24.はらたいらさんに3000点
塔の中は外の光が差し込む程度だが、目が慣れてしまうと問題なく進める。
石造りの回廊は進むほどなぜか深い冬の森の香りがする。
(日本の森に近いな……前に行った日本海側の山村を思い出すわ)
てくてくと、皆でゆるやかな螺旋階段を降りていく。
「ねぇ、しょーこさん。ずっと突っ込みたかったんだけど、そのバックパッカーみたいなリュックなに入ってんの。」
「おやつでしょ、ハンカチタオルでしょ、アンさんにつくってもらったお弁当にー」
「まさかの遠足気分」
「日本酒も入ってるよ!」
「なぜ」
「話し合いするんでしょ?ならやっぱ、飲みニケーションかなって」
「きっつwwww」
「早く滅んでほしいですよね、酒で親睦深めようとしてくる文化」
「大丈夫ですよ、ほら僕のアルコールいらずのヴィジュアルに酔ってください。」
ひなちゃんの白い目に、眼鏡君と王子も同調する。
くそぅ、飲まなきゃやってられんな。
「ヒナちゃんは、そんな小さいポシェットだけでいいの?」
隣を歩くひなちゃんは、スマホ1台しか入らなさそうなポーチを紐でぶら下げているだけだ。
「ポシェット……サコッシュね」
「それオヤツ、入らないんじゃない?」
「ふふ、最近はダンジョンで食料調達するのがトレンドだよ!」
「落ちているものは食べないようにね……。」
「あっ、あれなに!?」
ひなちゃんが指さしたのは、行き止まりに立っている木の看板だ。
なにか書いてある。
『クイズに答えて、僕と握手!』
「どういうこと?」
「こちらが、結界を解く鍵になります。皆様ご用意を。」
アンさんの言葉に、少し緊張がはしる。
やがて看板の文字が薄れ、問題が現れた。
『第一問 地球の太陽系に存在する、最後の惑星は?』
「たしかにこれは異世界の方でないと分からない質問ですね。」
「ハイハーイ!海王星!」
<<ブッブー!>>
元気よく手を挙げて答えたヒナちゃんだが、不正解の効果音が響く。
「え?すいきんちかもくどってんかい、だよね?」
「かいめい、だよ。最後は冥王星よ。」
<<ピンポーン♪>>
「冥王星?聞いたことなーい!」
「えっ、プルートを知らない……?」
「ほら、やっぱりWikiにもないよ。」
「そんな……私たち同じ星に生まれたよね?」
「えーと、2006年から準惑星なんだって。」
「今は惑星じゃないってこと?!!」
宇宙レベルでもそんなことあるんだなぁ。永遠なんてないよね。
「この結界は25年前に異世界からの召喚者が作成したものです」
「だから情報が古いんですね」
アンさんの言葉に納得すると、次の問題が板に浮かび上がる。
『国民的アニメといえば? ヒント:キ○○○○○○』
「キから始まる7文字のアニメって、えーと、キメツノ…じゃないの?」
<<ブッブー!>>
「キテレツ大百科!!!」
<<ピンポーン♪>>
「奇天烈……?聞いたことない~」
「コロ助は知ってるんじゃない?」
「殺介?めっちゃ鬼退治、強そうだね」
「ちがうちがう、殺しが得意なやつじゃないの。コロッケが好きなコロちゃんだよ。大体、キメツなんてこの間でしょ。」
「あれ完結したの2020年だよ」
「それは流石に嘘だよ。せめて去年だよ。」
「わぁ、天然のご長寿構文!」
たしかに近頃お正月過ぎたらすぐ暑くなってクリスマスが盛り上がらないまま花粉飛んでるねって会話繰り返してる気がするな。なんなら、うるう年もこないだやった気がする。よし、次の問題いってみよう。
『ドジャースの日本人選手と言えば?!』
「えっ、これはオオタニ選手でしょ?」
<<ブッブー!>>
「あちらで、乳母の方が腰をひねってるようですが」
「やだギックリ腰?」
「トルネード投法だよぉぉ!!!のぉーもぉーひでぇおおおおぉーー!」
<<ピンポーン♪>>
『L'Arc〜en〜Cielの意味は?』
「えっとこれ、なんて読むの……?」
「虹!」
<<ピンポーン♪>>
「ほんとだ!フランス語で虹って意味だって。もしかしてしょーこさんフランス語できるの?」
「いやはや、私の時代じゃもはや義務教育よ」
「昭和すごーい」
そのあともクイズは続くが、常識レベルの問題ばかりである。
「EZすぎるな」
「平成もうやだ~~~!平成のほうが異世界なんですけど~~~~!!!」
