15.タピオカ吸いきる力がない
Z世代の人使いの荒さよ……。
年々疲れやすくなっているアラフォーの体力をなめないでいただきたい。
向かいのミカさんの労わるような視線を感じつつ、広場で拾っておいた糸をポケットから取り出す。
長さは不揃いだが、水色やピンクのポップな糸は光沢を失っておらず、見ているだけで明るい気持ちになる。
「花で染めてるんでしたっけ?」
「ええ、この国の花は魔素を微量に含んでいるせいか、染めると美しく発色するんですよ。」
「花染糸は、前回の召喚者が持ち込んだ発明なのです。」
眼鏡君の言葉に、ミカさんが目を細めて懐かしそうにしている。
初恋の思い出なんだろうか。なんだか背中がムズムズする。帰ったら整体でもいくか。
「糸を使って想いを伝える方法ね。あー、糸電話……?」
「ちがうよ、しっかりして!もしもし世代!」
「もしもしって死語なの……?」
「まぁ、糸がなくても祭りはできますから」
「国を挙げた祭りで名産の花染糸を使うことに意味があるのですが、ええ、なくても祭りはギリできますから」
「眼鏡君の圧」
正直、この糸には見覚えがあるんだよな。えーとなんだっけ。
必死に頭を回転させながら、無意識に指にまきつけていく。あれ、この感じってどこかで……。
「アッ!思い出した」
みなの視線が私に集まる。
「プロミスリング~!」
てってれーと効果音までつけたのに、車内は完全にアウェイである。カラオケで電気グルーヴ歌って以来のアウェイ感。
おかしいな。
「ひなちゃん、ほらプロミスリングだよ。今の子は、ミサンガって言うんだっけ?」
「ちょっと分からないですね」
「……今作るわ。テープとか、ひもを仮止めできるものがあればいいんだけど。」
使えるものがないか車内を探していると、ちょうどひなちゃんの携帯が目に止まる。
「ひなちゃんその指通し、貸してもらえる?」
「指通し?」
「ほらその携帯の背中についてるやつ」
「スマホグリップのこと?」
「そうそう」
「なんか昭和の人って、手近にあるもので代用しようとするよね…牛乳パックとか」
「いいでしょ、牛乳パック!」
ひなちゃんが壊さないでね、としぶしぶ携帯カバーを外して渡してくれる。
よくみると懐かしいキャラクターがついている。
「これってドキンちゃん?青かったっけ?」
「その子、コキンちゃんだよ。ドキンちゃんの妹。」
「えっ、ファミリーが増えてる!?」
「コキンちゃんずっといたよー。」
「ここ2000年は確実にいなかったよ。波平が双子と知ったとき以来の衝撃だよ。」
「昭和トリビアwww」
そうか、老舗国民的アニメも進化を続けているのか。
感動に震える手で、長さも色もバラバラの糸を数本まとめてフックに巻き付ける。
「まず、このように結び目を作って固定します。そして隣の糸と編んでいきます。」
人差し指に隣の糸を巻き付け、ぎゅっと結び目をつくっていく。
「これがリングになるの?」
「そう、こうやって模様を編み込んでくんだよ。私が小学生のときは流行ってたんだけど。」
「へー、初めて見る。」
「今の子はなに作ってるの?」
「うーん、マイクラとか?みんなで作ったり壊したり。」
「マイクラ…マイクラス?学級崩壊?積み木崩し!?」
「いや、崩すのブロックだけど。」
「スケールが違う!」
「何の話してる?」
しばらく糸を編む動きを繰り返していくと、編み目が見えてくる。うぅ目がかすむ…。
「ほらみて、こんな感じで糸を編み込んで好きな模様にできるんだよ。」
「へぇ、手首に重ねても可愛いですね。」
「このチロル柄、好きー。」
「私はこの単色ロゴがシンプルで素敵です。」
若い子たちの視線は私の手元ではなく、ひなちゃんの携帯の画面に釘付けである。
「そういうとこーー!今の子すぐ検索する!!ちゃんと先生のほう見てよぉぉ!!」
「だってインスタで見たほうが早いじゃん、タイパ意識しよ?」
「ぐぬぬーー!!」
「完全に理解しました、私も試してみていいですか?」
意外にも王子が興味を持ったので、途中まで編み込んだ糸を外し、携帯カバーを渡す。
「そういやこれ、なんでプロミスリングっていうの?」
「リングが自然にきれたときに、願いが叶うって言われてて。お守りみたいなもんかな。」
「へー、江戸時代の伝承?」
「違います」
「なるほど、それで想い人へリングを渡すんですね。」
