白狼の子供とお孫ちゃんズ 1
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アルフィオ先王の暮らす離宮は、ステファーニ公爵邸のある領都の南西部にある。
一応は、ステファーニ公爵領内であるのだが、王家の離宮が建つ湖周辺は、領地であって領地ではない扱いを取っているらしい。つまり、管理をアルフィオ先王に任せているのだ。
これは、領民たちが混乱しないようにするための措置でだという。
領主はフェルナンドだが、その上の身分の者が領内に暮らしているため、いざという時にどちらの命令を聞くべきか領民が悩んでしまう。
ゆえに湖周辺のみアルフィオ先王が代理領主をしているということだ。
湖周辺には町が一つあるが、そちらの税の管理もすべてアルフィオ先王が行っている。
代わりにその税のうち、国に納められる税以外はアルフィオ先王のものとなるが、ステファーニ公爵領は税収が巨額なので、一部が先王に流れても何ら問題ないらしい。
むしろ、一部でも管理してくれる方がフェルナンドの仕事が減って助かるのだという。
公爵家一家の大移動となると、もちろん護衛も大勢だ。
一流の剣士であるフェルナンドと国一番の魔術師であるエラルドがいても、護衛を省くことはできない。体裁もある。
一家が全員同じ馬車に乗ればあまりにも窮屈なので、フェルナンドとイアナで一台、エラルド夫妻で一台と馬車を分けた。ルクレツィオとカーラはその時の気分によって、祖父母の馬車に乗ったり両親の馬車に乗ったりしている。今はイアナとフェルナンドのところにいた。
ほかにも荷物を載せた馬車などが後続に続いており、まるで大名行列だ。
「ばぁば、ちょうちょー!」
イアナの膝の上に座って馬車の窓から外を眺めていたカーラが、きゃっきゃと笑った。窓の外を白い蝶が横切って行ったらしい。
「ちょうちょの季節ねぇ」
「お庭にもくる?」
「来ると思うわ。もしちょうちょを呼びたいなら、ちょうちょの子供が食べる葉っぱを植えておくと集まって来ると思うわよ」
正直、芋虫は得意でないのだが、子供は喜ぶだろう。
「帰ったら、エドガーにお願いしてみましょうか?」
エドガーはステファーニ公爵城の筆頭庭師である。ステファーニ公爵城の庭は広大なので庭師はたくさんいるのだが、その庭師たちをまとめ上げているのがエドガーだ。
「お願いする!」
「ちょうちょ、たくさん来るかな?」
カーラに続いて、フェルナンドの膝の上に座っていたルクレツィオもぱあっと顔を輝かせた。
フェルナンドは現在指輪をはめているので、イアナの大好きないぶし銀姿である。目じりに皺を寄せてルクレツィオの頭を撫でる彼がカッコいい。キュンキュンする!
イアナの視線に気づいて、フェルナンドが苦笑した。
「イアナはこの姿の時と元の姿の時で向けてくる視線が違うから困る」
「そ、そんなに違いますか?」
「ああ、違うな。まるで違う」
拗ねたように言うフェルナンドに、イアナはまたキュンキュンしてしまった。拗ねている旦那様も素敵である。だけどそれを言うともっと拗ねそうなので黙っておこう。まあ、表情からお見通しかもしれないけれど。
「ばぁば、じぃじ好き~?」
純粋な顔でルクレツィオが訊ねてくるから、イアナはちょっと赤くなった。
「もちろんよルッツィ」
「どっちのじぃじが好き~?」
「え……」
純粋すぎるお孫ちゃんの質問が、まるでナイフのようである。これは答えにくい。
フェルナンドがちょっと意地悪な顔で笑った。
「それは私も聞きたいな」
答えなんてどうせわかっているくせに、そんな質問を向けてくるフェルナンドが恨めしい。だけどここで正直に「いぶし銀です!」なんて言おうものなら――拗ねたフェルナンドに今夜意地悪される未来しか見えない。
(それに、どっちがって難しいのよね。確かにいぶし銀な旦那様は大好きだけど、若返っている旦那様のことだって大好きだし……なんか二股をかけている気分だわ)
どちらも同じ旦那さまなのに後ろめたい気持ちになるのは何故だろう。
イアナが答えに窮していると、カーラまでわくわくした顔を向けて来た。
ものすごく困ったイアナは、声を絞り出すようにこう答えるしかなかった。
「ど、どっちも同じくらい大好きよ……」
嘘ではないが――イアナ的には、二股宣言したみたいな気分である。
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