4話 男の子の幽霊との接触と立ち入り禁止の部屋
私は一体どこへ向かったのか。それは、夢の中で何度も訪れていた所長室だよ。
調査を始めてから、現実でも何度か、所長室の前まで来たことはあったんだ。ほら、夢の中で男の子の幽霊が、所長室の方を見て、『あっち』から始まり、『ある』とか『ひみつ』とか、いろいろ言っていたからね。何かあるんじゃないかって、思うじゃない?
それに、所長室に本当に、立ち入り禁止の部屋へ続くドアがあるのか、とても気になっていたし。
ただ、所長も研究をしていて、所長室から離れていることが多いはずなのに。なぜか私は毎回、所長がいる時に来てしまって。
少しでも長く所長室の前にいれば、やっぱり気づくのか。所長が部屋から出て来て周りを確認するから、顔を合わせないようにすぐに逃げるのが大変でね。
まぁ、そもそも、所長がいなかったとしても、鍵が閉まっていて中には入れないから、来ても仕方がなかったんだけど。それでも何かヒントになる物はないかと思って、来ていたんだよ。
でも今回は? 所長室に所長はいない状態。なぜか事件現場に姿を現わしたから、どこにいるかも、しっかり把握できていて、しかも課長たちと話しているところ。あの感じだと、まだ帰ってこないと思うんだ。
それに、急いで事件現場に来たみたいだから、所長室のドアの鍵を閉め忘れているかもしれないじゃない?
……まぁ、あの所長のことだから、その可能性は限りなく低いけど。でも、今までにないチャンスなことに変わりはないからね。だから急いで所長室に向かったんだ。
所長室の前に立つ私。最初は早歩き、途中から走って来たから少し息が乱れていて、落ち着くのを待つ。
ただ、少しして息が整っても、心の中のドキドキでは治るはずもなく。でも、ここで時間を使うなんて勿体無いことはできないから、私は深呼吸をしたあと、意を決してドアノブを握り、しっかりと回したんだ。でも……。
「はぁ、だよね。鍵をかけないわけないよね」
思わず溜め息を吐いてしまった。やっぱりドアにはしっかりと鍵がかかっていて、びくともしなかったよ。
せっかくのチャンスだったんだけどな。せめて、所長室の中にあるかもしれない、隣の立ち入り禁止の部屋へ入れるドアが、本当にあるかだけでも確かめたかったな。
残念に思いながら、やっぱり諦めきれず、もう1度だけドアノブを回してみる。
「やっぱり無理か。うーん、こうなったらまた、直談判をしに来たフリでもして、中に入れてもらって、その時に隙に確認するしかないかな?」
そう考えて、私は今度こそ諦めて、宮本さんのところへ戻ろうとする。と、その瞬間だった。
今まで何も感じなかったのに、突然それが現れたのを感じ、私は動きを止めたんだ。そして、この時私が思ったことは、『居る』だった。
そのままの姿勢で、少しだけあちらの様子を伺う。もしかするとすぐに気配が消えるかもと思ってね。それに、もしかしたら私の勘違いかもとも思ったし。
だけど、数十秒経ってもそれは消えることなく、それどころか気配よりハッキリしてきて。ああ、これは勘違いでもなく、相手も消えるつもりはないなと、なぜか確信してね。
私は自分に、大丈夫、夢では襲われなかった。それどころか『気をつけて』と心配してくれたんだから、だから大丈夫と言い聞かせ。
そして数回、小さく深呼吸をしたあと覚悟を決めて、ゆっくり横を振り向いたんだ。すると……。
やっぱりいた。私の少し向こう、あの男の子の幽霊が、私を見ながら静かに立っていたよ。
お互いの目と目が合った瞬間、一気に緊張が増す。大丈夫と言い聞かせていたけれど、絶対に大丈夫というわけじゃないから。私の考えが間違っていて、このあと襲われたら? と本当に緊張したよ。
ただ、その時間は長くは続かず、先に動いたのは男の子の幽霊の方だった。男の子の幽霊が横を向き、それから腕を上げある場所を指し示してきて。私はそれを、目だけ動かし確認する。
男の子の幽霊が指し示したのは、立ち入り禁止の部屋のドアだった。そして私がドアを見た途端、カチャリと鍵の開く音がしたんだ。それからまた、じっと私を見てくる男の子の幽霊。
え? もしかして鍵を開けてくれたの? どうやって? 幽霊だから開けられるとか?
