5話 花が導く封印の道と3人の決意
「力については、すぐに教えることができるから安心しろ。今から俺の訓練の時の記憶を見せる。それで力は使えるようになるはずだ」
「そうなの? じゃあお兄ちゃんも、お爺さんにそうして貰えば良かったのに。地獄の訓練なんてしないで」
「そんなもので覚えられるか。実戦あるのみじゃ! で訓練することになったんだよ」
「ああ、なるほど……」
「まぁ、その話は良いじゃないか。両手を出せ。それで力の使い方を伝えるから」
私はお兄ちゃんに言われた通り両手を出す。そして私の手を握るお兄ちゃん。するとすぐにお兄ちゃんの記憶が私の頭の中に流れ込んできて、10秒もしないで終わったんだ。
でも、たったの10秒だったけれど、力の使い方はしっかりと分かったし。それからお兄ちゃんが、どんな訓練をしていたかも分かったんだ。
お兄ちゃんがお爺さんからされた訓練は、それはまぁ、激しい訓練だったよ。いや激しいと言うか何と言うか、物理的にも精神的にもどうなんだ? っていう、声に出して言えないような訓練をしていたの。
あれでよく、お兄ちゃんは成仏しなかったよ。他の一緒に訓練していた人が、成仏しそうになったっていうのが、よーく分かった。
「……お兄ちゃん、よく無事だったね」
「……だろう?」
「……ん? 待って、まさかお兄ちゃん、息吹君にこれ見せてないでしょうね。これ、小さな子に見せられる内容じゃないよ?」
「いや、力の使い方を教えるのに少し見せたぞ。うん、少しだけな」
「何やってるのよ! ただでさえ所長のことで、精神的に辛い思いをしているのに、こんな危ないものを見せるなんて!」
「でも息吹君、見せたら喜んでたぞ?」
「は?」
「大笑いして、喜んで、時々真似してたぞ」
「……」
「あのくらいの歳の子だと、興味もつだろうし、真似するのは普通じゃないか? 俺もそうだったし。お前、小さな子好きな割には、その辺の子供の心理を分かってないよな」
「……もし所長をどうにかできなくて、息吹君だけでも天国に送れることになったら。その辺について、どうにか注意してから送らなくちゃ」
「まぁまぁ、良いじゃないか。案外さ、天国でその話で盛り上がるかもしれないし」
私はお兄ちゃんを睨む。絶対に息吹君と話をしないと。
「それより、力の使い方は大丈夫だな?」
「それよりじゃないけど、大丈夫だよ」
「それでだな、俺が考えているのは、とりあえず最初は俺とお前で攻撃をして……」
「え!?」
と、お兄ちゃんが話していた時だった。それまで待ってくれていた息吹君が声を上げたんだ。
「ふあっ!? 本当!? ありがとう!!」
「何だ? 息吹君は誰と話してるんだ? 息吹君!! どうかしたのか!?」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、お話終わった!?」
「ああ、終わったぞ」
「お姉ちゃん、一緒にパパをビシバシしてくれる?」
「う、うん、私も息吹君とお兄ちゃんと一緒に、ビシバシするよ」
「そかっ!! あのね、僕たちのお話も終わったの!」
「お話? 誰かと話してたのか? でも、ここのは俺と瞳と息吹君しかいないだろう」
「僕、お花とお話ししてたの!」
「え?」
「は?」
「あのね、さっき急に、お花さんとお話しできるようになったんだ。それでね、お花さんも僕たちのお手伝いしてくれるって!」
息吹君の話はこうだった。
花が息吹君に話しかけてきたのは。私とお兄ちゃんが話し始めたすぐで、お友達になろうって言ってきたらしいの。
だから、すぐに息吹君は花と友達になって。それからは、所長の悪いところを話していたみたい。みんなをいじめるとか、悪いことばかりするとかね。
ただ、その話が終わると、花は少し黙った後に、こう言ってきたんだって。悪いパパを消すのは無理かもしれないから、自分に封印すれば良いよ……ってね。
いくら私が力を使えるようになっても、そして私とお兄ちゃんと息吹君が一緒に所長と戦っても、やっぱり所長の方が強いらしくて。どうにも所長を消すのは無理らしいの。
それが分かっているのに、封印前に無駄に戦って。やっぱりダメでした、今度は封印のために戦います、じゃあね。
消すための戦いと、封印のための戦い、両方やるのと、封印だけのために戦うのでは、傷つく量が変わるでしょう?
