23.昭和のビート
「そう、この手を…離さない……」
「ミハイル様、さすがです!!」
「叔父上ってば視線を独り占めする気ですねっ!」
両手に太鼓のばちを握りしめたミカさんの周りで、眼鏡君と王子が盛り上がっている。
「……あれ大太鼓だよね?」
「うん、魔道具なんだって」
「盆踊りの動画シェアしてほしいって言われたけど、まさかここで盆踊りやるの?」
「盆踊りならだれでもすぐ踊れるから!」
昨夜、糸が切れて開幕の踊りができなくなった代わりに盆踊りができないかミカさんにお願いしたところ、快諾してくれたんだ。
「そうかもしれないけどさぁ」
「祭りは太鼓があればなんとかなるもんよ」
「それはどうだろう……」
首をかしげるひなちゃんは、カラフルな刺繍の入ったエプロンをコルセットで締め、毛先をくるくるにまいたツインテールには生花がついている。
控えめに言って、超絶かわいい。
「いやもう、ほんとありがとうね。」
「朝から目が合うたびお礼言われるのなに。てゆーか、なんでみんな頭にハイビスカスつけてるの?」
目の前の広場にはひなちゃんと似たような格好をして、ハイビスカスを頭にさした女の子たちがあふれている。
「あれはハナビスですね。異世界では乙女が髪に花をさす習慣があるとか。」
「ないない!頭にハイビスカスつける習慣ないよ!」
「なんか目頭熱くなってきちゃったな。」
ひなちゃんはもしや深い意味が……と考え込んでいるが、かつての女子高生文化だということは大人の秘密である。
広場は昨日の惨状が嘘のように、修復された屋台や露地店が活気を取り戻し、黄色い花で飾られていた中央の塔は住民が持ち寄った色とりどりの花で再び飾り付けられている。
(なんとか祭りになりそうで良かった)
塔の周りには続々と若い子たちが集まり、手持ち無沙汰におしゃべりに花を咲かせている。
「それプロミスリングだよね?かわいい!!」
「人数分つくってきたから、みんなお揃いでつけようよー!刺繍より簡単だったよ!」
「あれ、これは?誰に渡すの?」
「ふふふ内緒!」
「私もつくりたーい!」
華やいだ声にこちらまで気持ちが明るくなってくる。
「ミカさんがしてるプロミスリングって、もしかしてしょーこさんが?」
「そうそう」
「なんかあったの?」
ヒナちゃんがニヤニヤして、くっついてくる。かわいい。
「なんかの巡りがよくなるらしくて。四十肩に太鼓はつらいからね。」
「プロミスリングの文脈おかしくない?」
気休めにしかならないだろうが、ミカさんは律儀につけてくれている。
こちらの視線に気づくと、やや疲れた顔で微笑んでくれる。
「異世界の伝統的な踊りのおかげでオープニングセレモニーの体裁は保てそうです。」
「クセになる不思議なリズムですよね」
「異世界では、こんな曲が流行ってるんですか?」
王子に聞かれて、ひなちゃんが答える。
「いや、今は最強系かな?自分可愛いとか無敵とか、肯定爆上がりで元気出る感じの曲!」
「あぁ。私も子どもの頃、へっちゃら~とか、歌ってたわ」
「それたぶん解釈ちがいだな」
昭和の最強ソングといえばこれでしょう。
「それにしても、しょうこさんが魔道具を叩き始めたときはびっくりしました。」
「私も体が覚えていてびっくり。太鼓の達人ってすごいんだね……。」
「達人?!なんと、乳母の方はそんな修行もされるんですね。」
「いやぁ、昔SEGAでバイトしてたんだよね。」
「SEGA?GAFAみたいな?」
「セガだよセガ!時々客から対戦申し込まれて。あれ、さすがにゲーセンはまだあるよね?」
「えーと、ゲームセンター事業から完全撤退だって。」
「セガーーーーーーー!!!!」
「そういやおじさんも同じこと言いながら泣いてたな……」
ショッキングな検索結果に膝をついていると、ドンっと心地よい地響きがする。
塔を見上げると、ミカさんが太鼓を叩いている。
皆、太鼓の音が初めてなのか、驚いた顔で集まってくる
ドーンドン!タカッタッタ、ドーンドン!
