段と高まる。

 千尋はビールのカップを足元へ置き、静かに両手を握る。

「お願い……。」

 小さな声だった。


 誰かに聞かせるためではない。

 自然と口からこぼれた願いだった。


 初球。

 鋭い打球が一、二塁間を破る。

「抜けた!」


 白球が外野へ転がる。

 三塁ランナーがホームイン。


 スタンドから大きな歓声が上がる。


「やった!」

 千尋は思わず右手を上げる。

 その瞬間。

「あ。」

 皓太郎も同じタイミングで手を上げていた。


 パンッ。

 軽い音が響く。

 二人は一瞬だけ目を合わせる。

「あ……。」

「約束、でしたから。」

 皓太郎が少し照れくさそうに笑った。

 千尋もつられて笑う。

「そうでした。」

 それだけのことなのに、少しだけ嬉しかった。


 試合はそのままレッドフェニックスが逃げ切り、勝利を収めた。

 試合終了の瞬間、スタンドは大きな拍手と歓声に包まれる。


「勝ちましたね。」

「勝ちました!」

 千尋は満面の笑みだった。

 その笑顔を見ているだけで、皓太郎も自然と笑顔になる。


 球場をあとにする人の波へ混ざりながら、二人は駅へ向かって歩き始めた。

「今日はどうでしたか?一人で盛り上がりすぎちゃったかも。」

 千尋が少しだけ不安そうに尋ねる。


 初めての野球観戦。

 退屈だったと言われても仕方がないと思っていた。

 皓太郎は少し考えてから答える。

「楽しかったです。」

「本当ですか?」

「はい。」


 皓太郎は照れたように笑う。

「ルールはまだよく分かりません。でも、小山さんが楽しそうだった理由は、少しだけ分かった気がします。」

 その言葉に、千尋は嬉しそうに目を細めた。

「それなら、一緒に来てよかったです。」


「そういえば、小山さん。」

「はい?」

「明日も行くって言ってましたよね。」

「はい。」

「しかも明後日も。」

「はい。」

「2日連続ですか?」

 千尋はきょとんとしてから笑った。

「はい。3連戦なので。」

「それが普通なんですか?」

「私にとっては普通です。」


 皓太郎は思わず苦笑した。

 (本当に好きなんだな。)


 夜風が昼間の熱気を少しずつさらっていく。

 金曜日の夜。

 

 家へ帰った皓太郎は、スーツを脱ぐより先にスマートフォンを手に取った。

「レッドフェニックス」 

 そう検索しようとして、皓太郎は少しだけ笑う。

 野球のことを知りたいと思った。

 それなのに、最初に思い浮かんだのは、今日隣で嬉しそうに笑っていた小山さんの顔だった。

 応援していた選手の名前を、思い出そうとしている自分に気付く。

 皓太郎はまだ、それが恋の始まりだとは知らなかった。

この土日は、私も野球観戦でした。面白いですよね。

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