「もちろん自分でつけたり、家族や友達とお揃いでつけたりしてもいいんですよ。」
「それは誰でも参加できていいですね!」
「刺繍より簡単だし、祭りの参加率も上がりそうです。」
眼鏡君がいうには、刺繍を仕上げるために祭りの間中、徹夜する子もいるそうだ。
元の糸の長さを考えると、刺繍も相当な大作になるよね。
うつむいて作業をしていた王子が、しゃらりと髪をかき上げた。
「ハイ、できました」
「えっ、もう?」
手元のリングは、スカイブルーをベースに向日葵色で縁取られた大小の白いハートが編み込まれている。
「スノードロップの花びらをイメージしてみました。」
「可愛いー!職人じゃん」
「え、めっちゃセンスある」
「顔しかとりえのない王子に意外な才能が!」
「おいおい、顔以外褒めるなって。」
王子は照れながら2本目に取り掛かっている。
「これだったら、家庭にある糸で十分できますね。ちぎれてしまった糸も使えそうだ」
「祭りで配布する準備をしておきましょう」
「糸の色を選んだり、交換するのも楽しそう!」
やっとみんな明るい顔になる。
「ただ、どうやって明日までにコレ周知します?説明書でも一緒に配布すればいいかしら?」
「ふつーにSNSに投稿すれば?」
「ハッ!」
「これ、さっきの動画。」
ひなちゃんがあきれ顔で、王子がプロミスリングを編んでいく動画を見せてくれる。
早送りしたように高速で指が動き、模様が浮かび上がっていく様子は見ていて快感である。
「こ、これは時の魔法……?」
「スマホ機能ね。タイムラプスだよ。」
「肝心の私の顔、映ってないですよ。手元しか映ってないですよ。」
「これはわかりやすいな。」
王子の不満をスルーし、ミカさんが感心して眼鏡くんを見る。
「いけそうか?」
「はい、街中のデジタルサイネージをハックして明日の祭りまでには!」
「あのー、私の顔入ってないんですけど。」
「よし、頼んだぞ!!」
眼鏡君が携帯らしき魔道具を胸元から取り出す。
「じゃエアドロするねー。あ、しょーこさんエアドロってね。」
「知ってる、エアドロップスでしょ。」
「いや、エアドロップね。昭和アレンジしないで。」
「…異世界の携帯とも通信できるの?」
「はい、そちらの世界の通信機器と互換性はありますよ。」
眼鏡くんは無事に受信できたらしい。
「赤外線通信ってどこでもできるんだ」
「エアドロは赤外線じゃないんだけどね……」
そこでちょうど車が静かに止まり、アンさんが扉を開けてくれる。
車から出ると、目の前には大きなお城が建っていた。
「どうして王城に?!」
「きゃー!!!可愛い!!!リアルシンデレラ城みたーい!!」
ひなちゃんのテンションと対照的に、ミカさんの顔がひきつっていく。
「陛下が異世界のお客様へ挨拶されたいと」
「俺、何も聞いてないけど?!」
「今申し上げましたので」
アンさんはしれっと答え、ピンと伸びた背筋で王城へ向かって歩き出した。
これは逆らってはいけないやつだと長年のサラリーマン経験から本能的に感じ取り、黙ってついていく。
「晩餐まで、こちらでゆっくりおくつろぎください。」
途中、メイク直しをするという王子たちと別れ、応接間に通される。
ひなちゃんとお茶でのどを潤していると、アンさんから声をかけられる。
「ご希望の品が、用意できました」
それなら1分1秒でも早いほうがいい。
足のむくみも忘れソファから立ち上がり、スマホに夢中なひなちゃんに断ると、いそいそと部屋から出る。
だから。
私には知る由もなかったのだ。そのあとの会話を。
■■
応接間をノックし、男性が顔を出す。
「あれ、しょうこさんは?」
「しごでき執事さんと一緒にどっか行ったよー」
「まったく、どこに行ったんだ……」
「ねーねー。これ、ミカさんでしょ?」
少女がスマホの画面を見せると、男性はいたずらが見つかった少年ような顔で笑う。
「やっぱり見つかったか」
「画像検索したら出てきた」
「まだ彼女には黙っててくれないか」
「なんで?」
「大人の事情というやつだよ」
「でた、ご都合ワード」
ソファでのけぞる少女に、男性は肩をすくめる。
「なんかありそうとは思ったけど」
「ん?」
「だって、25年前の召喚された女子高生って、しょーこさんですよね?」
男性は苦い顔で、頷く。
「……そのことで、君に頼みたいことがある」




