誕生日と招待状 3
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夜。
湯上りに夫婦の寝室のソファで本を読みつつ、イアナはフェルナンドがバスルームから出てくるのを待っていた。
ルクレツィオにもらった絵は夫婦の寝室の壁に、額縁に入れて飾ってある。
四歳(去年誕生日が来たので四歳になった)の子供が描いたとは思えないほどの出来だ。もちろん、線は歪だし色使いも斬新だけど、孫を溺愛するイアナの目には素晴らしい出来に映る。ルクレツィオには絵の才能もあるかもしれない。
(そう言えば、うちのお抱え画家が来るときはいつも張り付いていたわね)
絵を描くのが好きなのかもしれない。これは、画材をプレゼントすべきだろうか。
子供の才能は伸ばすべきだ。成長したときに、選択肢が広がるように。
とはいえ、イアナは祖母の立場なので、アリーチャとエラルドの教育方針に口を挟むわけにはいかない。だが、画材のプレゼントくらいは許されるだろう。もちろん、事前にアリーチャに確認は入れてからにするが。
孫のことを考えはじめると本の内容が頭に入って来なくなるので、イアナはしおりを挟んで本をローテーブルの上に置いた。
それにしても、孫に誕生日を祝ってもらえる日が来るとは。
転生前には経験したが、転生してからは孫どころか血のつながりのある家族と距離のある生活だった。
それがステファーニ公爵家に嫁いで一転。とても暖かい家庭の一員にしてもらえたのだ。こんな幸せなことはないだろう。二度目の人生、ハズレくじを引いたわけじゃなかった!
まあ、高名な魔術師であるエラルドの不思議実験でたまに爆発音が響いたり、夫が若返るという妙な現象が起きたりと、平穏とは少々程遠い毎日だが、それはそれで面白い。
孫たちが成長するにつれて、もっと賑やかになっていくだろう。
もしかしたら、イアナとフェルナンドの間にも子ができるかもしれないし、アリーチャに三人目ができるかもしれない。夢は膨らむ。
(我が子と孫に囲まれて暮らす生活……いいわぁ)
うっとりと近い将来の自分を妄想していると、がちゃりとバスルームの扉が開いた。
バスローブ姿のフェルナンドが片手で髪を拭きながらバスルームから出て来る。
水差しからコップに水を注いで手渡すと、フェルナンドが「ありがとう」と笑って受け取りイアナの隣に座った。
「楽しそうな顔をしていたが、何かいいことでもあった?」
「ふふ、今日の誕生日会のことを思い出していたんですよ。ルッツィもカーラも本当に可愛くて」
「ああ、あれか。最初にあんなことをされたら、私の立つ瀬がないが……」
フェルナンドがそう言って水を一気に飲み干すと立ち上がった。
「少し待っていてくれ」
と、内扉から続き部屋の自室に向かう。
五分ほどして戻って来たフェルナンドは、ラッピングされた小さな箱を持っていた。
まさか、と鼓動が高鳴る。
期待しながら待っていると、ソファに座り直したフェルナンドに小箱を差し出された。
「改めて、誕生日おめでとう、イアナ」
「ありがとうございます!」
嬉しくて満面の笑みを浮かべると、フェルナンドもにこりと微笑む。
「開けてみていいですか?」
「もちろん」
イアナがリボンをほどいて小箱を開けると、中から可愛いイヤリングが出て来た。
白い花のイヤリングだ。花の中央には小さな青い石がはまっている。
「わ! すごく可愛いです!」
「よかった。イアナはただの宝石より、そういう可愛いものが好きだろうと思って」
「はい! 今日は本当にいい日です!」
家族たちからお祝いされて、こうして心のこもったプレゼントまでもらった。
誕生日会が終わった後で、実はアリーチャとエラルドの連名でプレゼントをもらっている。二人からのプレゼントは、可愛いらしいワンピースだった。イアナが普段はドレスより動きやすいワンピースを好んで着ることを知っているからだろう。
「今度、それをつけてデートしないか?」
「いいんですか?」
(わたしの旦那様が素敵すぎる!)
思わぬデートの誘いに、イアナは自分の中のテンションがぐぐんと上がっていくのを知った。
お孫ちゃんズと楽しくすごすのもいいが、たまには二人きりでデートもしたくなる。特に今は春。気候もいいし、ここのところ晴天が続いているから、デートにはもってこいだろう。
「ああ。ぜひ。たまには二人きりもいいだろう?」
「ふふ、そうですねっ」
イアナが小箱をローテーブルの上に置くと、フェルナンドが手を伸ばして、するりとイアナのこめかみのあたりを撫でた。
ドキドキしながら目をつむると、間髪入れず唇が塞がれる。
誕生日の夜は、甘いものになりそうだった。
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