14 昭和のチート
女子高生視点
夏期講習の帰りに異世界転移した。
異世界ってもスマホ使えるし、人も食べ物もふつー。
むしろ一緒に異世界にきたお姉さんが、ちょっと変……。
庭園で海のにおいがするとか急に言い出したり、お茶をくんくん嗅いでたり、警戒心の強い犬みたい。
キレイなのに、やたら疲れてる顔してるし。
しっかりしてそうで、抜けてるとこあるし。
でも嫌いじゃない。むしろ好きかも。
親とも先生とも違う、いままで周りにいないタイプ。
「ねぇねぇ、しょーこさんのMBTIなに?」
「20くらいかな。あごと下腹の肉が落ちなくなってねぇ。」
「BMIは聞いてないんだけど。MBTIだよ。」
「MBTI…?えーと、Mはミッション…Bはバックストリート…Tはグレートなティチャーで、Iは池袋西口だから、あれだ、なんだ?」
「いや、こっちのセリフだよ。」
だめだ、また会話がバグってる。
「しょーこさん、インスタみなよ。てか、スマホは?」
「持ってない。日本に置いてきちゃった。」
「はっ?!スマホなしで生活してるってこと?」
やばくない?!
驚いてると、しょーこさんはアハハと笑う。
「ひなちゃん、まさかの異世界きて一番の驚きそれ?」
「いやいやスマホ忘れるとか!!」
「パンツ履き忘れたかのような扱いだな。」
「だれかに連絡しとく?私のスマホ、使っていいよ。」
「ううん、誰も心配してないから。」
「うわ、あー、なんかごめんね?」
「謝るのはおやめなさい。」
スマホなかったら異世界で知識チートできないじゃん。
まぁスマホで検索しても空蛍を空に返す方法も、割れた卵の戻し方も出てこないけど。
そんなとき、しょーこさんはアレよアレとうなりながら、昭和の知恵でパパっと解決しちゃう。
なんか昭和生まれって、ある意味スマホよりチートじゃない?
今もそう。
魔鳥が暴れたせいでボロボロになったお祭り会場で、みんなが立ちすくむ中、最初に動き出したのはしょーこさんだった。
ミカさんと広場を歩いて回ると、王子たちの背中を叩いて何やら指示を出していく。
(お祭り、まだやる気なのかな……?)
いやー、さすがに無理でしょ。今回はあきらめたほうが良くない?
周囲の人たちもちょっと引き気味に、こちらの様子をうかがっている。
そんなびみょーな空気の中、王子と眼鏡君が広場の中心にある塔の上に立った。
「明日の祭りは決行します。準備を再開しましょう。」
呼びかけに難しい顔をして首を振る人々に、ミカさんとしょーこさんの大人組が声をかけていく。
「右端から屋台の損傷度合いを確認します。修繕か撤去か判断するので、手伝ってください!損害については、国が災害として補償します。」
「花と糸の数が足りません。どなたか心当たりのある方はいませんか?!」
やることが具体的になってくると、遠巻きにみていた人たちも徐々に動き始める。
(なんとかなるの…?。)
明日の祭り開催へ向けて、みんなの目に光が戻っていく。
ふとバスケ部顧問の、諦めたらそこでおしまいだぞ!って口癖を思い出す。
今なら少しだけわかるかも。
「しょーこさんって、ガチで根性あるよね!」
「は?上司?ありがとうございます?」
ほめたのに、しょーこさんはビミョーな顔。
そのまま手伝ってと手招きされ、広場の中央へついていく。
塔の周りは特に被害が大きくて、さっきまで綺麗に飾り付けられていた黄色の花はすべて地面にたたきつけられている。無残に散った花びらが一面に広がり、大量のごみと化している。
(あー、ここの後片付けか)
手伝うのは全然いいんだけど、お花捨てるのはちょっとしんどい。
そんなテンションぶち下がりの中、しょーこさんは大きな声をあげた。
「宝探し、はじめるよー!」
「え?」
お片付けじゃなくて?
しょーこさんの言葉に、あちこちで泣いていた子どもたちが集まってくる。
「宝探し?!やる!!」
「なに探すの?」
「我が国の至宝、私はここにいますよ。」
なぜか王子も寄ってきて、子どもに邪魔だと蹴られている。
「このイヤリングの片方が、お花の中に隠れちゃったから探してくれるかな?」
「わぁ!お星さまのカケラみたい!」
しょーこさんがダイヤのイヤリングを見せると、子どもたちは真剣な顔で頷く。
いつの間にか花の中に隠したらしい。
「それと、この籠にたくさん花びらを集めた子にはご褒美があるよ~!」
「なに?!」
「王様のおやつ!」
「わぁ!!なにそれ!」
「とーっても美味しいんだよ!それじゃあ、スタート!」
子どもたちは楽しそうに籠を持って、花びらに駆け寄っていく。
「ねぇ花びら手で拾わせるより、ホウキとかでまとめて片づけたほうが効率的じゃない?」
「ダメ、ゴミが混ざる。こんな香りのいい花びら、再利用しないともったいないでしょ!」
でた、昭和のMOTTAINAI!
