白狼の子供とお孫ちゃんズ 4
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フェルナンドとエラルドたちが戻ってきたのは、それから間もなくのことだった。
発煙筒の煙を見て、こちらに何かあったと慌てて戻ってきてくれたらしい。
だが、能天気に白い子犬と遊んでいる子供たちに、フェルナンドもエラルドも目を点にした。
「イアナ、何があった?」
「それが、あの子犬は白狼の子供らしいんですけど」
「なんだって⁉」
フェルナンドが目を見開き、カーラとルクレツィオの元に向かった。
子供たちに撫でられるままになっているビアンコを見て、こくりと喉を鳴らす。
「た、確かに……。いや、実物を見たことがないから確実というわけではないが、可能性は充分にありそうだ。文献で読んだ特徴と一致する」
「で、この白狼の子供がどうしてカーラの……ああー」
「何かわかったのかエラルド!」
「ええまあ。魔術師にしかわからないでしょうけど、これはまた、困ったことになったな」
がしがしとエラルドが首の後ろをかく。
「なるほど、カーラが感じ取っていたのはこの子の気配だったのか。そしてこの子もまた、カーラの気配を感じ取って追いかけて来た。そういうことかな?」
「どういうことですか、エラルド」
一人で納得していないで説明してほしい。
「まず最初に、この子の親はこの子を探しに来ないでしょう。だから親の白狼に襲われる危険はありません。おそらくこの子は、育児放棄されたんです」
「育児放棄? どういうことですか?」
「別に珍しいことじゃないですよ。ただ、この個体は反応が早すぎたんでしょうね。ずいぶん早く親が突き放したみたいだ」
「育児放棄……反応……まさか、魔獣か⁉」
フェルナンドが驚きの声を上げると、エラルドが頷いた。
「ええ。わずかながら魔力の気配を感じます。野生動物は、魔獣化の兆候を感じ取ると、それを異質として群れから追い出す傾向にある。子供のうちに反応があれば、当然親は育児放棄します。異質と判断してね。とはいえ、これだけ早く反応がある子も珍しい。そしてこれだけ小さいうちに育児放棄されて、ここまで生き延びていたのも珍しい。きっと強い個体なのでしょう。だけど、白狼は群れで生きる動物です。一人ぼっちが寂しくて、似た気配……魔力を感じて、カーラや僕が乗っている馬車を追いかけて来た。そう言うことだと思います」
「白狼の、魔獣……」
「実際に見たことはありませんし、文献にすら乗っていませんが、珍しいことではないでしょう? 動物が魔力を持てば魔獣になる。白狼だって動物です。守り神と言われても、実際神様ではありませんからね」
「それはそうだが……困ったな」
白狼はこの地域の守り神。魔獣化の兆候があるとはいえ、簡単に討伐するのは難しいのだろう。さらには、可愛い孫二人がすっかり懐いてしまっている。取り上げて討伐なんて言えばどうなるか、想像に難くない。二人の心に大きな傷をつけることになるだろう。
「エラルド、魔獣ならばお前の方が詳しいだろう。この場合、どうすべきだ? やはり……」
「僕、子供たちに嫌われたくないです」
「私だってそうだ! だが、そう言う理由でこのまま放置もできないだろう! 山に逃がしても、この様子だとまたカーラを追いかけて来るぞ」
「でしょうねえ。となると方法はひとつしかないですね」
やはり討伐だろうか。
イアナの胸が重くなる。
お孫ちゃんズの悲しむ顔は見たくないし、魔獣化の傾向があるとはいえ、子供の狼を討伐するのは心が苦しい。どう見ても子犬なのだ。
イアナはそっとフェルナンドの腕をつかんだ。きゅっと腕に抱き着くと、フェルナンドが心配そうに見下ろしてくる。
もし討伐するのならば、カーラとルクレツィオが傷つかないように、ひっそりと行ってほしい。少なくとも今目の前での討伐は避けてほしかった。
イアナが沈痛な気持ちでぎゅっと目を閉じた時だった。
「カーラ、ルクレツィオ、この子の名前は?」
エラルドが能天気な声で二人に訊ねた。
イアナは驚いて目を開ける。
カーラとルクレツィオが口を揃えて「ビアンコ!」と叫んだ。
「ビアンコかあ、いい名前だな。よし、今日からこの子はビアンコだ」
「ちょっと待てエラルド!」
フェルナンドがギョッとして大きな声を上げた。
「まさか飼う気か⁉」
エラルドが不思議そうに振り返る。
「そうですけど? 方法はひとつだって言ったじゃないですか。僕、子供たちに嫌われたくありませんし」
「いや、だからと言って、魔獣……」
「幸い、この子はまだ子供ですからね。魔力コントロールを覚えさせれば暴走もしません。もともと魔獣が凶暴化するのは、魔力コントロールができないからというのが学説です。今からしっかりとしつければ、きっと我が家の優秀な番犬になってくれるでしょう」
「な、何を能天気なことを……」
まったくその通りである。
アリーチャもあんぐりと口を開けているし、騎士たちも茫然としていた。
そんな彼らに、エラルドは言う。
「では父上たちは、カーラとルクレツィオからこの子を取り上げて殺すと?」
殺す、という単語にいち早く反応したのはカーラとルクレツィオだ。ビアンコを守るようにぎゅっと抱き着いて大きな目を咎めるようにこちらへ向けて来た。
こんな目をされて、そうです、なんて言えない。
「もちろん僕が訓練しますし、魔力を制御できる魔術具が作れないか研究もしてみるつもりです。最悪、どうにもならなくなった時はもちろん討伐も考えますが……今のこの光景から、危険だと判断するのは早計では?」
確かに、ビアンコは子犬と変わらない。
「文献によれば、白狼はもともと大人しい性質のようです。狩りのときと、群れの仲間を傷つけられなければ攻撃してくるようなこともない。だからこそ、守り神として大切にされて来たんですよ。だから、本来この個体が持つ性質は、ペットとするには問題ないと見ます」
カーラとルクレツィオがビアンコを抱きしめたまま、じーっとこちらを見つめている。
先に折れたのはアリーチャだった。
「わたくしはあなたの判断に賛成しますわ」
カーラとルクレツィオの親二人が決めたのならば、これ以上イアナたちが騒ぐわけにもいかなかった。
「旦那様、いかがでしょう?」
「その顔だと、イアナもエラルドの意見に賛成なのだろう? 仕方ない。エラルド、責任をもってしっかりしつけろ。危険だと思ったら、判断は誤るな」
「わかっていますよ」
「パパぁ、かっちぇいい?」
カーラが期待を込めてエラルドを見た。
エラルドがカーラの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ああ。いいよ」
「パパ、ありぁと!」
一時期、「パパ、やっ」とされていたエラルドは、娘に尊敬のまなざしを向けられて嬉しそうだ。
こうして、我が家に一匹の家族が仲間入りしたわけだが――これから、アルフィオ先王の元へ向かうのに、ビアンコを連れて行っていいものだろうかと、イアナはちょっぴり不安を覚えた。
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