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廃墟に咲く永遠の蕾  作者: ありぽん
記憶と真実、そして再会

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4話 思い出された最期の時間

 場面が止まり、私は中庭が見える廊下に立っていた。そして向こうから歩いてくる、過去の私と息吹君。


“久しぶりの外の散歩だね”


“うん! 花咲いたかなぁ”


“どうかな? まだかなり蕾が小さかったから”


“咲いてたら良いなぁ”


 そう話しながら、過去の私たちが中庭に出て行ったから、私もそれに続こうとする。と、ここでもあの、頭の中で何かが弾ける感覚がして、私はこの時のことを思い出したんだ。


「そういえば、この時か。あの花で大騒ぎをしたのは」


 そうして過去をしっかりと思い出していると、息吹君の悲痛な声が聞こえてきた。


“ああ!! 抜けちゃってる!!”


“誰がこんなこと!!”


“僕、頑張ってお水あげてたのに!! それで元気になったのに!!”


 2人の後ろから、それを覗き込んだ私。場所は、私の最高の友達、蕾のままの花が生えている場所とほぼ同じ場所。そこに、蕾と同じ花が根元から抜かれた状態で、無造作に置かれていたんだ。


 体の調子が悪いと、なかなか外へ出られなかった息吹君。外へ出られた時は、いつも宝探し探しごっこをしていてね。

 この抜かれてしまった蕾のままの花は、少し前の宝探しの時に見つけたもので。それからずっと、散歩ができる日は息吹君が、ダメな時は、私がお水をあげていたの。


 でもこの時、なぜか花は抜かれてしまっていて。どうにか花を救いたいって、この後は息吹君と2人で、バタバタしていたっけ。

 それで結局、肥料を教えてもらった研究員に、何かできないかと聞きにいき、何とか枯らさないですんだの。


 そしてこの花が、あの写真に写っていた、花瓶に入った花だったんだ。


 まさか同じ場所に、同じ花が生えていたなんて。……いや、ちょっと待って。いくら同じ花だからといって、同じ場所に生えるもの? 確かにこっちが本当の過去だけど。過去を忘れていた私が、無意識に同じ場所に花を生えさせたとか? まさかね。


 今まで本当の過去を見てきて、いろいろ思い出した私だったけど。ここにきて初めて、違和感を覚えた。一体この違和感は何?


 と、考えている時だった。また場面が変わったかと思うと、場面はあの写真の時へ。


 うん、写真を撮ったのは、私で間違いなかった。しかも微妙に目黒先生を入れちゃうっていう失敗の写真を撮り、それを息吹君に注意されたのも、ちゃんと思い出したよ。


 それに、薬の用意をしていたのは、やっぱり目黒先生だったし。窓の外を見れば、私の部屋から見えていたあの木も、ちゃんとそこにあって。写真の時の光景を、思い出すことができたんだ。


 そうして過去を思い出せば、またすぐ変わる場面。今度は同じ息吹君の病室だったけれど、部屋の中にいた人が変わっていて。いたのは私と息吹君、それから息吹君のお母さんだった。


 写真の時、お母さんが来てくれるという話をしていたでしょう?


“一緒に書くの。あ、それでね、この花が咲くちょっと前になったら、パパがママを呼んでくれるって”


“本当? 息吹君、良かったね!! 今回はなかなか会えなかったものね。じゃあ、お母さんへのプレゼントを考えないと!”


“うん!! 蕾さん、ママが来たら、みんなで外でご飯食べようね。蕾さんも一緒だよ。お姉ちゃんも、みーんな一緒!! 僕、とっても楽しみ!! あっ、お水! 新しいお水に変えてあげなくちゃ!!”


 今見ているのは、この時の話の続きのはず。私はすぐに花を確認する。すると私が思った通り、そこにはもうすぐ咲きそうな花が花瓶に入っていた。所長が約束を守ってくれて、花が咲く前に、息吹君のお母さんを呼んでくれたんだよ。

 

 この時の息吹君は本当に嬉しそうだった。そして息吹君のお母さんも、とても優しい笑顔で息吹君を見ていて。


 ただ、その光景を見て、私は別のことも思い出した。過去の私が思っていたことをね。それは何か。何で息吹君のお母さんは、息吹君と一緒に居てあげられないのかなってこと。


 何か仕事で来られないとかなら分かるんだけど、それにしても、休みの日も来ないなんてと。私は初めのころ、息吹君のお母さんに、あまり良い印象を持っていなくて。


 ただ、あとからそれとなく息吹君に聞いてみたら。どうやら所長が、良いと許可を出さないと、母さんは来られなかったようで。だから、所長は何でそんなことをするのかと、疑問に思っていたの。


 だって、泊まりの日は、息吹君のお母さんは息吹君の部屋に泊まるんだよ。もし、息吹君の病気を心配して、ほら外部の接触をして、より病状が悪くなるとか。そういうので、あまり会わせられないと言うのなら、泊まりなんてできないはずだし。


 仮にそうだったとしても、息吹君がいる部屋は、しっかりとした窓が付いているから、その窓越しに会えるはずで。面会時間が終わったら、宿泊棟の部屋は空いているんだから、そこに泊まって、毎日息吹君に会うことができるはずなんだよ。


 それなのに、そんな厳しく、許可を出さないのはどうして? と思うのは普通のことでしょう?


 それで私は、家族間のこととはいえ、息吹君がいつもお母さんに会いたいと、寂しそうにしているのを見ていたから。所長に、もう少しお母さんと会わせてあげてくださいって言ったの。


 そうしたら、『そうだな』とだけ言われただけで終わっちゃってさ。本当、こういうのは、過去の所長も、今の所長も代わりがなかったよ。それにやっぱり、理由は教えてもらえなかったし。


“ママ、お散歩行こう!!”