地面に落ちた花びらなんて、使い道あるのかなぁ。
「イヤリング、いいんですか?もう見つからないかもしれないですよ。」
「ま、そのときはそのときで。」
ミカさんが心配しているが、しょーこさんは軽く受け流している。
その軽さが気になったのか、ミカさんは何か言いたげだったけど。しょーこさんって、そういう人だよな。
「眼鏡君、悪いんだけどちょっとここみててくれる?あっちは廃材あるから子どもたちが近づかないように。」
「承知しました。王子を見守るついでですので。」
「私もここで待ってる。」
忙しそうに屋台のほうへ向かっていく大人2人を見送る。
黄色い絨毯のような花びらの上では、子どもたちがイヤリングが隠れてないか、花びらをシャワーのように散らしてみたり、両手ですくってみたり、真剣ににらめっこしながら集めている。
さっきまでごみの山だったのに、宝探しになるとちょっとワクワクしてくる。
あー、なんかちょっとこれ、エモいな?
スマホで写真をとっていると、眼鏡君に話しかけられる。
「あなたの乳母は、素晴らしい方ですね」
「ウバ?しょーこさんのこと?」
「ミハイル様と対等にお話しされる女性を初めて見ました」
「あの二人、同世代だからじゃない。つーか、ミカさんって何者なの?」
「王弟殿下でいらっしゃいます。王位継承権は放棄されていますが、魔道具の技術革新の第一人者で有名な方ですよ。魔素が薄くなっていくこの世界で今でも魔道具と共存できているのは、ミハイル様の功績です。」
「御曹司でベンチャー社長みたいな?」
「普段表に出ることもないですし人を寄せ付けない方なので、あのように穏やかな雰囲気は初めてです」
「ふーん。王子はいつもあんな感じ?」
「残念ながら」
フリー素材ですよ~と花びらの上でポーズをとっている邪魔な王子を切り取り加工したり、子どもたちと遊んだりしばらくすると、しょーこさんが戻ってきた。
「おしゃピク、とれたー?」
「この状況、さすがにピクニックではなくない?」
「アッ……おしゃピクって、おしゃれなピクチャーではない…?」
もしかして昭和の人は『ピクニック』、しらないのかな?
「えっと、野外で飲食したりすることをピクニックって言うんだよ!」
「知ってる、ピクニックは知ってるのよ。でもありがとう。」
うなだれているしょーこさんに、今ストーリーに上げた花びらの空写真を見せる。
「ねぇ、これめっちゃエモくない?」
「手ぶれしてるじゃん!」
「いやこれそういうやつだから。」
「わきを締めるとぶれないのよ、こう、わきをギュッとね。」
「そういう加工!あえて雑に撮るのが可愛いの!!」
「手ブレがおしゃれな時代…?」
ちょうど子どもたちのかごが花びらでいっぱいになり、ひとりの女の子がイヤリングを見つけたと大声をあげたところで、大きな黒塗りの車がゆっくりと広場へ進入してきた。
中から颯爽と出てきたのは、執事のアンさんだ。
「お飲み物と軽食をお持ちしました。」
車に大量に積まれた差し入れをみて、子どもたちが歓声をあげる。
「王様のおやつだ!」
「食べる食べるー!!!」
アンさんはきびきびと騒ぎ立てる子どもたちから花カゴを回収し、一列に並ばせ、王子にジュースと焼き菓子を配らせている。
「はい、顔面国宝のスマイル無料だよ」
「ありがとう、でくの坊のお兄ちゃん!」
「お前もちゃんと働けよな!」
「ふふ、僕は観葉植物と同じスタンスで生きてるからこれでいいんだよ」
「ちゃんと仕事してください」
眼鏡君につっこまれ、子どもたちからも雑な扱いをされているが、王子は全く気にせず微笑んでいる。
この人、そもそも王子って認識されているんだろうか…。
少し心配していると、ミカさんが私たちにもドリンクとお菓子を持ってきてくれた。
「なにこれ?あ、レモネードだ!最高!流行ってるよね。」
「はちみつレモン……懐かしい……。」
冷えたレモンの酸味とやさしい甘さが、体に染み込んでいく。
「どうしたの、これ?」
「熱中症対策に飲み物とお菓子をお願いしちゃった。さすがアンさん、完璧な仕事ぶり。」
