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【書籍化】枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉  作者: 狭山ひびき
お孫ちゃんズともっふもふ!

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誕生日と招待状 1

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 春の嵐が通り過ぎ、ステファーニ公爵領はここ数日晴天に恵まれている。

 あと一週間もすればイアナの誕生日だ。

 イアナは気にしなくてもいいと言ったのだけど、アリーチャや義孫のルクレツィオとカーラ、なにより夫のフェルナンドが「イアナが嫁いできてはじめての誕生日だから」と張り切っていて、当日は家族と使用人たちと共に誕生日会が開かれることになっていた。


(誕生日会なんて、幼い頃以来ね)


 まだイアナが両親に気味悪がられていなかった時。そして祖父が存命だった時に、誕生日会をしてもらったことがある。三つか四つくらいの時だろう。普通は記憶が薄れるものだが、前世の記憶持ちのイアナはその時のことを鮮明に覚えていた。


(思えば、あの頃は平和だったわ)


 そのあとイアナの父と母、それから妹は坂道を転がり落ちるかのようにダメダメな方向に向かったが、あの頃はまだましだった。きっと祖父というお目付け役がいたからだろう。祖父がいた頃は、父と母も伯爵家のお金を好きには使えなかったから。


(お父様たちは元気……かどうかは置いておくとして、ちゃんと仕事をしているのかしら?)


 実家であるアントネッラ伯爵家の領地はすでにギオーニ男爵に譲渡された。国王に許可を取り、正式に領地の権利がギオーニ男爵の方へ移されている。

 父と母はギオーニ男爵が経営している会社で働きながら、男爵が肩代わりした借金を返済している状態だ。


 妹のジョルジアナの方は、書類上だけではあるがギオーニ男爵家に嫁いだ。

 コンソラータ・モンレアーレ伯爵令嬢――婿だった夫と離婚して夫人から令嬢に戻った――と、ギオーニ男爵の三人の息子の嫁たちに監視され、根性をびしばしと叩き直されている最中だ。


 コンソラータから届く手紙に近況が書いてあった。「毎日毎日愚痴を言いながらびーびーと泣いていますわ。おほほほほほ!」とあったので……、ジョルジアナの根性が叩き直るにはまだ時間がかかりそうである。

 イアナはすでにアントネッラ伯爵家から籍を抜いている。


 だが、血のつながりはなかったことにはできないし、三人がやらかせばイアナが嫁いだステファーニ公爵家の名に傷がつくかもしれない。

 だからこそ、あの三人には早くまっとうになってほしいものだった。



     ☆



「はぁ……素敵だわ」


 イアナは玄関ホールに飾られた肖像画の前で、うっとりとため息を落とした。

 先日、イアナ待望の肖像画が頼んでいた画家から納品されたのだ。

 細かな彫刻の入った額縁の中には、イアナとフェルナンドの二人が描かれている。――いぶし銀の、渋くてカッコいいフェルナンドが!


 もちろん、若返ったフェルナンドも素敵だし、なによりイアナは彼の内面が大好きだ。

 だけど、それはそれ、これはこれ。


 自分の性癖というものは簡単には変えられない。イアナは、年配の男性が大好きだ。特にフェルナンドはイアナの好みドストライクな外見をしている。


 銀色の髪に青い瞳。目じりの皺にほうれい線。

 もともと鍛えているので、年をとっても体は引き締まっていて、背筋もピンと伸びている。

 初老に差し掛かった、おっとりと優しそうな外見は、思わずぎゅーっと抱き着きたくなるほど神々しい。


(……これ、もう一枚ほしいわ。小さくていいから)


 こっそり隠し持っていつでも見られるようにしたい。何なら、ペンダントトップにしていつも持ち歩きたい。

 画家に頼んだら複製を作ってくれるだろうか。


 イアナが真剣に考えこんでいると、こほん、と背後で咳ばらいが聞こえて来た。

 振り返ると、玄関ホールに続く大階段をフェルナンドの中ほどにフェルナンドが立っている。

 今の彼は、肖像画の中にいるいぶし銀な旦那様ではなく、二十歳ほどの外見の美青年だ。

 フェルナンドの兄である先王陛下のたっての願いで、フェルナンドの息子エラルドが若返りの薬を作った。その実験台にされたフェルナンドは、こうして、二十歳ほどの青年まで若返ってしまったというわけだ。


 意気揚々といぶし銀の旦那様に嫁いだら、待っていたのは若い男性。

 ショックのあまり気を失ったのが、去年の春の中ほどから終わりにかけての頃だった。懐かしい。


 フェルナンドはステファーニ公爵であり、現王の叔父。

 王族としての公務もあるし、まったく社交をしない息子の代わりに、社交シーズンには王都に戻らなくてはならない。

 そのため、若返った外見のままでは困ると、エラルドが魔術具の指輪を作ってくれた。


 この指輪は、フェルナンド専用で、指にはめていると、周囲の人間には実年齢の外見をした彼の姿で認識されるというもの。

 つい半月ほど前に、この指輪をはめたフェルナンドと結婚式を挙げ、玄関に飾られている肖像画を描いてもらった。


 真っ黒な本音を言えば、できることなら一日中ずっとその指輪をはめていてほしいところだが、フェルナンドは変なところに焼きもちをやくタイプのようで、年老いた自分の姿にすら嫉妬するらしい。つまり、イアナが年老いた自分にうっとりするのが気に入らないのだ。