ひなちゃんが口をとがらせると、最後の問題が現れる。
『初恋の人の名前は?』
「えーと。これって、聖女の初恋相手ってことですかね?」
思わずミカさんを見ると、目を見開いて固まっている。
ウェーイ!ヒューヒュー!(死語)
「叔父上、僭越ながら私が」
「えー、私が言いたい!」
「いや、ここは俺が」
「「どーぞどーぞ!!」」
王子とヒナちゃんのやり取りに、ミカさんが緊張した面持ちで答える。
「ミカ」
<<ピンポーン♪>>
空間に響く正解音に、ミカさんは嬉しそうにはにかんでいる。
「なんちゅー可愛らしい質問!若いねぇ!」
「でも随分プライベートな質問だね。他の人には答えられないんじゃない?」
「きっと前に来た子は、また25年後に戻ってくるつもりだったんだよ。だから自分以外解けないクイズを結界にしたんじゃないかな。」
もしかしたらミカさんと一緒に解けることを期待して。
「両想いだったみたいですね!」
「ありがとう…ございます…」
ミカさんを冷やかすと、なぜか顔を赤らめてこちらを見るので、私まで照れてしまう。
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
パチパチパチパチ……
ヒナちゃんたちが私たちを取り囲み、生温かい目で拍手をしている。
なぜ私まで。てゆーかなんの最終回だこれ。
そんなことをしていると後ろの壁がゴゴゴゴゴ…と音を立てて開き、細い通路が現れた。
*
慎重に通路を進むと、奥には小さいキツネのような、しっぽの長い生き物が座っていた。
「かわいー!もふもふだぁ!」
「人間ごときが触るな!」
ひなちゃんが嬉しそうに近寄ると、謎の生き物は毛を逆立て不機嫌な声をだす。
「やっと来たか。あのさぁ、お前らなんなん?太鼓の音が響いて迷惑なんだけど。」
「それは申し訳ございません。」
「謝ってすむなら自警団はいらねーんだよ。誠意見せてもわらないとな~。」
ニヤニヤしはじめた獣をみて、すかさずミカさんが首根っこをつかみ、私がしっぽをにぎる。
「お前ら、なにすんだよ!!」
「さぁ魔素調整始めましょうか。」
「真面目に話し合いできない子は、しっぽキーホルダーにしますよ。」
小さい獣はギャーギャー騒いでいるが、気にしない。
「精霊なのにその扱いでいいの?」
「ヒナちゃん、こういうハラスメント輩は初動が大事なの。図に乗せちゃだめよ。」
「話し合いの基本だね。」
ミカさんと頷きあっていると、獣はやっとおとなしくなる。
「ちっ、魔素の調整してもいいが対価交換だ」
「対価交換?」
「そうだ。俺の力を使うんだから、あんたが持ってる命の次に大事なものと交換だ!」
「どういうことだ?」
いつも穏やかなミカさんが眉間にしわを寄せる。
「そのまんまの意味だ。俺に祠守らせて、お前らだけのうのうと生きてるなんてずるいだろ?」
小さい獣は、にんまりと冷酷に笑った。
ミカさんと視線で会話するが、どうやら冗談ではなさそうだ。
「今回はお前が異世界から召喚されたのか。さてと、お前の大事なものはなにかな~」
「ねぇ、ひなちゃん」
「言わないで」
「あの妖怪、ポシェット見てる」
「精霊ね、あとサコッシュな!」
「スマホほしいんじゃない?」
「やだやだ無理無理!!」
全力で駄々をこねるヒナちゃんに、獣がふんぞり返る。
「あんたが本当に大事にしてるものを寄越しな、じゃないと取引は不成立だ」
仕方ない。背中のリュックを下ろし、身一つで前に出る。
「私の大事なもので勘弁していただけませんか?」
「しょうこさん!」
ミカさんが焦った声を出す。私もすごくつらいけど仕方ない。
「つまらないものですが!!」
リュックから取り出したのは、日本酒だ。
楽しみにしてたのに。高かったのに……。背に腹は代えられぬ。
「おいこれ、千年前の酒じゃないか!アイツ生きてたのか……!」
一升瓶をみて、獣の目の色が変わる。ソワソワと随分嬉しそうだ。
「これ、どこで手に入れたんです?」
「近所の酒屋ですよ」
ミカさんに驚かれるが、酒屋のおばさんおすすめのやつである。
「趣味がよくなったじゃないか。今回はこれで勘弁してやろうかね」
皆がホッと息をついた瞬間、獣は思わぬ言葉を発した。
「もういらないから、返すわ。あんたの初恋」




