6話 爆発と火事の真相と謎のお兄ちゃん
“息吹は連れて帰ります!”
“……許可できるとでも?”
“あの子の命は、もうすぐ終わろうとしている。それなのにあなたは研究研究であの子をこんな場所に閉じここめて……。私は知っているんですよ。あなたは息吹を、研究対象としてしか見ていないことを”
“……何を言っている”
“私はあの子との残りの時間を、家族として過ごしたい。そしてあの子にはやりたいことを、思い切りやってもらいたい。最後は笑顔で過ごして欲しいんです!”
“私が息吹のことを考えていないとでも? お前が思っているように私も……”
“いいえ、私はあなたの本性を知っている。……あなたが何と言おうと、息吹は連れて帰ります。それと、後のことは全ての弁護士に任せてありますから。2日後、ここにくる予定よ。後は弁護士と話してください”
“弁護士だと?”
“ここまでくるのにいろいろ準備が必要で、時間がかかってしまって、息吹には可哀想なことをしてしまったは。でも、ここからは、もうあなたの好きにはさせない。……息吹のことと一緒に、あなたがこれまでやってきたことも表に出るでしょう。覚悟しておくのね”
そう言い残し、部屋を出る美咲さん。その数秒後、
ガシャーン!!
と過去の所長が、所長机を蹴ったよ。あまりの激しさに所長机が倒れそうになる。そしてその時の所長の表情は……、この世のものとは思えないほど。醜く歪んでいたんだ。
そうしてまた変わる場面。今度はある研究室だった。そこは、危険な物が多く置いてある研究室で。入る時は必ず、複数人一緒に入り、1つ1つ作業手順を確認しながら、作業をしなければいけないんだけど。
“早くやらないか!”
“は、はい!”
“所長、これはどうしたら……”
“そんなことも分からないのか! 自分で考えてサッサと動かないか!!”
所長は研究員たちを怒鳴りつけ、無理やり研究をさせていた。
「これは、ママとパパが喧嘩してからすぐだよ」
「喧嘩の後……」
なるほど、美咲さんと揉めてイライラしたまま、この研究室へ来て。そして研究員たちにあたっている感じか。
それにしても、危険な物がたくさん置いてある研究室でこの態度。しかも研究員のみんなはとても疲れているみたいだし、もし何かあったらどうするつもりなんだ。
「こんな危険なことをして……」
「うん。だからね、爆発したんだよ」
「え?」
「僕たちが死んじゃったあの火事。火事の前に何かが爆発したでしょう? 思い出して」
そういえば、その火事の時。あの時の何があったっけ? 私は、息吹君が思い出させてくれた、あの火事の時のことを思い出す。
火事が起きて、私たちが逃げようとする前。確かあの時は……。
「あの時、火災報知器がなって、それで私たちはすぐに逃げようとして。その前……、火事の前は……」
考え始めるとすぐだった。あの時の光景が蘇ってきて、
「……そうだ、大きな爆発があったんだ」
そうだ、そうだよ! そう、研究所全体が揺れるほどの、耳をつんざくような大きな爆発があったんだった。
「思い出した?」
「うん。……もしかして」
「……そう。ほら見て、もうすぐだよ」
息吹君が何かを指差す。それは、研究室の壁際に置かれていたガスボンベだった。
あのガスボンベが何? と近づき確認する私。するとすぐに異変に気づいた。ボンベの口と圧力調整器の接続部分の金具が、ほんのわずかにずれていて、完全に締めきられていないままホースが繋がれていたんだ。
「まさか……」
思わず声が漏れる。いつも必ず確認しているはずなのに……。私は後ろを振り返る。そこには、慌ただしく別の作業をしている研究員たちと、怒鳴っている所長の姿が。
“次の工程に入れ!”
所長の声が飛ぶ。
“は、はい!”
みんな所長の指示に従うことに必死で、周りを見る余裕なんてない。それに、その間にもボンベからは、シューと小さな音が鳴っていたのに、所長の怒鳴り声のせいで、その音は誰の耳にもとどかず。
少しずつ、少しずつ、見えないガスが部屋の中に溜まっていく。
“所長、ここ確認を……”
“後でいい! 先に進めろ!”