「しょうこさんが気をまわしてくれて助かりました。」
ミカさんがしょーこさんだけに微笑む。おじさん、分かりやすいよなー。
「王様のおやつって、これ?」
「そう、陛下の好物なんだ。あの人甘党なんだよ。」
手のひらにのせた花の形の焼き菓子をみて、ミカさんが苦笑いする。
「だから王様のおやつか。」
「中にレモンクリームが入ってて、美味しいのよね。」
「しょーこさん、もう食べたの?」
「え?ううん。あれ、なんで私、味まで知ってるんだろう。もみじ饅頭と間違えたな。」
照れ笑いするしょーこさんを、ミカさんが優しい目で見つめている。
(やっぱりこの二人って……。)
少し疲れた私たちは、そのまま空になった車にのって屋敷へ戻ることにした。
アンさんが運転する黒塗り車のなかは、テーブルにグラスまで置いてあり、広々している。
「やばーい!パーティーできそう!」
「なにその高貴な遊び」
ソファで跳ねていると、しょーこさんが少し眠そうに笑う。
「卒パでリムジン女子会とか、よく見るし。」
「天パでイソジン女子会……?」
「どんな女子会よ。てかしょーこさん、女子会とかするの?」
「まぁそれっぽいのは時々やるよ。」
「どんな話するの??」
大人の恋バナ、めっちゃ気になる!
「ふるさと納税とか、最近盛り上がったかな。」
「納税おつかれですー」
あくびをかみ殺しながら答えるしょーこさんを、ミカさんはニコニコ見ている。
「明日はお祭り、できそう?」
「うん、花は街の人たちから少しづつ提供してもらえることになった。」
「広場の装飾はカバーできると思いますよ。」
「ご家庭で大切に育てていた花、ありがたいですね。」
「異世界からの聖女のお願いだと言ったら、皆快く協力してくれますよ。」
「は?聖女?」
怪訝な顔をするしょーこさんに、ミカさんはしまった、という風に口を押えている。
それに気付かない眼鏡君が補足する。
「前回の異世界のお客様は、その功績から聖女と呼ばれています。」
「ミカさんの初恋の子だよね?なにしたの?」
「それは叔父上に聞くのが早いかと。」
「てか、前回の方は聖女扱いかもしれないけど、私たちはただの居候よ。聖女の名前なんか出して言っていいの?」
「まぁみんな異世界の方には好意的ということですよ。」
そちらはご心配なく、とミカさんが無理やりまとめる。
「屋台はどうするの?」
「修理できそうなものだけ選別して、あとは騎士団で撤去します。」
「苦肉の策だけど、一部は地面に布を引いて露店にしてもらおうかと。」
「フリマみたいで楽しそう!あ、フリマってフリーマーケットって言ってね、古いものを売っている蚤の市のことだよ。」
「知ってる、フリマは知ってるのよ。でもありがとう。」
若干傷ついた顔でお礼を言われる。謎。
「あとは肝心の祭りですね。」
「そっか、いつもはダンスしてるんだっけ。」
「この糸も使えるといいんだがな」
ミカさんが、バラバラになった糸をポケットから取り出して切なそうに眺める。
「貴重な告白イベだもんねー。この長さじゃ刺繡できないの?」
「使えないこともないが、この短い糸では縁起が悪いといわれそうだな」
「長い糸には末永く縁が続きますようにという意味が込められていましたからね。私も大事な人に渡すにはちょっと抵抗がありますね。」
眼鏡くんのため息で、車内の内の空気が少し重くなる。
「でも今年はなしとか寂しいじゃん!絶対みんな楽しみにしてたよ。」
コロナのせいでバレンタインチョコ交換禁止になって悔しかったのを思い出して、つい口調が強くなってしまう。
前は仕方ないってあきらめてたけど。
こんなときは、しょーこさんの出番だ!
「Hey、しょーこさん。この糸の使い方?」
「もしかして私いま音声検索されてる?会社の新人もそんな感じで聞いてくるんだけど。」
しょーこさんは遠い目をしているが、心当たりがありそうだ。
「いけ!昭和チート!」
「ピーピーヒョロロローピーブブピーガーーーーーー」
「こっわ。なにその鳴き声。」
「90年代インターネットのダイヤルアップ接続音」
やっぱ昭和、むりかもしんない。




