2話 知らない記憶、でも私はそれを知っている?
「この男の子がね、私の夢に出てきた男の子の幽霊にそっくりでね。たぶん同じ子だと思うんだけど。でも写真の日付は2日前で、どうにもおかしいんだ」
私は、写真の中の男の子を指さしながら話し始める。
「それに、私たちは初めて会ったはずなのに、あの男の子の幽霊はなぜか私の名前を知っていて、瞳お姉ちゃんって言ってきたんだよ。不思議だよね。ほら、この子ね……っ!!」
もう少ししっかりと、花が写真を見られるように、写真を持つ手を花に近づけた瞬間だった。
“瞳お姉ちゃん、ちゃんと撮ってくれた?”
“うん、バッチリだよ。はい、どうかな”
“うーん、あ、ダメだよ、先生が入っちゃってるもん”
“あっ、本当だ。ごめんね、すぐ撮り直すよ”
それは写真の中の光景と、とてもよく似ていた。……ううん、まるで写真の中に迷い込み、その現場に自分がいるみたいで。
写真の中の男の子が、誰かと話しているんだけど、その相手は私で。そして私は、手にカメラを持ち、ベッドに座る男の子の写真を撮り直すんだ。
でもその瞬間、ハッ!! として周りを見れば。私はちゃんと花の前に座っていて、花に写真を見せていたの。
「……何、今の。私は、男の子に会ったことも、話したこともないはずだよね? 写真のことを気にし過ぎて、勝手に私が想像しちゃった?」
私は頭を振り、今のおかしな感覚を少しでも振り払おうとする。でも、そんな簡単に消えるわけもなく、心臓のドキドキも収まらない。
ただそれでも、なんとか気を取り直して。今度は写真に写っていた、目黒先生かもしれない人物のことを、話そうとしたんだ。
「……あ、と、ええと、それでね。この端っこ、半分以上写っていないし、顔もしっかり見えないんだけど。ほら、この注射器のピアスを見て。これ、目黒先生のピアスにそっくりでしょう? もしかしたら目黒先生、男の子のことを知ってるんじゃないかなと思って。でも、ほら、幽霊騒動の時に、何も言わなかったってことは、何かの理由で隠していたんじゃないかと……」
“ほら、息吹君、薬の時間よ”
“先生! 後で瞳お姉ちゃんと外に行って良い? それで僕の大好きな木のところで写真を撮るの”
“良いけど、でも、ちゃんと薬を飲んで、具合が良くなったらよ”
“大丈夫だよ。僕、今日とっても元気!”
“それは分かっているけれど、でもこれからどうなるかは分からないわ。本当は行かせたくないのよ”
“目黒先生、私からもお願いします。ここ数日、息吹君は熱も出していないし、ご飯もちゃんと全部食べて、検査も頑張って受けてくれているんです”
“先生お願い!!”
“……はぁ、分かったわ。私だって、あなたが頑張っているのはちゃんと分かっているもの。じゃあ、午後の点滴が終わったら中庭に行きましょう”
まただった。また写真の中に入り込み、同じようにその中の時間が動き出す。今度は、男の子と私は同じ人物を見ているんだ。そしてその人は白衣を着ていて、薬の用意をしながら、少し困ったような顔で私たちと話しているの。そしてその人は……目黒先生だった。
と、そこでまたハッ!! とし、現実に戻る私。
「また? 一体何なの? だから私は、何も知らないんだよ。なんで何も知らないのに、この写真を撮った時の様子が分かるの? そう、私は何も知らないんだよ……」
私は大きく深呼吸をし、それから、また花に話しかける。ただ、この時の私は、最初に花に話し始めた時のような勢いはもうなかった。
それに、今話している写真のことだけじゃなく、ここでの生活や研究、今までの出来事に、自分で調べたこと、全てにおいて。まるで今の状況みたいに、ある真実に引き込まれていくような感覚がしていたの。
……本当はこの時、心のどこかでは分かっていたのかもしれない。私が今見ているものが、一体何なのかを。
だけど、それを認めるのが怖くて。それにまだどこかで、それは違う、私の気のせいだ、と思う気持ちの方が強くて、考えないようにしていたんだと思う。
だけど、次の話をして、そして最後に、あれの話をした時には……。
「……それから他にも。これ、窓から見えている木のことなんだけど、私の部屋の窓から見える木とそっくりでそれでね。もしかしたらこの男の子のいる場所……」
“お姉ちゃん、あの木のところだよ!”
