1話 男の子の幽霊の警告、そして『お姉ちゃん』呼び
「……あ、また会えた」
思わぬ物をたくさん見つけ、その内容に理解が追いつかず、かなり動揺してしまっていた私。そんな私に追い打ちをかけるように、何かを思い出しそうな、そんな感覚にも襲われていて。私は少し、パニックになっていたんだと思う。
今、私がどこにいて何をしているとか、男の子がどうして戻ってきたのかとか。そういう状況を一切考えず、とりあえず何でも良いから確かめたいと、私は男の子の幽霊に、普通に質問してしまったんだ。
「……戻って来てくれたんだね。……そう、そうだよ、聞かなくちゃ。そう、聞かないとダメ。あのね、私、あなたに聞きたいことがあ……」
ただ、質問している最中だった。男の子の幽霊が、私の話を遮るように話しかけてきたの。
『出て!!』
「……え?」
それは、夢の中と現実とで聞いた男の子の幽霊の声の中で、1番大きく、そしてハッキリとした声だった。
『来るよ! 逃げて!』
「……逃げる?」
『逃げて! もし追いかけようとしたら、僕がお姉ちゃんの方へ行かないように止めるから!!』
「止めるって誰を止め……」
『瞳お姉ちゃん!!』
そう、男の子の幽霊に名前を呼ばれた瞬間、ハッ!! とした。ただそれは、どうして男の子の幽霊が、私の名前を知っているのかとか、また、おかしなことが起きた? とか。そういうことでも、もちろんハッとしたんだけど。
それ以上に、今までずっと私は、男の子の幽霊に『お姉ちゃん』と呼ばれていたような、それが当たり前だったような感覚がして。それで現実に引き戻されて、ハッとしたというか。
ともかく、男の子の幽霊に呼ばれたことで、私のパニックは収まり、私はしっかりと状況を見ることができたんだ。
「あ……。戻ってくるのね!?」
『うん!!』
「教えてくれてありがとう!」
私は持っていた男の子が写っている写真をポケットに入れると、引き出しを閉めて、急いでドアに向かう。そして……。
「……ここへ導いてくれてありがとう。また会いにきてくれる? いろいろ教えて欲しいことがあるんだ。待ってるからね」
『……行って。僕が止めておくよ』
男の子の幽霊が頷き、私の後ろのドアを見る。
私は、そのまま急いで廊下へ出ると、すぐに階段の方へ向かう。そして数段階段を下りた時だった。
私とは反対方向から、歩いてくる足音が聞こえてきて。私はその場で止まり、その音を確認する。
すると、その足音は途中で止まり、ドアが開く音が聞こえ、そのあと閉まる音も聞こえてね。たぶん所長が、所長室か隣の立ち入り禁止の部屋に入ったんだと思う。
ふぅ、男の子の幽霊が知らせてくれなかったら、大変なことになってたよ。それにちょうど全部調べられたところで良かった。……最後にあの写真も見つけたしね。
思わず持って来てしまった、ポケットに入っている写真を手で触る。そして……。
「……まずは中庭に行ってみよう。調べなくちゃいけないこと、考えなくちゃいけないことがいろいろあるけど、まずは花を確かめなくちゃ」
私はとりあえず、1番気になっている、写真に写っている花と、中庭に生えている花が同じかどうか確かめようと、そのまま中庭へ向かうことにしたよ。
この前、山田さんたちの部屋を調べた時は、調査が終わったあと休憩したけれど、今回はすぐに確認せずにはいられなかったんだ。
そして、すぐに花の元へ着いた私は、花の前に座り、少しドキドキしながら、ポケットから写真を取り出したの。すると……。
「……さっきよりも、強くなった?」
この写真を見てからだ。それまでにも、あの立ち入り禁止の部屋で見つけた物に、今までにないほどの違和感を感じて、胸がとてもざわついたけど。
この写真からは、そんな胸のざわめきなんて大したことないくらい、物凄い違和感を感じて。そしてその違和感が、私の中から出てこようとしているような、何かを思い出させようとしているような、そんな感覚に襲われていたの。でも今は……。
今までのことも大切だけど、でも今はこれだけ、この写真のことだけしっかし考えろ、思い出せと、さらに強く私に訴えかけてきている。
男の子の幽霊と同じ男の子。目黒先生らしき白衣を着た人。私の部屋から見える木と、同じように見える木。そしてあの蕾のままの花。
この写真の光景を実際に見たことがあって、しかもこの写真を撮ったのは自分じゃないのか。そう、感じている私。
この写真の光景を実際に見たことがあって、しかもこの写真を撮ったのは自分なんじゃないのか。……そう、何となく感じる私。
私は深呼吸をしながら、一旦写真を下げると、花に話しかけた。
「今日も朝からおかしなことばかり、じゃなくて、いろいろと衝撃的すぎる経験をしちゃってね。まだ1日が始まったばかりなのに、もうすでにボロボロのヨロヨロだよ。さっきも逃げる時、何回か転びそうになったしさ。あなたはどう? 今日もいつも通り?」
“……”
「……元気はいつも通りみたいだけど、今日は何も答えてくれないの?」
風に揺れる花。元気がないとか、具合が悪い感じには見えないけど、今日はあまり私の話に、答えてくれている気はないみたい。
……いや、そうじゃない。いつもはすぐに優しい言葉をくれるのに、今はただ黙って、しっかりと私の話を聞いてくれている感じ? そのまま思っていること、感じていることを、全て話せって。
「そっか。……いつも私の話を聞いてくれてありがとう」
私は、そうお礼を言ってから、さっきあったことを順番に話し始めた。
「そう、まず1番の凄いことは、私、男の子の幽霊に会ったんだ。まさか現実で会えるなんてね。しかも話までしたんだよ。ね、凄いでしょう? それから、その子が立ち入り禁止の部屋の鍵も、他の鍵も開けてくれて、もう助けられてばかりで、後でまた会えたら、もう1度しっかりお礼を言うつもり。それで、部屋に入ったあとは……」
全部話すのに、10分もかからなかったと思う。細かいところは省いて、ざっと話しただけだからね。
ただ、もともとは、何があったのか、花に報告するつもりで話していたけれど、順番に口に出して話したことで、頭の中が整理されていって。話し終わる頃には、頭の中も気持ちも少しだけスッキリして、このあとの写真について考える余裕もできていたんだ。
「と、ここまではこんな感じかな。……それでね、問題の写真のことなんだけど。ほら、ここに男の子が写っているでしょう」
そうして簡単に話をした後は、1番気になっている写真の話をすぐに始めたの。
ただ、この時の私は、自分の周りで変化が起き始めたことに気づいていなかったんだ。研究所の外に、今までの深い霧でもなく、曇り空でもなく、暗闇が広がり始めていたことに。
そして花に写真のことを話したことで、私自身にも、新たな変化が起きようとしていたの。




