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10.夏がくれば思い出す


「もしかしたら花を避けているのでは?」

「除虫効果があるのかもしれないですね。」


私の仮説にミカさんがうなずくと、眼鏡の青年の目が光る。


「王子、試してみたいですね。」

「叔父上、スノードロップをいくつかいただいてもいいですか?」

「あぁ、温室のを使ってくれ。倉庫にも乾燥させたものがあるから、両方持っていくといい。」


許可をとると早速、眼鏡の青年が指示をだし、後ろに控えていたイケメンたちが散らばっていく。


「さすが、フッ軽!」

「フッ軽?」


聞きなれない言葉だ。


「わかった、ふつーの足軽の略語ね、フッ軽。」

「は?足軽?いや、どんな大河なシチュエーションよ。」

「最近の子って、ふつーにすごいとか言うじゃない。あれ、褒めてるのけなしてるの?」


そんな話をしているとすぐにイケメンたちが駆け足で戻ってきた。

フッ軽〜!(どんどん取り入れるスタイル)


「生花も、ドライフラワーも、どちらもパラランは寄り付かなかったそうです!」

「やはりこの花の成分に忌避反応を示しているようだな。まさかこの花にそんな効果があるとは。」


ミカさんたちは驚いている。


「花を街中に配ったら解決かな!?」


ヒナちゃんの明るい表情に、ミカさんは渋い顔で答える。


「それが、最近安定栽培に成功したばかりで、数が足りない。倉庫のドライフラワーを配るにしても全戸に行き渡るかどうか。」

「異世界の方が、魔素の流れを正常にしてくださるのを待つしかないでしょうか。」

「ねぇ、眼鏡君の圧がすごい。」

「あ、はい、今からちょちょっといきましょうか?」


席を立ちかけるとミカさんに止められる。


「いや、祭りが始まってからでないと祠が開かないんだ。」

「でも今のままじゃお祭りも出来ないんじゃ……。」

「スノードロップがある場所を避けると分かっただけでも朗報だ。祭りで使う広場や医療機関だけでも花を置くか。」


(花の成分を街中に行き渡らせる方法か……なにかあったような……)


頭の中で引っかかったものを、必死に思い出す。


「あっ、除虫菊だ!蚊取り線香!!」


思わず大声を出してしまい、部屋の注目を集める。


「あれなら煙で、室内も屋外もいきわたらせることができる!」

「蚊取り線香って、おじいちゃん家にあった緑色の渦巻きのやつ?」

「うん、我が家でも現役だけど……。」

「あれって作れるの?」

「簡単なものならできると思う。あれも元は除虫菊だから。」


ヒナちゃんとの会話に、眼鏡君が興味津々で入ってくる。


「それはなんですか?」

「私たちの世界では、防虫効果のある花のお香(こう)で、害虫を寄せ付けない方法があるんです」

「なるほど、花を燃やした煙で虫をいぶすのか」

「それなら花をおくよりも範囲は広がりますね」

「電気も使わないので、火さえあれば停電しても使えます」


ミカさんたちの顔が明るくなる。


「実際に物を見ていただいた方がいいですね。えっと」

「何かご用意するものはありますか?」


ずっと部屋の隅で控えていてくれたアンさんが、スッと寄ってきてくれる。


「ありがとうございます。花を粉状にするための乳鉢とすりこぎ、それとつなぎになるようなデンプン系の粉を多めに用意していただけますか。あ、あと固める用の型があると嬉しいです」

「型のサイズや形状の指定はありますか?」

「小指より小さいサイズがいいです。できれば三角錐とか自立で安定する形があると」

「承知しました」


アンさんは軽やかに一礼し、部屋から出ていく。


「じゃあ私はこの間に、花を取りに行ってくるよ。」

「乾燥しているもののほうがいいんですが。」

「そっちはたくさんある。」


ミカさんについて裏庭の大きな倉庫へ向かう。

扉を開けた瞬間、濃厚な香りが全身を包む。


「うわぁ!」


倉庫いっぱいに乾燥させた花が束になり、私の身長よりも高く整然と積んであった。


「必要なだけ使ってほしい、香りは十分残っているはずだ。」

「こんなに使っていいんですか?」

「もちろん。俺にとっては思い出の香りなんだが、使い道がなくてね。やっと役立つときがきたな。」


(すごく丁寧に処理されてる…大切に育てていたのね)


「大事に使わせていただきます!」

「しょうこさんに使ってもらえるなら幸せだよ。」


頭を下げると、ミカさんはにっこりと微笑む。目じりに弱い。


(ミカさんって、こう、ドキッとするようなこと言うよね)


そうゆう文化なんだろうけど、年甲斐もなく過剰反応している自分が情けない。

赤くなる頬をごまかし、とりあえず抱えきれる量の束を持って部屋に戻ると、すでにテーブルの上には白いクロスがひかれ、機材が並んでいた。


そして、水色のフリルエプロンを着けた美少女が。


「あっんらぁ、かわいいわぁ!」


いかん、親戚のおばさんが出てきてしまった。


「えへへ、ありがとう!アンさんがエプロン貸してくれたよ!」

「私もお借りします。」


借り物の服を汚したくなかったので、ありがたくアンさんが差し出してくれたエプロンをつける。


「それでは材料もそろいましたので、害虫駆除の定番・蚊取り線香をつくってみましょう!」



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