4話 戦う覚悟と息吹君を守るために
「これまでに、いろんなことがあったんだね……」
「ああ」
一応の大切な話を聞き終わり、1度にいろいろなことが起きすぎて、そして突きつけられた真実に、思わず溜め息をつきそうになってしまう。
だけど、ここまで頑張ってくれた息吹君やお兄ちゃんに、それは失礼だからね。私は溜め息を飲み込んだよ。
それから、ちょっと疑問に思っていることがあって、お兄ちゃんに聞いてみた。
「お兄ちゃん、まだ疑問があるんだけど」
「何だ?」
「みんなが消えた時、警官がここへ来たでしょう? それに無線で連絡してきたし。あれってどういうこと?」
偽物の時間を過ごしていた私たち。この様子だと、警官の方も現実じゃないはず。ただ、研究所と警官に何の関係があるのか。息吹君が見せてくれた真実の中に、警官は出てこなかったしね。
「ああ、あの警官たちは、瞳たちが死んだ後に、この研究所の様子を見にきて、あいつに殺された警官たちだ」
爆発事故が起きた時、佐藤さんは亡くなる前に、警察に爆発事故があったと連絡したらしいんだ。そして最初に到着したのが、山田さんたちの調査に来た警官たちだったの。
その時、まだ研究所は燃えていて、2人の警官だけじゃ、どうすることもできず。応援と消防が来るまで、様子を見ようとしていた警官たち。
でも、燃えている研究所には、初めての記憶の操作と、偽物の時間を作り出したことで、かなり力を使ってしまい、新たな力を欲している所長がいて。所長は残っていた危険物を爆発させ、この2人の警官を殺し、そのまま取り込んでしまったらしいんだ。
だから、山田さんたちの調査に来た警官は、所長に操られた警官の幽霊で。所長の言う通りに動き、私たちの訴えにも適当に答え、サッサと帰ったように見せかけたんだよ。
「私たちが死んだのは、所長のせいではあっても、一応は事故だけれど。まさかその後、人を殺していたなんて」
「あいつは自分のためなら、何でもするやつだからな」
「そんな所長に、お兄ちゃんと息吹君は2人だけで対抗していたなんて……。私が思い出さなかったせいで、かなり迷惑をかけちゃったね。特に息吹君には、何度お礼を言っても足りないよ」
「そうだな。……って、お爺さんに訓練を受けたのは俺なのに、あの地獄の訓練を受けていない、お前や息吹君の方が力が強いってどうなんだよ。俺の立場がぜんぜんないじゃないか。まったく、このままお爺さんに会ったらなんて言われるか」
「まぁ、それは、ね。やっぱり元々の素質が違うっていうか。さすが私! そしてさすが息吹君! ってことで」
「はぁ」
ガックリするお兄ちゃん。こればかりはドンマイとしか言いようがない。
「まぁ、俺のことはいいけど。俺もこれまでに、何度も伊吹君にお礼を言っているが、本当に言い足りないよ。……俺は、今回のことを、どうにか解決したいと思っている」
ガッカリしていたお兄ちゃんが、真面目な顔つきに戻る。
「解決……。所長を消すか、封印ね」
「ああ。ただ、それが成功する確率は高くはないだろう。お前の力を使ってもな」
まったく、所長はどれだけ強いのか。
「だからもし、どちらも失敗してしまったら、俺は俺の存在を賭けて、何としてでも息吹君だけは、光の世界へ送ってやろうと思っている」
「光の世界?」
「分かりやすく言うと、天国だな」
生きている人たちの世界に守りたい人がいて、その人を守るために、こちらの世界に残る幽霊たち。何かやり残したことがあり、それをやり遂げるために、こちらの世界に残る幽霊たち。
他にも、死者の世界が楽しいという理由だけで、フラフラ過ごしたり、生きていた時にできなかったことに挑戦したりと。様々な理由で、死者の世界にはたくさんの幽霊がいるけれど。
中には過ごしているうちに、もうこちらの世界に未練がなくなる幽霊たちもいて。そんな幽霊が現れると、空から綺麗な光が差して、その光を幽霊は登っていくんだって。お爺さん曰く、それが幽霊が本当に成仏する時らしいよ。
お兄ちゃんも何回か見たことがあって。ただ、初めて見るまでは、本当に成仏したのか? 光の先に、何か危険は待ち受けていないのか? と疑っていたみたい。
だけど実際に見てみると、しっかりとそれを見たわけじゃないんだけど、その光は天国に続いていると確信してね。
だから、もしもこのまま、所長を消すことも封印することできず、所長が私たちを取り込もうとしてきたら。息吹君だけでも天国に行けるように、自分の存在をかけて所長を止めようと思っているって。
「ただ、天国へと続く光を、どうすれば出現させることができるのか分からないからな。それもまずはそれを調べなくちゃならないが。所長を止めながらとなるとどうなるか」
「大丈夫だよ。そうなったら私も全力で所長を止めるから。それで天国への行き方も、2人で考えれば良いし」
「瞳……」
「息吹君を天国へって、絶対に送ってあげなくちゃ。ここまで、どれだけ頑張ってくれたか。そんな息吹君が天国へ行けないなんて、そんなことあっちゃダメだよ。それに、もしかしたら、所長に消されてしまった美咲さんと、天国で再会できるかもしれないじゃない」
あの時の美咲さんの消され方、もしかしたら美咲さんはもう、こちらの世界にも、天国にも、どこにも存在していないかもしれない。
でも、お兄ちゃんが見たことが光の先が、本当の天国なら。そしてそこに、神様がいてくれたなら、美咲さんは神様に助けてもらっているかも。
それに、頑張ってくれた息吹君には、所長から解放されて、平和な場所で、楽しく過ごして欲しいもの。
そのためにも、今度は私が所長を止めて、お兄ちゃんと天国への送り方を考えて、そして息吹君を天国へ送ってあげなくちゃ。
「瞳……。瞳、息吹君のことを考える前に、お前の気持ちを聞きたい。いや、今の話を聞けば、もうお前の気持ちは決まっているんだろうが。それでも、俺はお前の気持ちをしっかりと確認してから、これからの話をしようと思う。……瞳、俺たちと共に、あいつと戦ってくれるか?」
「え? 確認って今更? お兄ちゃんと息吹君と一緒に所長を倒すなんて、当たり前じゃない。それに、もしも私に特別な力がなくても、絶対に一緒に戦ってたよ。というかそんな話よりも息吹君とこれからのことだよ」
「だよな。お前ならそう言うよな」
「当たり前じゃない」
私は、力があると聞いた時から、戦う気満々だったんだけど、まさか確認されるなんて。
息吹君と美咲さん、そして他の人に対して、自分の欲望を優先させ、自分のためだけに、みんなを苦しめる所長には、怒りしか感じないし。そんな所長を、そのままにしておくなんて、あり得ないでしょう。
まったく、それなのに、確認してくるなんて。それよりも、これからのことを話さないと。
「それで、息吹君のこともだけど、これからどうするの? あ、そうだ。特別な力って、私はすぐに使える? さすがに今、訓練はできないでしょう? ほらほら、早く教えて」
「待て待て。はぁ、その辺もお前は変わらないな。やると決まればすぐにでもってところ」
「それはそうでしょう。動かない時間が勿体無いし。それに今は、息吹君が所長を見張ってくれているんだからね。早く息吹君を楽にしてあげないと。それで、どうするの?」
「はぁ、そのせいで、失敗も多かったことは無視か? それで小さい時なんて、泣きついてきたのに」
「ん? なぁに?」
「いや、何でもないさ」
声は聞こえなかったけど、私に対する文句か何か言わなかった?