いろいろ想定外のことが起こって。それから、まさかの幽霊と~するという体験をしているせいか、今それはどうでも良いだろう、ということまで考えてしまう。
でも、それが良かったのか、少し気持ちが落ち着いて、このままでいてもしょうがないと。私は勇気を出して、男の子の幽霊に話しかけてみることにしたよ。
「……あの」
『……』
『私に、何か用があるの?』
『……』
「どうして夢に出てくるの? あの言葉で、私に何か伝えたいことがあるの?」
『……』
何も答えない男の子の幽霊。まさか幽霊に話しかける日がくるとは。
幽霊って、本来……。本来? いや、本来って言うのもおかしいけど。そもそも幽霊なんて、本当にいるのかどうかすらはっきりしていない存在で。いたとしても、姿は見えず、声も聞こえないはずでしょう? 幽霊番組とかで、幽霊は映った、声が聞こえるとかはあるけどさ。でも、基本はそうじゃない?
だから、それが本当なら。私は今、見えない存在に向かって話をしていることになるってことで……。
もしも今、誰かが通りかかって、その人が男の子の幽霊を見ることができなかったら。私は1人で話しているように見えて、絶対に不審がられるだろう。
でも、確かに今、男の子の幽霊は私の前にいて。夢と同じ、私を襲ってくることはなく、何かを伝えようとしてくれている。
「……鍵を開けてくれたの? 私にその部屋の中を見て欲しい? 部屋の中に、私の知りたい何かがある?」
『……』
あいかわらず反応のない男の子の幽霊。それでも私は、とにかく質問を続ける。
夢の中では、私が何も言わなくても、いろいろな言葉を言ってくれるようになった男の子の幽霊。もしかしたらここでも、何か言ってくれるかもしれないでしょう?
それに、夢の言葉よりは、その内容が分かると思うんだ。何しろ夢の中の言葉は、難しいものが多くて、今もまだまだ考え中の物がいっぱい。
でも、今私が質問しているのは、鍵についてや、何か見て欲しいものがあるの? とか、簡単な質問だけ。
だからそんなに、難しい言葉は必要なくて、『うん』とか『違う』とか言ってくれれば良いし。なんだったら、ここでは話せないのなら、頷いたり首を振ってくれるだけでも良いからね。そう考えて、質問を続けたんだ。
そうして、どれだけの時間が経ったのか。この時はとても長い時間、質問していた気がしたけれど。たぶんそこまで、時間はかかっていなかったかもしれない。
「この部屋に入ったら、何か大切な物が見つかるの? 私にとって大切な物?」
“……こくん”
!?
何個目かの質問だったか。ついに男の子の幽霊が頷いてくれたんだ。それと、ドアの前から少しだけ離れてくれたの。
「……そっか。鍵を開けてくれて、そしてここへ導いてくれてありがとう!」
私はそう言うと、そっと歩き始め、数歩で男の子の幽霊の前に立つ。
この時の私は、今までで1番緊張していたかもしれない。だって、いくら状況が状況だったとしても、そしてお礼は言ったけれど。まだ少しは、襲われるかもしれない可能性が残っていたんだからね。
ただ、私のそんな不安とは裏腹に、男の子の幽霊は私が前に立つまで、ずっと私の動きを見ていて。立った後は、またドアを見て、その後は動かなかったよ。
私は一呼吸置き、ドアノブに手をかける。そして、ドアノブを回すと、そっとドアを開けたんだ。




