義姉の悩み 1
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ビアンコが加わったことで、道中はさらににぎやかさを増した。
人懐っこい性格のようで、あっという間にカーラとルクレツィオに懐いたビアンコは、当然のようにイアナたちにも愛嬌を振りまいてくれる。
結果、イアナもすっかりビアンコの可愛らしさにメロメロになってしまった。
「ビアンコは賢くていい子ですね」
イアナは膝の上に乗せたビアンコのふわふわの背中を撫でる。
イアナの隣にはカーラがいて、小さな手でビアンコの頭をわしゃわしゃしていた。
対面座席のフェルナンドの隣に座っているルクレツィオが、ビアンコに触りたくてうずうずしているようだ。
「白狼はもともと知能の高い動物だからな。一説によると、成獣になればその知能指数は十歳の子供と同じくらいだと言われている」
「それはすごいですね」
「ああ。魔力を持った個体だというのが引っかかるが、エラルドの言う通り、きちんとしつけができれば、これ以上はない番犬になるだろうな。ただ……普通の白狼は成獣になったら二メートルはあると言われている。魔獣化した魔物はそれ以上に大きくなるから……ビアンコはいったい、どのくらいの巨体になるのか、今から不安ではある」
「た、確かに……」
「びあんこ、おっきくなる?」
カーラがきらきらと目を輝かせた。
「そうねえ、大きくなると思うわ」
「背中に乗れる⁉」
ルクレツィオも目をキラキラとさせる。
大きさにもよるだろうが、二メートル以上もの巨体ならば、子供が背中に乗るくらいはわけないだろう。ビアンコが乗せてくれればだが。
「それは、ビアンコがいいって言ってくれたらね?」
「いいよね、ビアンコ!」
ビアンコがきょとんとした顔で「くぅん」と鳴く。
「ばぁば、ビアンコ、いいよって言ったよ!」
「そ、そう?」
今のはそういう返事だったかしら、と疑問には思ったが、水を差してガッカリさせることもあるまい。
「ルッツィ、大きくなったら、よ? 小さいうちに背中に乗ったら、ビアンコがぺっちゃんこになっちゃうわ」
「うん! ビアンコの背中に乗って、お城の周りをパトロールする!」
フェルナンドがルクレツィオの頭を撫でて、「大きく成長すればそういうこともあるかもしれないな」と笑う。
「帰ったらビアンコのお家をどうするか決めないといけませんね。子供部屋に近い部屋がいいでしょうか?」
「そうだな。大きくなったらそのときにどうするか考えるとして、小さい間は子供部屋に近い部屋を使おう。しつけはエラルドがすると言っていたが……そう言えばエラルドは、犬のしつけができるのか?」
「犬を飼われたことはあるんですか?」
「いや、ない。……自信満々に言っていたが、大丈夫なのか、あいつは……。子供にいいところを見せたくて、偉そうなことを言っただけじゃないのか?」
あり得る。イアナは苦笑した。
「帰ったら、犬を飼ったことのある方に助言をもらった方がいいですね」
イアナも犬は飼ったことがない。前世でも今世でもだ。前世の息子が欲しがっていたが、夫がアレルギー持ちだったので飼えなかったのである。
「そうしよう。ああ、そうだ。兄上が犬を飼っているはずだ。兄上にも聞いてみよう」
アルフィオ先王は、退位して離宮へ移り住むときに犬を飼いはじめたのだそうだ。それも一度に三頭も。犬の面倒を見るお犬番も雇っているというし、何かと助言をくれそうだとフェルナンドは言う。
「先王陛下ですが、いきなりビアンコを連れていったらびっくりしませんか?」
「大丈夫だろう。むしろ喜ぶと思う。白狼の子供だからな。成獣ですら何十年も目撃情報がないのに」
「まあ、珍しいのは珍しいのですけど」
だけど、魔力持ちの子犬……いや子狼である。アルフィオ先王はともかく、彼の身辺警護を担っている騎士たちはギョッとするに違いない。
(旦那様のことだから、早馬で状況を伝えていると思うけど……今頃、離宮は大騒ぎでしょうね)
カーラとルクレツィオがビアンコにべったりなので、ビアンコだけステファーニ公城に連れて帰ってもらうわけにもいかなかった。そうなれば二人も帰ると言い出すだろう。もちろん子供だけを帰すわけにはいかないので、アリーチャとエラルドもついて帰ることになるが……、アルフィオ先王は一家で来いと言ったいたのだ。エラルドたちが帰ったら先王の命令に背くことになる。
「そんなに不安がらなくとも大丈夫だよ」
フェルナンドが言うのならそうなのだろう。だけど、先王と直接会ったことのないイアナは、彼がどんな人物なのかを知らないのだ。名君だったのは知っているし、国民人気も高かったけれど、イアナが知っているのはそういう表層だけなのである。
(籍を抜いたとはいえ、わたしの実家には悪い噂が立っているから……)
結婚に待ったが入らなかったのだから、反対はされていないのだろう。だけど、どう思われているのかは会って見ないことにはわからない。
ちょっぴりの不安を抱えたイアナを乗せた馬車が離宮に到着したのは、次の日の昼前のこと。
アルフィオ先王の暮らす離宮は、湖畔が臨める景色の美しい高台の上に立っていた。
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