その所長のひと言だった。言われた研究員が、本来やるべき確認を飛ばしてしまい、ある機械のスイッチを押した。
と、その瞬間だった。漏れ出し溜まっていたガスが一気に爆発。ドガーンッ!! と空気を叩きつけるような衝撃が走り、研究室を吹き飛ばし、一気に火が燃え広がったんだ。
「これがあの時の爆発音?」
「そう、パパのせいで、爆発しちゃって、火事になったんだよ」
まさかのまさかだった。まさか火事の原因が所長だったなんて。私は思わず溜め息をつきそうになってしまったよ。
ただ、所長が原因だったとして、わざわざこれを息吹君に教えたの? 自分が本当はどんな人間なのか、息吹君に教えたのは、まぁ、所長の性格からそうなのかなとも思うけど。いや、それでもやっぱりよく分からないけれど、ざわざわこの爆発のことを息吹君に教えた理由は?
というか、この爆発でかなりの人が亡くなったとして、何で私たちは幽霊になってまで、研究なんかしていたの? 普通に研究生活していたよね? 何? 人って幽霊になっても普通に暮らすものなの?
いろいろ疑問が湧いてくる。そこで私は、とりあえず爆発について、息吹君に聞くことにしたよ。
「ねぇ、息吹君。この爆発のことは、本当にお父さんが息吹君に見せたの?」
「あ、えっとね、パパのお仕事のお部屋と爆発は、パパじゃないよ。パパのお仕事の部屋のは、ママが飛ばされる前に、僕にちょっとだけど見せてくれて。爆発は、お兄ちゃんに教えてもらったの」
「お母さんとお兄ちゃん?」
急に出てきたお兄ちゃんという言葉に、さらに謎が深まる。
「それでね、その後のこともお兄ちゃんが教えてくれたんだ。悪いパパがもっと悪いパパになって、僕たちを閉じ込めちゃったこととか、グルグルとか」
「もっと悪いパパ?」
「ほら、続きを見て」
息吹君にそう言われて、もう原型を留めていない火に包まれている研究室を見る。
するとそれは突然だった。爆発に巻き込まれ、体の一部がどこかへ飛び、亡くなっているはずの過去の所長が、普通に立ち上がったんだ。ただ下を見れば、そこには所長の体が倒れたままで……。
私はあまりのことに言葉を失う。けれど、そんな私をよそに、立ち上がった過去の所長は周りを見渡すと、次の瞬間とても気持ち悪いニヤリ顔を浮かべ、手を上げたの。すると部屋の向こうで、何かの音と叫び声が聞こえてきて。
息吹君に手を引かれ、場所を移動する私。すると、火や煙を食い止めるための防火シャッターが、どこも中途半端に下げられた状態で止まっていてね。
でもそれは、人が通り抜けることができないくらいの幅だったから、何人かの人たちが無理やり閉じようとしたんだ。結局、完全に閉じることができなくて。
その隙間のせいで、煙も火も抑えられず、どんどん建物の中に広がってしまい。その中を、みんなが咳き込みながら必死に逃げ回っていたの。
だけど、非常出口に向かっても、なぜか扉にはすべて鍵がかかっていて。鍵を使っても開くことはなく、無理やり開けようとしてもびくともせず。
そうしている間にも煙はどんどん濃くなっていき、立っていられなくなった人から、その場に崩れ落ちていっていたんだ。
「あのね、この守ってくれるはずの壁がちゃんと閉じなかったのも、外に出るドアが開かなかったのも、全部幽霊になったパパがやったんだって、お兄ちゃんが言ってた。僕たちも逃げられなかったでしょう? あれね、パパのせいだったんだよ」
「……お父さんのせい?」
「うん。パパは、もっと悪いパパの幽霊になってね。それで幽霊になったお姉ちゃんやみんなを集めて、またお仕事をしようとしたって。ほら、みんなが集まってきた」
