表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/10

第3話

フェニックスパークへ着くと、入場ゲートには仕事帰りの人たちが列を作っていた。

チケットを見せて球場へ入ると、スタンドへ向かう前に千尋が立ち止まる。


「まずご飯買いましょう。」

「席じゃないんですか?」

「腹が減っては戦はできぬ、です。」

「なるほど。」


売店を見渡しながら千尋が尋ねる。

「何か苦手なものあります?」

「特にはないです。」

「じゃあ唐揚げは外せません。」

「そんなにですか?」

「球場に来たら食べたくなるんです。」


千尋はビールと唐揚げを注文する。

「広野さんは?」

「じゃあ僕も唐揚げにしてみます。」

「飲み物は?」

「ウーロン茶で。」

「お酒は?」

「今日は車じゃないですけど、あまり強くないので。」

「なるほど。」


それぞれ両手に飲み物と食事を持ち、席へ向かう。

通路を抜けた瞬間、グラウンドが目の前に広がった。


「うわ……。」

思わず皓太郎が立ち止まる。内野席の前方。

バッターボックスもベンチもよく見える。

「近いですね。佐々木さん、本当にすごい席を持ってるんですね。」

「いい席でしょう?絶対に空席作りたくなかったんですよね。」

千尋が嬉しそうに笑う。

「やっぱり内野席は近いですね。」

「いつもは外野なんですか?」

「はい。応援したいので。」


「間に合いました。」

千尋がビールを掲げた。

「乾杯しましょう。」

「野球観戦に乾杯、ですか?」

「はい。広野さんの初観戦に。」


球団ロゴ入りのカップが軽く触れ合う。


その瞬間、

「プレイボール!」

先発投手山下がおおきく振りかぶる。


待ちに待ったビールを一口。

「はぁ……」

 幸せそうなため息が漏れる。

「おいしいですか?」

「仕事終わりの球場ビールは世界一です。」

 皓太郎はお茶を一口飲んだ。

 同じ飲み物ではないのに、なぜかこちらまでおいしく感じる気がした。

「唐揚げもどうですか?」

「いただきます。」


 一つ取り、口へ運ぶ。

「熱っ……」

 思わず笑い合う。

「球場飯って、なんでこんなにおいしいんでしょうね。」

「雰囲気ですか?」

「それもあります。」

 千尋はグラウンドへ目を向けた。

「でも、この景色を見ながら食べるからだと思います。」


 皓太郎も同じ方向を見る。

 鮮やかな緑の天然芝。

 丁寧に整備された内野。

 照明に照らされるスタンド。

 近くで見るとわかる野球選手のガタイの良さ。

 トランペットが鳴り響いて応援歌を歌うファン。


 皓太郎はグラウンドを見つめたまま、小さく息をついた。

 野球はまだ何も分からない。

 ルールも知らない。

 応援歌も分からない。

 野球はまだ分からない。

 でも小山さんがこんなにも野球を好きになる理由は、少しだけ分かった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