11.蚊に刺された跡が治らない
「ではまず、ドライフラワーをすりこぎで粉末状にします。」
「ここは私が。」
意外にも、王子が笑顔で率先してやってくれる。
「スマイルありがたいんですけど、手元みてくださいね。」
「ええ、あなたは僕の横顔をみていてくださいね。」
「あれ、言葉が通じないな。異世界翻訳トラブル?」
「俺も時々通じないんですよね。ジェネレーションギャップかな。」
「いや、それジェネギャじゃないから。」
ミカさんの言葉に、ヒナちゃんが首を振る。
眼鏡君が作業風景を記録していると、王子がチラチラと目くばせする。
「ちゃんと画角おさまってる?僕の顔の良さに甘えちゃだめだよ、画角大事だよ。」
「あ、キメ顔大丈夫です。手元だけとってますんで。」
「ちゃんと引いて~~~!顔!いれて!」
「ハイ次。パウダー状になった花に、同量のでんぷん粉をいれて混ぜまーす。」
ボウルの中で2つの粉を混ぜ合わせ、水を少しずつ足してこねていく。
「こんな感じで、粘土の状態にします。水を入れすぎないように気を付けてください。」
「私もやる!工作みたいで、たのしー!」
ひなちゃんも腕まくりをして、こねこねに参加する。いい子やな。
「このくらいの硬さかな?」
「うん。少し硬さがのこるくらいで、型に詰めます。」
みんなで生地を三角コーンの型に詰めていると、眼鏡君に質問される。
「これ以外の形でもいいんですか?」
「はい、形は自由です。ただ、火をつけるので自立できる形がいいですね」
「私、渦巻きつくるー!」
ヒナちゃんが細長い棒をつくり、くるくる巻いていく。そのとぐろを巻いた様子はアレにしか見えない。
「ひなちゃん、それ……うん…」
「え、なに?」
無邪気なまなざしに、ミカさんとそっと目をそらす。
もしかしたら今の子、アレの表現、規制されてて知らないのか?
「いや、なんでも。あとは乾かしたら出来上がりです。」
魔道具で乾燥させている間、テラスに用意されたお茶とお菓子でミカさんと一息つく。
「最近、すぐお茶飲みたくなっちゃって。」
「わかります。温かいお茶がおいしいですよね。」
のんびり庭園を眺めながら世間話していると、あっという間に乾燥が終わったと呼ばれる。
「それでは、これに火をつけます。」
「直接火をつけるんですか?他に木くずや、着火材はなくても燃えるんですか?」
「えぇ」
小さなお香のとんがったてっぺんに火をつけると、じんわりと細い煙が空へ向かって伸びる。
テラスにスノードロップの香りが満ちていく。
「ちゃんと香りがする!いい香り〜!」
「なるほど。これなら花が少量でも広範囲に効果がありますね!」
「この香を王都中に設置して一斉に焚いたら、空蛍は一気に空に戻るだろう。」
ミカさんたちの顔が明るくなる。
「早速、王宮の使用人に製作をお願いしましょう。」
「孤児院や教会も巻き込みたいな。」
ミカさんがつぶやくと、王子と眼鏡君も頷く。
「はい、これなら子どもでも出来ますね。良いお小遣い稼ぎになるでしょう。」
「民のことを考えるのは、高貴な顔を持つ者の責務ですからね。」
「孤児院へ材料を届けに行くか。よかったらお二人も、一緒に街へ出てみますか?」
「いくいくー!」
ツッコミ不在のまま、ヒナちゃんが諸手をあげて誘いにのり、支度をして街に出る。
空蛍がふわふわと降る中、人々は祭りの準備で忙しそうにしている。
「すごい活気ですね。」
「そうでしょう。祭りは毎年やっていますが今回は25年ぶりに精霊の祠が開くので、みんな張り切ってますよ。」
そう語るミカさんも目じりを下げて、どこか嬉しそうだ。
レンガ造りの民家の軒先には色とりどりの花が飾られ、屋台もブーケで飾られている。
花の香りがあふれる街中を、華やかな気分で歩いていくと、孤児院らしき建物が見えてきた。
「わあああぁああん!!!!」
「なにすんだよっ!」
建物から、子どもたちの騒ぐ声が聞こえる。
門からのぞくと、子どもたちが卵まみれになっていた。あらら。
「どうしたの?僕の顔をご覧よ。」
王子が顔を出すと、驚いたのか子供たちが泣き止む。もはやショック療法。
「どうしたんだ、何の騒ぎだ?」
「ミハイル様!こいつが、祭り用の卵をめちゃくちゃにしたんだ!」
「お前が押してきたんだろ!」
「えーん、お祭りできなくなっちゃったよぉ。」
子どもたちの喧嘩が再び始まりかけたので、慌ててミカさんが子どもを抱き上げると、ちょうど院長らしき女性が中から出てきた。
地面に散乱している卵の箱と、泣き顔の子どもたちをみて、やれやれとため息をつく。
「ぜんぶ割れちゃったの?困ったわねぇ。お祭りの出店は、貴重な収益源だったんだけど。」
「何を作る予定だったんですか?」
「甘い卵焼きを作ろうと思っていたの。」
「卵を使わないお菓子はどうですか?卵不使用のケーキとかありますよ!」
ひなちゃんがスマホで検索したレシピを見せてくれる。
「そうねぇ、重曹はあるけど小麦粉は今からじゃ用意できないし、砂糖もお菓子づくりには向かない大粒のザラメなのよ。」
「うーん。卵も小麦粉もないのは厳しいかも。」
「ザラメをそのまま売る訳に行かないし、今年のお祭りは諦めるしかないわね。」
院長先生の残念そうな言葉に、子どもたちはうなだれる。
ザラメでできる、お祭りに出せるものねぇ。
そもそも夏祭りなんて最後に行ったのいつだっけ?遠い記憶を必死に辿る。
夏の夜に漂うソースの匂い、綿あめのあまーい香り、少し焦げたカラメルの匂い……。
「あっこれだ!」
驚く子どもたちの前で、にやりと笑った。