“ええ、行きましょう”


“お姉ちゃんも!!”


“あ、でも、お母さんと2人の方が”


“いいのよ、瞳さん。この子もあなたと一緒だと楽しいみたいだから、ぜひみんなで一緒に散歩をしましょう”


“はい”


“あ、ママ。明後日は花を植えようね!”


“ええ、そうしましょう。ママ、たくさん花の種を持ってきたのよ”


“やったー!!”


 と、その話を聞いた瞬間だった。今までにない現象が起こったの。


 また場面が早送りされ始めたんだけど……。さっきまでは、綺麗に場面が早送りされていたのに、今回は場面が揺れて、それからノイズが走り、今にも止まりそうな不安定な感じで早送りされ始めたんだ。


 そして異変は私にも。これまで、記憶を思い出す時は、何かが頭の中でパンッと弾け、綺麗に本当の過去を思い出していたのに。今は、とても嫌な物が、頭の中で弾けそうになっていて。


 それは、これから思い出すのは、とても大事なこと。だけどそれは私にとって、そして他の人にとって、とてもよくないことでもあることを教えているような、そんな感覚。


 ただ、その感覚は長くは続かなかった。急にその感覚が治り、そして左手に何かを感じて。横を見ると男の子の幽霊が、息吹君が私の手を握って立っていたんだ。


「お姉ちゃん、僕、お姉ちゃんの側にいるよ。これから見るにはとても悲しいこと。でも、思い出して欲しいんだ。大切なことだから」


「息吹君……」


「僕、お姉ちゃんの側にいて、お姉ちゃんに頑張れってするから、一緒に見よう」


「……うん、息吹君がいるなら大丈夫だね」


 息吹君のおかげで、すぐに落ち着くことができた私。すると今までおかしな早送りをしていた場面がピタリと止まって、また息吹君の病室を映し出したんだ。


 でもその光景は今までの、平和な光景じゃなくて。そして、それとともに弾ける記憶。


「これは……」


“どうして!? 何でこんな!!”


“瞳さん! 気をつけて!!”


“美咲さんは息吹君から離れないでください!!”


 バシッ!! かなり大きな音がした。過去の私が、ドアに思い切り体当たりしたから。ただ、思い切りドアに体当たりしても、ドアには傷さえつかず。それでも過去の私は、何度もその行動を繰り返す。その間にも、どんどん部屋の中に入ってくる煙。


“……何で、何でよ。そうして開かないの!!”


“ママ……”


“大丈夫、息吹、大丈夫だからね。瞳さん、窓はどうかしら。それにもしかしたら逃げた人が外にいて気づいてもらえるかもしれないわ”


“確かめます! 一応毛布をかぶっていてください!”


 そう言いながら、椅子を持って窓に近づく過去の私。そうして、その椅子で思い切り窓を破ろうとする。でも、窓もドアと同じで、少しの傷さえ付かなくて。それでも過去の私は諦めずに、何度も窓を破ろうとした。


“瞳さん、外に人は!?”


 手を止めて、伊吹君のお母さん、美咲さんに言われ外を確認するけれど、


“それが、誰も見当たらなくて”


“誰も? まさかそんなわけ、誰かしら逃げて、外にいるはずなのに。ここにはたくさん人がいるのよね”


“……まさか、誰も逃げられていない? そんなことあるわけ……”


 私は息吹君と手を繋いだまま、過去の私の隣に立つ。そうして一緒に外を見れば、あの時と同じ光景が広がっていたんだ。助けを呼びたいのに、誰も外にいなくて、どうしようもない光景が。


“ママ……”


“息吹……。!? 煙が!!”


“……どうしてこんな!”


 過去の私は、どうしようもなくなって、椅子をその辺に投げるとベッドへ戻り毛布を手に取り、その毛布で過去の私と過去の息吹君と美咲さんを包む。ドアや壁の隙間から、どんどん煙が入ってきて……。


“大丈夫よ息吹、私が側に居るからね。怖いことなんてないわ。瞳お姉ちゃんも側に居るでしょう”


“うん、私もずっと息吹君と居るからね”


“ママ……、お姉ちゃん……、僕ぜんぜん怖くないよ。だってね僕、病気で怖いこといっぱいあったけど、……大好きな人といると、怖かった病気が、ぜんぜん怖くなくなったんだ。……だから今も、ぜんぜん怖くないよ”


“息吹……”


“息吹君……”


“だから、ママも、お姉ちゃんも、怖くない……、怖くないよ……”


 過去の伊吹君の言葉に、過去の私と美咲は、それ以上大丈夫という言葉は言わなかった。その代わり、息吹君が大好きな恐竜の話をして、短い時間を過ごしたの。そして……。


“……お姉ちゃん、お花取れる?”


“……うん”


 過去の私は手を伸ばし花瓶を取る。


“……これでみんな一緒だね”


“うん、そうだね”


“ママも、お姉ちゃんも、花も、みんな一緒……。良かった……”


“そうね、みんな一緒ね……”


 伊吹君の声がどんどん小さくなり、ついに聞こえなくなる。でも、息吹君の手は、最後まで美咲さんと過去の私の手を強く握りしめていたよ。そして……。


“……お兄ちゃん。ごめんね。……私も、もう……”


 過去の私も、その言葉を最後に呟くと静かに目を閉じ、それきり動かなくなったんだ。


 そうして、また始まる場面の早送り。と、気づけば私は、早送りが始まる前、いつもの中庭の花の前、話しかけていた状態に戻っていて。そんな花と私の前に、息吹君の幽霊が立っていたよ。

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