花はね、息吹君になるべく傷ついてほしくないんだって。だから最初から自分に封印すれば良いと、息吹君に言ってくれたみたい。
「えっとね、お花の中には、僕の溜めた力がいっぱいあるでしょう? それで、お姉ちゃんもお花の中の力を入れてくれると、僕の力とお姉ちゃんの力が混ざって、パパよりも強い力になるんだって。だから、お花の中の悪いパパを入れると、パパはお外に出られなくなるし、みんなは自由になれるの」
「花がそう言ったのか?」
「うん! そうだよね? ……あってるって!」
「花が……ね。瞳、花の声が聞こえるか?」
「ううん、私には聞こえない」
「あ、お姉ちゃんも、この花に力を入れると、聞こえるかもだって」
「そうなの?」
「お花さん、僕が頑張って力を溜めたから、パパをお花の中に入れたら、お花さんも頑張ってパパを閉じ込めてくれるって。ねぇねぇ、お兄ちゃん。パパをお花の中に入れちゃおうよ」
「息吹君の話を信じていないわけじゃないが、どうしたもんか」
確かに、いくら息吹君の話でも、急に花にそう言われたって言われてもね。ただ、普通だったら、え? っていう話も、これまでのことを考えたら、そこまで驚くことでもないかとも思い。私は、息吹君にとりあえず確認することにしたんだ。
「息吹君、本当にお花とお話しした? 私たちを騙した時みたいに、パパがお花の真似をして、息吹君に話してきたんじゃない?」
息吹君に所長のことを悪く言うのはしのびなかったけれど、こればかりが大切なことだから聞かないと。息吹君は花と話したと信じているけれど、もしも所長だったら? それで私たちのことを止めようとしてきているのなら大問題だ。
「お話し、お花だよ。ほら、お姉ちゃんが力を溜める蕾も増やしてくれたの」
息吹君が花を指さし、私とお兄ちゃんは花を見る。すると、気づかないうちに、本当に蕾が増えて、2つになっていたんだ。
「僕が作ったお花、パパには絶対に触らせないもん。それにお話し、絶対お花さんだもん。パパじゃないよ。間違いなし!」
「これは……、それに絶対か」
あれかな、お兄ちゃんの時じゃないけれど、こう理由は分からないけれど、確信があるってやつ。それに……。
新しい蕾が、私に訴えてきている気がする。花に力を溜めろって。そして所長を封印しろって。これは息吹君の言った通り、魔力を溜めたらしい、花と話ができるかもしれない。私はすぐに、今感じたことをお兄ちゃんに話す。
「本当に感じたのか?」
「うん」
「そうか……」
「お兄ちゃん、ここは息吹君を信じて、花を信じて、所長をこの花に封印しない? お兄ちゃんももちろんだけど、ここまで1番頑張ってくれたのは、所長と家族なのに、所長を止めようとしてくれている、息吹君だと思うんだ。だから息吹君の言うことを信じて、やってみようよ。ね?」
「……」
「それにさ、お兄ちゃんも私も、攻撃して消すか、それとも封印するか、決められていないでしょう? もし消すことからやって、それに失敗して封印することになったら? 封印の時に疲れていて力が足りずに、封印できなかったら、それこそ問題じゃない? なら、言われた通りにやった方が良いと思うの。どう?」
「……そうだな、このまま決められずに戦うことになってもな。ここは息吹君を信じてやるべきだ。よし! 息吹君、花の言う通り、花にパパを入れてしまおう!!」
「うん!!」
息吹君がにこりと笑い、私とお兄ちゃんは頷く。
「それじゃあ、息吹君、俺がこの前教えたこと覚えてるか? 頑張ろう『おー!』だ」
「うん、えいえいおーでしょ!」
「そうだ。それを瞳も一緒にやってから、所長をビシバシだ」
「うん!!」
「えいえいおー?」
「こう手を重ねてだな……」
お互いの手を重ねて、えいえいおーの掛け声と共に拳を上げる。これでお兄ちゃんと息吹君は、気合を入れていたんだって。これは私も参加しないとね。
花を中心に3人で円陣を組み、それから手を重ね合わせる。
「それじゃあ行くぞ。息吹君、頑張ろうな、パパをビシバシだ」
「うん!! お姉ちゃんも頑張ろうね!!」
「うん!」
「よし、それじゃあ、せーの!!」
「「「えいえいおーっ!!」」」
私は、今までのこと、これからのことを考えながら拳を上げる。正直どんな結末が待っているか、怖いと思う部分もある。でも、私と息吹君とお兄ちゃんと、親友の花さえいれば、何だってできる気がするよ。
3人の拳が上がり、お兄ちゃんと息吹君の顔を見る。2人の表情は自信に満ち溢れていて、それで私の心に残っていた不安が、全て吹き飛んだ気がしたよ。
と、その瞬間だった。驚くことが起きたんだ。