青空の下、太鼓が鳴り響く。
子どもも大人もワクワクした顔で集まってきた。
拡声器で盆踊りの音頭が流れ始めると、王子が両手を構えた。
笑顔でしなやかに腕を振り、手拍子を打つ。完璧な盆踊りだ。
(動画で覚えたって言ってたけど、ほんと器用よね。)
子どもたちが見よう見まねで踊り始めると、年頃の子たちもはにかみながら混じる。
周りで見ていた大人も巻き込み、自然と大きな輪になっていく。
ソワソワするひなちゃんを送り出し、少し離れた場所で見守る。
「やっぱ夏は盆踊りで決まりだね」
結局、昨夜はあのあと王様に会うこともなく王城から離れ、いよいよ今日が祠に入る日だ。
これが終わったら帰れるとホッとする一方、どこかでさみしい気持ちがある。
(異世界なんてなぁ、もう来ることないだろうし。)
そうしたら、もう会えなくなるのか。
目線の先のミカさんには、あちらこちらから秋波が送られている。
まぁ、そりゃね。モテるでしょうね。
なんとなく目を逸らすと、サングラスの怪しげなおじさんが近寄ってくる。
「へい彼女!祭り、楽しんでるぅ~?」
「はぁ」
ナンパかと思いきや、サングラス越しに細められた目は、まるで久しぶりに会った親戚の子どもを見るような親しさだ。
「どう、この国は?」
「いい国ですね。花が綺麗だし、皆さん素敵な方ばかりで。」
「それは良かった。ミカに直接聞かせてやりたいね。」
「お知り合いなんですか?」
「そりゃもうオムツの頃からの仲だね。アイツが張り切ってるところをみるのは久しぶりだな。25年前を思い出す。」
おじさんはねじり鉢巻きで汗を流すミカさんを見て、楽し気に笑う。
「ひねくれた優等生が、この歳まで腐らずにいられたのは前回の召喚のおかげでね。」
「あぁ、初恋とやらの。恋は偉大ですね~。」
軽口を交わしていると、太鼓を叩くミカさんと目が合ったような気がした。
「いっけね。まぁこれで義理は果たしましたよ、あとはシャンシャンで!」
「はぁ」
おじさんは手を振って、ヘラヘラと踊りの輪の中に入っていった。
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「感無量です……」
盆踊りが終わり、塔から降りてきた王子はフルフル震えている。
「私を中心に国民が踊る盆踊り……イイ!すごくイイ!」
「ちょっと、この人王座について大丈夫なの」
「どうもすいません、甘やかされて育ってまして」
「太鼓型の魔道具には、なにか場を楽しくする効果があるのかもしれませんね」
「360度対応の顔でよかった!」
うっとりとする王子の頭をゴンゴンしてる眼鏡君の横で、ミカさんは肩で息をしている。
「しょ、しょうこさん、大丈夫でしたか?」
「ええ、見事な太鼓でした!一晩で仕上げるなんてさすがです!」
「良かった。この日のために頑張ってきたので……。」
水を渡して労うと、タオルで汗をぬぐいながらミカさんが微笑む。
そんな祭りに全身全霊タイプだとは思わんかったな。
感心していると、アンさんが塔に入る扉の前で説明を始める。
「これより塔へ入ります。中の結界を解いていただいた先に、精霊の祠があります。」
「結界はどうやって解くんですか?」
「異世界の方が見ればすぐに分かるそうです。」
「やっと異世界チートきたぁ!!このまま平成ムーブが続いたらどうしようかと!」
「悪かったな」
「それっぽくなってきたね!」
「それでは参りましょう。」
ルンルンで張り切るひなちゃんに、アンさんが美しく微笑むと、ゆっくり扉を開いた。
※こちらの歌詞を引用させていただきました。
引用元:『CHA-LA HEAD-CHA-LA』作詞:森雪之丞、作曲:清岡千穂、編曲:山本健司、歌:影山ヒロノブ




