2話 それぞれの残された部屋と言葉に意味
それで、川島さんの部屋の鍵問題だけど。もちろん警察からの指示で、川島さんの部屋も、基本は鍵がかけられているよ。
だけど、どうにも日当たりが悪いせいか、締め切ったままだと、部屋の中にかなり湿気がこもってしまうらしく、時々換気をしないといけないみたいで。時々鍵が開けられ、空気の入れ替えが行われているんだ。
だから、今がその時なら、部屋の中には入れるかも。ダメなら、神谷のおばちゃんの部屋を調べてから戻ってくれば良いし、なんて。山田さんの部屋の時よりも、心配せずに向かったんだ。
そうして川島さんの部屋に着き確認してみれば、バッチリ鍵が空いていて。私はすぐに川島さんの部屋に入り、調査を始めることができたよ。
川島さんの部屋も山田さんの部屋同様、あの日のままだった。その辺に転がっているぬいぐるみたちに、可哀想にビリビリのボロボロに、引き裂かれてしまっているぬいぐるみたち。
ただ、山田さんの部屋のように、何か書き留めないといけないようなものはなく。写真を撮っただけで、山田さんの部屋よりも半分の時間で、調査は終わったんだ。だけど……。
最後に部屋を見渡した私。あれだけ川島さんが大事にしていたぬいぐるみたちが、この状態のままなのが、どうしても可哀想に見えてしまって。
警察には何も触るなと言われていたし。自分でも、何かの証拠になりそうな物を触ったらいけないと、本当は分かっていたけれど。
一応その場からは動かさず、ぬいぐるみを起き上がらせ、座らせてあげて。ボロボロになってしまったぬいぐるは全てまとめ、近くにあったぬいぐるみを数体だけ、近くに置いてあげたよ。
そして、川島さんがいなくなって、きっとこの子たちも寂しいはず。警察が捜査を開始してくれるみたいだから、それで真実が分かったあとは、みんな川島さんのところか、川島さんの家族のもとに戻れるといいんだけど。と、そう思いながら、私は川島さんの部屋を後にしたんだ。
そうして向かったのは、もちろん神谷のおばちゃんの部屋。
「さぁ、最後はおばちゃんの部屋だ」
神谷のおばちゃんの部屋の前に立ち、深呼吸をして、一旦心を落ち着かせる私。とりあえず今のところ、順調に進んでいる部屋の調査も、神谷のおばちゃんの部屋で最後。最後まで周りに注意しながら、しっかりと調べないと。
神谷のおばちゃんの部屋は、私の仮の証言で、課長たちが部屋を見に来た時に、私も一緒にきたから。今日はその時と違いがないか確認するのと、何かおかしな物がないかないか確認する予定。
ちなみに神谷のおばちゃんの部屋は、鍵は開けっぱなしになっているよ。
山田さんや川島さんみたいに、神谷のおばちゃんがおかしくなったところを見たのは私だけだし。失踪の瞬間を見たのも私だけ。しかもその時のことを話せずに、ただ出て行くのを見たと話してしまったから。
その話を他の人たちが知ると、もちろん事件に関係あると思っている人たちもいるけれど。『おばちゃんは失踪というよりも逃げたんじゃ?』と思う人たちもいて。
そしてそれは、今は連絡の取れない、ここに来たけれど、あまり真剣に調査しているようには見えなかった、あの警官たちも同じみたいで。
神谷のおばちゃんの失踪は、そこまで重要視していないというか、一応部屋は保存しておくように言われただけでね。
神谷のおばちゃんは、料理長をしていたから。部屋に、食事に関してのいろいろな物が置いてあるらしく。みんな食事管理のこともあるから、料理人さんたちがいつでも取りに来られるように、ドアの鍵は開けたままになっているんだ。
ただ、開いていると分かっていても、ドキドキするもので、そっとドアノブに手をかけ回すとドアが開いた時は、思わずホッと溜め息を吐いてしまった。
「ふぅ、良かった。……中に、人はいない? よし、今のうちだ!」
私は急いで中へ入り調査を開始する。
そう、開始したんだけどね。おばちゃんの部屋の、山田さんや川島さんと同じ、最初に確認した時のままという感じで。
細かく調べても、山田さんの部屋のような、おかしな物はないし。部屋の中は散らかっているけれど、川島さんの部屋のような散らかり方ではなく。急いでここを出る準備をしていて、散らかったという感じで、机周りとベッド周りだけが散らかったまま。
他も、トイレとかお風呂、ミニキッチンも綺麗だし。料理人さんたちも来ているはずだけど、どこをどう動かしたっていうのも分からなかったし。
