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廃墟に咲く永遠の蕾  作者: ありぽん
記憶と真実、そして再会

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5話 所長の本性

「お姉ちゃん、大丈夫? 苦しくない?」


 息吹君が私の隣に来てくれて、私の手を握ってくれる。


 その息吹君の優しさに、まさかの真実に悲しい感情と、自分は死んでいたのだと、そのやり場のない苛立ちとが混ざり合い、かなりショックを受けていた私だったけれど、なんとか心を落ち着かせることができて。私は深呼吸した後、息吹君の頭を撫でてお礼を言ったよ。


「ありがとう、もう大丈夫だよ。息吹君のおかげで落ち着いたから。……私はもう死んでいる人間だったんだね。息吹君だけが幽霊なんじゃなく、この研究所で働いていた全員が幽霊だった。研究所の爆発による火事で死んだんだね」


「……うん」


「はぁ、覚えていなかったとは言え、息吹君を怖がっちゃってごめんね。それに幽霊だ! なんて騒いじゃって。自分たちも幽霊のくせに、まったく何をしてるんだか」


「みんな、自分が生きていると思わされてたから仕方ないよ」


 思わされていたから? なんか言い方がおかしいような? そこは、思っていたから、じゃない? とちょっと疑問に思いながらも話を進める。


「もしかして、ずっと私のところに来てくれてたのは、私たちがあまりにも思い出さないから、いい加減思い出してって呆れたから? それともやっぱり、私たちが伊吹君のことを幽霊幽霊って言いすぎて、それが嫌になって怒って、早く気づいてよって思って?」


「僕、気づいてもらおうと思ったけど、怒ってないよ。そうじゃなくてね、もうあまり時間がなかったんだ。それに、これがダメだと、もうこの後は絶対に無理だと思ったの。だからどうしてもお姉ちゃんに気づいてもらいたくて、お姉ちゃんに話しかけてたんだ」


 なんだろう。さっきから息吹君の話が、なんかちょっとおかしな感じがする。いや、おかしいっていうか、私が思っていることとズレていると言うか。記憶を思い出して終わりって感じじゃなく、何か他に、大切なことがあるみたいな、そんな感じ?


 それに、時間がないってなんだろう? この後は無理って?


「息吹君、何の話をしているの? 私は自分が死んでいることを思い出したけれど、何か他にあるの? 私に何かやって欲しい? あっ、みんなの記憶を、取り戻す手伝いをするとか? 息吹君のお母さんも、もしかして記憶をなくしちゃってる?」


 と、ここであることに気づいた。そういえば息吹君のお母さんは? あの時一緒に死んだのなら、ここに息吹君のお母さんもいるはず。なのに今までずっと、私は息吹君のお母さんに会っていない。


「息吹君、お母さんは? どこにいるの?」


「ママ、飛ばされちゃったんだ。邪魔だって」


「飛ばされた? 一体誰に? 飛ばすってどうやって……」


「お姉ちゃん、どうして死んだのに、記憶をなくして、まだ研究してたのか分からないでしょう? それにどうして、火事になったのかもまだ分からないでしょう? 今から僕がまた見せてあげるね」


「見せてあげるって……」


 そう言われた時だった。急に周りで風が吹き荒れ始め、私は思わず息吹君から目を離し、周りを見たんだ。


 そうしたら私と息吹君を、淡い光が包んでいたんだけど、その周りでは暗闇が広がり、風が吹き荒れていたの。


「……いつの間に。息吹君、ここは危ないから研究所の中へ……」


「お姉ちゃん、大丈夫だよ。これね、パパが怒ってやってるんだ。でも、お姉ちゃんが記憶を取り戻してくれたから、僕はたくさん力を使えるようになってね。パパはもう、僕たちに何もできないの。だからこんなのへっちゃら、大丈夫だよ。それに、これからはもっと大丈夫になるんだ。」


「パパがって、え? これをやっているのは所長なの?」


「うん、そう。でも、まだまだお話しすることがいっぱいだから急がないと。じゃあ、僕のパパを見せるね」


 息吹君が何を言っているのかよく分からないまま、息吹君が私の手を握ってくる。そうしたらまたあの早送りが始まって、また私がこの研究所へ来た日まで戻ったんだ。


 だけど今度は私のことじゃなく、所長を中心として場面が流れていく感じで。途中までは記憶を取り戻す前の所長よりは、研究員思いで研究熱心の所長の姿を見ることになって。そうして火事の前まで、すぐに所長の姿を見終わったんだ。


「今のパパ、お姉ちゃんが知っているパパでしょう?」


「うん、そうだね。所長、こんなにみんなのことを思ってくれていたのに、どうして今の所長は怖いんだろう。あ、ごめんね、息吹君のパパなのに」


「ううん、僕もパパ怖いもん。それに、怖いパパが本当のパパなんだよ」


「怖いのが本当のパパ?」


「それじゃあ本当のパパを見せるね」


 そうしてまた流れる場面。そうして止まったのは、ある研究室の中だった。そして中では、所長が1人で研究をしていたよ。


 ここは、所長の研究室か? 研究所には、所長だけが使える研究室があって。この研究所へ来た日に、チラッと見せてもらった部屋が、こんな感じだったから。たぶん、それであってるはず。


「ここは所長専用の研究室?」


「うん、そう。お姉ちゃん、見てて」


 息吹君に手を引かれて、過去の所長の近くへ。そうして過去の所長と研究机を見てみると、最新の研究報告書の束が机に積まれていて。過去の所長はそれを手に取ると、パラパラと数ページめくっただけで、鼻で笑いそして吐き捨てたんだ。


“……チッ、どいつもこいつも、使えないゴミばかり報告書を出してくるとは。こんな初歩的なデータで、私の名声を高められると思っているのか?”