 だから、必要に駆られない限り、指輪をはめてくれない。

 それもこれも、イアナが枯れ専であると知られてしまったからだ。


 フェルナンドのいぶし銀を心行くまで眺めることができるのは、四十年先だろうか。

 でもまあ、若返ったことでフェルナンドと長く一緒にいられるようになったと思えば、それはそれでよかったとも思う。やっぱり愛する旦那様とは、一日でも、一秒でも長く一緒にいたい。


「まあ、旦那様、そんなところにたたずんでどうしました?」

「妻が毎日……それこそ数時間おきにその肖像画を凝視しているのを、どうしたものかと思って見ていた」


 フェルナンドが苦笑して残りの階段を降りて来る。


「イアナ、やはりこの肖像画を飾るのはやめておこう」

「どうしてですか! エラルドやアリーチャたちの肖像画はあるのに、旦那様だけないのはおかしいですよ!」


 フェルナンドはイアナが気にすると言って、早世した先妻と描いてもらった肖像画を片付けてしまったのである。今ここに、イアナと描いてもらったこの肖像画を除けば、彼のものは一枚もない。


「別におかしいことじゃない。年老いたものが表舞台から去るように、玄関ホールに飾られる肖像画は本来その家長と家族だ。……エラルドがあの調子なので、家長は未だに私だが、肖像画くらいはそろそろ代替わりしても……」

「本音は?」

「君がその肖像画ばかり見つめるのが気に入らない」


 やっぱり!


 ぷうっと頬を膨らませると、フェルナンドも面白くなさそうに目を細めてイアナを見る。


「これから年を取れば自然とそうなるんだ。今それに見とれなくてもいいだろう?」

「同じ旦那様じゃないですか」

「そうなんだが……なんか違うというか」


 複雑な男心らしい。イアナは女なのでよくわからない。


(まずいわ。わたしが見すぎたせいもあるけど、このままだとせっかく手に入れたいぶし銀の旦那様の肖像画が回収される!)


 それは何としても阻止したい。

 イアナは必死になって味方を探した。

 しかし、玄関ホールを掃除していたメイドはイアナと目が合うとにこりと微笑むだけでフェルナンドに意見してくれそうもない。


 どうしたものかと思っていると、イアナの背後――玄関扉の方から「ばあっ!」と可愛い声がした。振り返るとイアナの可愛い可愛いお孫ちゃんの一人であるルクレツィオがにこにこと笑って立っている。


「まあルッツィ! ばぁば、びっくりしちゃったわ!」

「へへへ!」


 抱き上げて頬ずりすると、ルクレツィオが歓声を上げる。

 ルクレツィオは庭でおもちゃの剣を振り回して「お稽古」をしていたようだ。当たっても痛くない布製の剣を握り締めている。

 あくまで今ルクレツィオに許されているのはおもちゃの剣を振り回すことだけだが、剣を振り回す彼を見たフェルナンドが「筋がいい」と褒めていた。布製の剣が訓練用の木刀に変わる日もそう遠くないかもしれない。


(って、そうだわ!)


 可愛い可愛いお孫ちゃんを味方に引き入れれば、フェルナンドだって理不尽に肖像画を片付けようとはしないはず。

 イアナの頭の中で悪だくみがくるくると回る。

 にっこりと微笑んで、イアナはルクレツィオを抱きかかえたまま肖像画を指した。


「見てルッツィ、じぃじ、とってもカッコいいでしょう?」

「うん!」

「ルッツィも、この絵はここにあってほしいわよね?」

「うん!」

「……イアナ」


 フェルナンドが恨めしそうな声を出すけれど、イアナは知っている。二人の孫に甘いフェルナンドは、ルクレツィオを悲しませるようなことはしない。


「だそうですよ、旦那様?」

「……君には負ける」


 やれやれと肩を落としたフェルナンドが「変わろう」とすっと手を差し出して来たので、ルクレツィオを預けると、彼はひょいっと孫を肩車した。

 ルクレツィオがきゃっきゃと楽しそうに笑う。


「ルクレツィオ、汗をかいただろう? 体が冷えると風邪を引くから、部屋に戻って汗を拭いて着替えた方がいい。このまま部屋まで連れていってやろう」

「わーい!」


 フェルナンドはルクレツィオを肩車したまま階段を上る。

 夫が孫を落とすとはこれっぽっちも思っていないが、イアナもなんとなく二人のあとを追った。

 ルクレツィオの部屋に向かうと、乳母がすぐにルクレツィオの汗を拭いて着替えさせてくれる。

 その間に、メイドに冷たい飲み物を頼んでおいた。剣のお稽古をしていたルクレツィオは喉が渇いているだろう。


 着替え終わって、メイドが運んで来たオレンジジュースを飲んでいたルクレツィオは、ふと思い出したように顔を上げる。


「そうだ。じぃじ、ばぁば、カーラが女の子と男の子のお人形が欲しいって! 急ぎで!」

「急ぎで?」

「うん!」


 イアナは首を傾げつつ、ちょうど午後から行商人が訊ねてくる予定だったので、そのときにでもお願いしてみることにした。





面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、

ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


下記の作品、完結しました(#^^#)

よかったら目を通していただけると嬉しいです。

異世界ものですが、ヨーロッパ風ではございませんので、ちょっと珍しいと思います!

「なんちゃって妃は怪異解決がお仕事です ~したたか娘と自堕落天狐の千夜主従物語~」

https://ncode.syosetu.com/n9804mk/


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