だから神谷のおばちゃんの部屋も、すぐに調査を終わらせることができたんだ。
「写真もこれくらいで良いかな? よし、他の人が来ないうちに戻ろう」
私はそう言いながら、神谷のおばちゃんの部屋を見渡す。するとその時、テーブルの上に置いてあった、おばちゃんの写真が目に入ってね。写真の中のおばちゃんは、私たちと話す時みたいに、いつもの優しく元気な笑顔だったよ。
私はその写真を手に持ち、それからおばちゃんが使っていたベッドに近づき、腰をかける。そして……。
「おばちゃん、あの時助けることができなくてごめんなさい。それに、私に勇気がなくて、本当のことを言えなくてごめんなさい。……今の私に、どれだけのことができるかは分からないけど、ここを出るまでに真実を見つけて、少しでもおばちゃんや、山田さんや川島さんを救えるように頑張るから、待っていて」
そうおばちゃんに伝え、ベッドから立ち上がり写真をテーブルに戻すと、そのままおばちゃんの部屋を出たんだ。
そうして自分の部屋へ戻ると、大きな溜め息を吐きながら、思わずベッドに飛び込んでしまった。
調査の時は、調べることに集中していたから、あまりあれだったけれど。部屋に戻って来て落ち着いたら、初めての調査と、いろいろなストレスがかかっていたのかな、ドッと疲れが出ちゃってね。少しだけ休憩することにしたよ。
そして30分くらい休憩したあと、まず最初に、山田さんの部屋の文字から、確認することにしたんだ。
「『俺たちは、もう』って、一体何を言いたかったんだろう? もう、何? それに『子供』は、男の子の幽霊で本当に間違いないの?」
いくつかの言葉をピックアップし、いろいろと関係性を考えてみる。例えば、『子供』と『真実』と『騙されるな』を合わせてみるとかね。
山田さんは、この研究室に来るマイクロバスの中で、こんな怖い話をしていた。
ある難病の薬を研究している研究所で起きた出来事。そこには、自分の子供が難病にかかっている研究員がいて、表向きは子供を治すために懸命に研究していた。だけど実は裏で、子供を助けるために他人を使った人体実験を繰り返していて……。
そのうち、人体実験で亡くなった人々の幽霊が現れ、研究所は呪われることに。そして原因となった研究員は、人体実験の被害者の幽霊とともに研究所に囚われ、2度と外の世界に戻れなくなった……。
という話ね。私たちマイクロバスに乗っていた人たちは、男の子の幽霊の話が出た時に、この話を思い出していたんだ。それで、もしかして本当にそういう子供の霊がいるのかも、なんて言う人もいて。だから、男の子の幽霊に、その話の印象が強く重なってしまっていたの。
実際、山田さんは、これってもしかして、本当の話だったのか!? なんて言いながら、調べていたしね。
そうして調べるうちに、男の子の幽霊のことで、何か分かったかもしれない山田さん。でも、私たちが考えていたような、男の子の幽霊じゃなくて。そう、怖い話の内容が真実じゃなかったと分かり、それで私たちに騙されるなと書き残したとか?
うーん、でも、この研究所で何か事件が起きたなんて、聞いていないしなぁ。
「それに、他の言葉も、あまり使わない言葉ばかりだよね。この『呪い』や『生贄』それに『繰り返し』ってどういうことだろう。男の子の幽霊と、呪いが関係あるとか? それとも全く関係ない?」
考えれば考えるほど、いろいろな状況が浮かんできて、頭の中がこんがらがってくる。でも、それでも、この事件に関するヒントが何か見つかるかもしれないんだから、頑張って考えないと。
「そういえば、『長』なんて言葉もあったな。『長』ってなに?」
男の子の幽霊に関すること関係しなくても、私たちに伝えたい何か長い物を見つけた? ……いやいや、これだけあまり良くない言葉をたくさん書いていたのに、突然長い物のことについて、書くわけないよね。
感覚的なことかな? 例えば時間、長い間、長時間、長年とか。
あっ、役職のことだったりして! 課長や所長みたいに、『長』がつく人たちのこと。もしかしたらこの事件、所長と課長が事件に関わっていて、それを私たちに伝えようとしたとか!
……なんて、あるわけないか。私が見た、神谷のおばちゃんが消えた時の様子。あんな非現実的なこと、さすがに所長たちには無理だもんね。
と、こんな感じで、それからも私は言葉について、いろいろと考えたんだ。