“ほら、走っちゃダメだよ”
“あ、ごめんなさい。あのね。僕、あの大きな木が大好きなんだ。僕、大人になったら、あの木みたいに大きくなりたいの。背、伸びるかなぁ”
“息吹君なら大丈夫。あ、でも、ご飯は好き嫌いしないで食べて、ちゃんと薬を飲まないとダメだよ。それで元気になって、大きくなるんだからね”
“僕、ピーマン嫌い。ニンジン嫌い”
“食べないと、おばちゃんにも怒られるよ。おばちゃんのプリン、食べられないかも”
“うーん……今日は我慢する”
“今日だけじゃなくて、いつも食べないとね”
“あっ、そうだ、お姉ちゃんも一緒に写真撮ろうね!!”
“もう、私の話聞いてるの?”
今度は男の子がベッドから降りて窓に駆け寄り、私も窓に近寄ると、男の子と一緒にあの大きな木を見る。それは私の部屋の窓から見える木と同じで。というか、外の景色が、この研究所そのものだったよ。
ここで現実に戻る私。
男の子がいる部屋が、本当に研究所にあるとしたら? 私はもちろん、写真のような病室が、研究所にあるなんて知らない。
ただ、今の景色の感じだと、確かあの辺りの部屋には、所長室の隣の部屋と同じ、立ち入り禁止の部屋があったはずで。
……本当にあの部屋を知らない? ううん、私はあの部屋に何度も入っている。そう、何回も。
「……最後に、この花を見て」
私はもう余計なことは言わずに、最後にあれの話をしたよ。花の話をね。
「ここに、まだ蕾のままの花が飾ってあるでしょう? これだよ。……これ、葉っぱも蕾も、あなたそっくりだと思うんだけど。どうかな? 同じ花を、誰かが男の子の部屋に飾ったんだとおも……」
“あ、お姉ちゃん!! 蕾がね、大きくなったんだ。見て見て!”
“大きく? 本当に? 私には同じに見えるんだけどな”
“えー、ぜんぜん違うよ。ほら、ここが膨らんで、丸く大きく可愛くなったんだよ”
“うーん”
“お姉ちゃん、ダメダメだね。お姉ちゃんがくれたんだよ? ちゃんと僕みたいにお花の日記を書いた方が良いよ。今日から一緒に書こう”
“えー、お姉ちゃんはいいよ”
“一緒に書くの。あ、それでね、この花が咲くちょっと前になったら、パパがママを呼んでくれるって”
“本当? 息吹君、良かったね!! 今回はなかなか会えなかったものね。じゃあ、お母さんへのプレゼントを考えないと!”
“うん!! 蕾さん、ママが来たら、みんなで外でご飯食べようね。蕾さんも一緒だよ。お姉ちゃんも、みーんな一緒!! 僕、とっても楽しみ!! あっ、お水! 新しいお水に変えてあげなくちゃ!!”
“息吹君は薬だよ。私がお水を変えてあげるから、ね”
“はーい!”
男の子に蕾のことを聞いて。でもそれに対して私は、以前自分が蕾について宮本さんと目黒先生に聞いた時に、2人から返されたような返事をして。
そのあとは、男の子から可愛い花瓶を受け取ると、男の子は目黒先生に渡された薬を飲み始め、私は花瓶を持って流し台へ。そして水を変えようと花を触った瞬間……。
私は現実へと戻ってきたんだ。そして、
「……私は。私は、男の子のことも、こも研究所のことも、よく知ってる?」
そう言った瞬間、私の頭の中に光が流れ込んできたの。