言われて前を向くと、倒れていた人たちが、体は倒れているのに本人は立ち上がって、そのまま所長のところに集まったんだ。しかもその後、続々と他の人たちも集まって来て、何とその中に私もいたの。
そうして数分後、一気に景色が変わった。そう、爆発も火事も、何もなかったように、綺麗な研究所へ戻ってね。そして外からクラクションの音が聞こえて。
急いで外へ向かう私と息吹君。そうして外に出れば、マイクロバスから私たちが降りてくるところだった。
「お兄ちゃん言ってたよ。パパはお仕事のことしか考えていないって」
「…‥お仕事。じゃあ、息吹君のママが飛ばされたっていうのは?」
「パパは僕の力が欲しかったの。お仕事に必要なんだって。ママは、僕を守ろうとするから、邪魔だから飛ばしちゃったんだ。こっち」
息吹君の病室に向かう。するとそこには、倒れている過去の私と、倒れている息吹君を守っている美咲さん。そしてニヤニヤしながら立っている、過去の所長の姿があった。
さっき外に過去の私はいたから、そこに倒れているのは、私の死体だろう。それから美咲さんは……。
美咲さんは息吹君を守っていたけれど、その隣に倒れている美咲さんの体があって。たぶん息吹君を守っているのは、美咲さんの幽霊かな。そして……。
“お前は死んでも私の邪魔をするか。私のあの時の様子を、息吹に見せたようだが、この子はまだ子供だ。それを全て信じることはないだろう。そしてこれから側にいるのは私だ。私と過ごすうちに、私だけの言うことを聞くようになるだろう”
“どうかしらね。この子はとても賢い子だわ。私が教えたことをちゃんと考えて、自分から動いてくれるはずよ。ちゃんと本当のあなたのことを理解してね。そしてこの子がきっと、あなたを止めてくれるわ”
“ふんっ、言うだけならば誰でもできるからな。……さぁ、さっさとどこかへ行ってしまえ。そして手の出せぬ場所で、私がすべてを手に入れるところを見ているといい”
そう言い、過去の所長が手を上げる。と、その途端、美咲さんの体が吹き飛んで、壁を通り過ぎ、そのままサァァァッと消えてしまったんだ。
そうして倒れている息吹君に近づいた過去の所長は、息吹君を抱き上げるとそのまま歩き始めどこかへ行ってしまい。私たちの前には過去の私たちの体だけが残されたの。
私は息吹君を抱きしめる。
「…‥息吹君」
それは息吹君が死んだ時でもあったし、よく分からないけれど、美咲さんが消された瞬間でもあって。息吹きくんにしてみれば、苦しいことだらけの場面だった。
「苦しくなかった? 最後まで守れなくてごめんね」
「ううん。僕、火事は怖くなかったし、苦しくなかったよ。だってママとお姉ちゃんと一緒だったもん。それでね、僕は起きたらパパのお仕事の部屋にいて、パパにいろいろ言われたんだけど。寝る前にママが見せてくれたことをちゃんと覚えてて、パパに騙されなかったんだ! 僕、忘れてなくて偉いでしょう!」
「うん! 偉い!」
子供に、パパに騙されなかったなんて言わせるなんて、どれだけ酷い父親なのか。
「それでね、それからパパは、前よりも僕と一緒にいるようになったんだ。でも、時々お仕事で、ずっといなくなる時もあって。その時にお兄ちゃんに会ってお話しして、それから爆発とママがいなくなった時のことを教えてもらったの」
また出てきたお兄ちゃん。一体誰のことなのか。
「息吹君、お兄ちゃんって誰? 名前分かる? それと、お話しは何を話したのかな?」
「えーと、ちょっと難しい話したんだ。ぐるぐる回って、同じことを繰り返して。でも、お姉ちゃんを守らなくちゃいけなくて」
ぐるぐる回って、同じことを繰り返す? 何のことだろう。
と、もう少し詳しく聞こうとした時だった。
「あっ!! お兄ちゃんだ!!」
息吹君がそう言って、にっこり笑ったんだ。