 そう言うと、過去の所長は何の躊躇もなく、その報告書をゴミ箱へと放り投げたの。私は驚きながらもゴミ箱へ行き、研究内容を見てみる。


 それはみんなが、真剣に研究に取り組み、『これで病気の人を救えるかも』と、必死に書き上げた資料だった。


“はぁ、これでは研究をやり直させなくては。まったく、この研究所には凡人しかいないのか。いや、私の能力に誰もついてこられないだけか? どちらにしてもだ、いくら凡人だといっても、もう少しどうにかして欲しいものだ”


 そう言い、研究室から出ていく過去の所長。あまりの言葉と行動に、私は何も言えなかった。


「次を見せるね」


 伊吹君の言葉と共に流れる場面、止まったのはまた所長の研究室で、今度の過去の所長は、研究机に向かい、何かをしていた。すぐにそれを確認する私。


 過去の所長の前には、研究員たちの資料がおかれていて、それを冷淡な目つきで眺めていたよ。


“……ふむ、このグループはもう伸び代がないな。データの収集効率が落ちている”


 所長は、複数の研究員の名前の横に、『×』印を書き込んだ。


“役に立たんのなら、あのどうでも良い仕事でもさせておくか。それで次に来た人員と変えれば良い。ふん、お前の体のためだと、いつも通り言っておけば良いだろう。研究員の体を心配していると思わせておけば……”


 所長は冷めた目で資料をめくり、鼻で笑う。


“いや、もう少し研究を増やして、ギリギリまで使った後に休ませるか。役立たずでも、まだできることがあるだろうからな”


 そう呟いて、所長は暗い部屋で1人、満足げに口角を上げたんだ。


 その後も、息吹君がいろいろな所長の姿を見せてくれる。


 でも、そのどれもが、研究員たちを研究の駒としか見ていないような、発言と行動ばかりで。今まで以上に酷い所長の様子に、愕然としたと共に怒りが湧いたよ。まさか、陰で私たちに対して、こんな扱いをしていたなんて。ただ……。


 これだけじゃ終わらなかったんだ。この後見せてもらったものは、私たちのことなんかどうでも良くなるくらい、あまりにも許せないものだったの。


 次に映し出されたのは、息吹君の部屋の前、過去の所長は過去の目黒先生と廊下に立っていて。過去の所長が、息吹君のことで過去の目黒先生に何か言っているところだった。


“次の採血はまだか? なるべく早く採血を行ってくれ”

 

 そう言う過去の所長。それに対し、難しい顔をしながら答える過去の目黒先生。


“それはできません”


“何だと?”


“ですから、許可できませんと言っているんです”


“どういうことだ”


“前回から日が経っていませんし、それに最近は、採血の回数が増えています。このままでは……”


“前回から日が経っていない? だから何だ。そんな悠長なことを言っている場合ではないだろう。結果が出なければ意味がない”


 苛立ったように机を軽く叩く過去の所長。


“ですが、私は医師として、絶対に許可できません”


 その過去の目黒先生の言葉に、過去の所長は舌打ちすると、


“もういい!”


 そう言って、過去の目黒先生に部屋を出ていくようにジェスチャーして。目黒先生が出ていくと、


“使えない奴め”


 と、小さく吐き捨てたんだ。


 そうしてまた変わる場面。今度も別の日の所長の研究室で、過去の所長は息吹君の検査記録を見ていたよ。そして、


“検査時間を減らす?”


 その一文を見た瞬間、過去の所長の表情がものすごい勢いで歪んだんだ。


“何を考えているんだ。多少負担が増えたところで、問題ないだろう。あの子の役目は、私の研究を充実させ、私に名声をもたらすことなのだから。これ以上にあの子にとって、良いことはないはずだ”


 過去の課長はそう言うとペンを手に取り、検査記録の余白に何かを書き込む。それを確認すると、それは明らかに今の計画よりも負担が増える内容で……。


 しかも書き込んだ後は、


“……これでいい”


 と、何の迷いもなく頷いたんだ。まるで、息吹君の苦しさなんて、どうでもいいみたいにね。


 私はその瞬間、息吹君を抱きしめていたよ。これが本当の所長の姿だったなんて。私たちの時も酷いと思っていたけれど、まさかここまで、しかも自分の子供に対して、こんな態度を取れるなんて、本当に父親なの!?


 でも、このことは息吹君は知らないはず。だって、ここに息吹君はいなかったんだから。それを何で、息吹君は知っているんだろう。


「息吹君、これは本当のこと?」


「うん。パパがね、僕に見せてくれたの。だから本当のことだよ」


 あの男!! これをわざわざ息吹君に見せたのか!! 私はさらに強く息吹君を抱きしめる。


「そう、辛かったね。……ずっと一緒にいたのに、気づかなくてごめんね」


「ううん。誰も気づかないように、気をつけてたってパパ言ってた。だからしょうがないよ。お姉ちゃんもごめんね。パパが無理させちゃって」


「ううん、ううん、私なんて!」


「でも、パパがやったのはこれだけじゃないんだ」


「え?」


 私は思わず息吹君から離れる。何? 所長のことでまだ何かあるの? これ以上酷いことが?


「今から、あの時のことを見せるね」


 そう息吹君が言うと、また場面が流れ、今度は所長室へ。そしてそこには過去の所長と美咲さんがいて、2人は口論をしていたんだ。

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