12.昭和のマカロン
「ザラメがあるならアレができる!」
「アレ?」
「ほらアレよ。お祭りの定番、カルメラ焼き!」
自信満々で告げるが、ヒナちゃんの反応がない。おかしいな、もう一度。
「カルメラ焼き~!」
「いや、そんなドラ●もんの秘密道具みたいに言われても。なんですかそれ?」
「えっやだ、あなたこっちの世界の人でしょ。」
「知らないー。ホットクみたいな?」
「いや、放っておかない。めっちゃかき混ぜるよ。」
「あ、また会話バグってるな。」
ヒナちゃんがため息をつくと、不安そうな子どもたちが寄ってくる。
「卵なしでもつくれるの?」
「それ甘い?お祭りにだせる?」
「えーと、そうね、あまーくてサクッと柔らかいお菓子だよ!」
「わぁ!」
泣いていた子どもたちの目が輝く。
「台所、お借りしてもいいですか?」
「えぇ、もちろんです。」
院長は、中へ通してくれる。
もったいないと落ちた卵を顔に塗りたくっている王子は残していく。
人の好いおばあちゃんという感じの院長先生は、ニコニコと台所でお茶を入れてくれた。
「私、院長のカイノと申します。ミハイル様、こちらのお嬢様方は?」
「あっ失礼しました。わたくし山本昭子と申します。」
「ヒナです!」
「こたびの魔素調整のために、異世界からお越しいただいた方々ですよ。」
「あらまぁ、異世界の方でしたか。遠くからありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそ貴重な機会をいただきまして……。」
間違ってもいい迷惑だなんて言ってはいけない。
謙遜は大人のマナーである。
「そう、もうあれから25年も経つのね。懐かしいですねぇ、ミハイル様。」
「……そうですね。」
「前回の召喚は女子高生だっけ?そうか、ミカさんは知ってるんだ!」
「う、うん。」
ヒナちゃんが興味津々で聞くが、ミカさんはどこか歯切れが悪い。
「あなたみたいに可愛らしいお嬢さんで、25年前も同じようにミハイル様が街を案内していましたよ。二人の様子がまた微笑ましくて。」
「へぇ。」
ミカさんにそんな時代が。
にやにやしながらミカさんを見ると、いたずらが見つかった少年のように、肩をすくめて笑う。
(あれ、この顔、どっかで……?)
頭の中をなにかがかすめる。
やっぱりミカさんに以前会ったことある?いやいや、異世界は初めてだし、気のせいだろう。
「あら、そういえばこちらの方って……。」
「そうだ!院長、お願いしたいことが!」
院長が私をみて何か言いかけたが、ミカさんが大声で遮る。
「こちらへ伺ったのは、空蛍よけのお香づくりにご協力いただきたくて。」
「そうでしたの。もちろんお手伝いできることでしたら。」
「では私は子どもたちに作り方を教えてきますね。」
「えぇ、手が空いている子はみな講堂にいるはずですわ。」
ミカさんは、そそくさと台所から出ていく。
「お祭りまで時間もないことですし、私たちもカラメル焼きつくりましょうか!」
「ここにはお菓子づくりの道具もないのだけれど、大丈夫かしら。」
「はい、お玉とコンロさえあれば。」
先ほど喧嘩していた子どもたちが、台所の窓からこっそり覗いているので手招きする。
「お菓子作り、手伝ってくれる?」
「うん、でも俺たちお菓子なんてつくったことないよ。」
「大丈夫、簡単な実験みたいなもんだから!」
「実験?!」
「なんかワクワクする!」
元気になった子どもたちとみんなで手を洗い、お玉を持つ。
「お玉に、ザラメをひとつかみと重曹を少し、それにお水をかぶるくらい入れたら、材料は以上です。」
「待って、全然おいしくなさそうなんだけど。砂糖水だよねこれ。」
「これがお菓子になるの……?」
ひなちゃんと子どもたちがざわついているが、無視する。
「さぁ、お玉を火にかけます!」
お玉の中をかき混ぜていると、1分もしないうちに沸騰しはじめる。
「めっちゃぶくぶくしてきた!」
「まだまだ、もっともっとだよ。」
さらに混ぜ続けると、ふつふつと泡が細かくなり、台所に砂糖の焦げたカラメルの香りが広がっていく。
「うわぁ、しあわせな匂いがする~!」
「ふふ、では火からおろします!」
ふきんの上に泡立っているおたまをのせるが、子どもたちはそれをみてがっかりする。
「これでおしまい?これのどこがお菓子なの……?」
「ここからが本番!」
お玉の中をさらにぐるぐるかきまぜ、白いクリーム状になったところで手をとめる。
「よしっ、目を離しちゃだめだよ!」
白いクリームは瞬く間に、もくもくと膨らんでいく。
「うわっ、すげー!」
お玉の上には白い、ふわふわのカルメラ焼きが出来上がっていた。
「ばぁって、お花が開くみたいだった!」
「あついけど、出来立てをどうぞ。」
「サクッとしてて美味しい!」
「あまくて、やさしい味がする!」
カルメラ焼きを割って手渡すと、みんな笑顔で食べている。
好評のようでよかった。
「ヒナちゃん。これが私の時代の映えスイーツよ!チックタックに載せてもいいわよ!」
「ティックトックな。まぁでもお祭りでやったら映えるかも!」
「このザラメが焦げるカラメルの香りで集客もバッチリよ!」
「ねぇ俺、やってみたい!」
「わたしもぐるぐるするー!」
「うん、やけどに気を付けてね。」
子どもたちが上手にできるようになったのを見届け、院長先生にバトンタッチする。
「ありがとうございます。祭りにぴったりのお菓子ですわ!毎年子どもたちは祭りを楽しみにしていて。助かりました。」
「こちらこそ、お役に立てることがあってよかったです。」
ちょうどミカさんが迎えに来たので、挨拶をしてその場を離れる。
「カルメラ焼きか。俺も食べてみたかったな。」
「えーとね、甘くてサクッとしてて、昭和のマカロンみたいな味だった!」
「……昭和のマカロン……?」
なぜか肌がつやつやになった王子を回収し、孤児院をあとにする。
「もう帰るの?」
「せっかくだから、広場のほうにいってみるか。祭りの準備も進んでるんじゃないかな。」




