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2-3

再び夜のレヴェリーシティに出た僕とミトラは、都心から離れた最南端辺りへ来た。


僕はシティの端には来たことがなかったが、端までびっしり住宅や小さなお店がある。


時間も遅くなって綺麗な星空が見えるこの時間では、辺りはもう静まり返って人の気配も減っていた。



隅に行くと1階建ての住宅の3倍ほどの高さはあるであろう鉄の壁があった。


鉄の壁は人々のいる場所を囲んでいるようだった。


その向こう側から伸びているのか、上には若干水色の透き通った壁があり、上と横に大きく弧を描くようにのびているようだ。



その壁の向こうへ行けると思われる上下に開きそうな八角形の大きな門は閉まっている。



「ミトラ、シティを覆うこの壁は何?」



僕は鉄の壁に近づく。


とても分厚くて頑丈そうな、強靭な壁で、門の上部には”Sud”と書かれている。



「壊世雨で降ってきた生物、壊世生物を妨害して時間稼ぎをする壁ね

壊世雨は結晶だけじゃなくて壊世生物が降ってくるから、バリアが割れたときに壊世生物がこちらに来るのを妨害するのよ」



「妨害?守るための壁じゃないの?」



「壊世エネルギーは物を一方的に汚染して溶かすの、いつかは破壊されるわ

創世エネルギーは壊世エネルギーを溶かして打ち消せるという意味では革命的な物だったと言えるわ、だから一番外側にアーツのバリアが作られてるの」



「バリアは溶けないってこと?」



「正確には溶けているわ、創世エネルギーは壊世エネルギーと混ざると消し合うの」



「それじゃあいつかはレヴェリーシティに壊世雨で降ってきた壊世生物が侵入してくるんじゃあ……」



「そう、実質バリアがはがされたらレヴェリーシティも終わりってこと

現状、アーツを使えるのは創世エネルギーが体内に残ってる総督しかいないわ

だから研究員たちが他に生き延びる手段はないのか研究してるのよ……」



バリアも壁も、中にいる人々が生きのびるための方法を探す、時間を稼ぐ物に過ぎない。



いつかはなくなる消耗品で、それまでに新しい方法を探さなければレヴェリーは終わりを迎える。



僕が創られた事も、その1つの可能性だったことがうかがえる。


僕の実験が成功していれば万事解決していたかもしれないが、そうはいかずに約10年の時を費やした。



時間があまりないのでは……?そう思った。



「今は他の方法はないの……?」



「無いに等しいわね

唯一開発に成功してるイディオの開発した兵器は、使用者が壊世エネルギーに汚染されるから有効手段とは言えないわ」



ミトラは唸りながら「発想はいいけど、使えないわね」と言ってため息をつく。



「―――そろそろ時間になるわ、壁の上にのぼって空を観察しましょ」



ミトラに手招きされて付いて行こうと足を踏み出した。



その瞬間、トン!と右肩を叩いて掴まれて元の位置に引き戻され、僕は驚いて振り返った。



「少年?ここは危険だから家に帰りなさい、家はどこだい?」



知らない男性に呼び止められた。


黒い毛の耳が生えた種族の男性、胴、手足ともにゴテゴテの機械パーツのようなものを付けており、左手には槍のような武器を握っている。



先端には紫色の刃が光っていて、白い柄にも紫色のエネルギーが通っている。



「んえっ!えっと……」



「もしかして迷子かい?困ったなあ……」



男性は槍を軸に少しだけかがんで僕の顔を見て、反対の手で自分の頭を搔きながら、うーんと唸る。



「どうしたの、リアン」



ミトラが僕を呼びに来た。


すると知らない男性は、ミトラを見てキッと険しい表情を浮かべて立ち上がり、背筋をピシッと伸ばす。



「こんなところで何をしてる!

市民は許可なく門に近寄ることを禁じられているはずだ!」



男性は槍の柄の一番後ろで地面をカン!と付く。


僕は驚いてびくっと身体が震えた。



ミトラは動じずに男性に説明を始めた。



「研究よ、この子は私の補佐

空を見たいからエレベーターを使うわね」



ミトラはラボコートの左の襟につけられているクレイ研究所のバッヂを指差す。


私は研究員だからいいでしょう、ということだろうか?



「(研究員って人の命かかってるから身分強そうだなぁ……)」



僕はその様子にドキドキしていた、男性が怒って追い返すのではないかと思った。


しかし男性は目をこするとミトラのコートの襟に付いているバッヂを二度見して、ミトラの顔を見てハッとしているようだった。



「ミトラ様でしたか……!

申し訳ない、暗がりでよく見えませんでした!」



「いいのよ、お仕事お疲れ様」



ミトラは男性に笑顔で答えると、僕に手招きをする。


僕はミトラの方へ駆け寄った。



男性はバッヂを見ただけでミトラの名前を呼んだ。


そういえばシチューの具材をかった店の店員もミトラの名前を知っていた。


それにふたりともかしこまったり、親しかったりしている。



ミトラという人物は有名人なのではないかと僕は思い始めた。



「ここに乗って、揺れるから手すりを握って」



ミトラに案内されて僕はエレベーターに乗った。



四角い、真ん中に操作する機械が取り付けられた台と、落下防止の為か台を中心に四角を描くように手すりがある。


端にはパイプで3重で囲いがあるが、背が高い大人だと落ちてしまいそうだ。


足元を見ると、端の方には黄色と黒の斜線がひいてあり、真ん中には足跡がたくさんあった。


広さの割にそんなに乗れるようなエレベーターではない。



僕はミトラに指をさされて真ん中にある手すりを掴んだ。



ミトラが台についてる機械を操作すると、エレベーターは囲いについている入ってきた側の門を閉じてレールに沿ってゆっくりと上昇した。



「高い~っ!」



「ふふ、クレイ研究所は2階建てだものね、それよりも高いのは初めてかしら」



エレベーターが上昇していくにつれて家の屋根よりも高くなり、こんなにも高いところに上ったのは初めてだ!と心がうきうきしてくる。



門の上のほうに着くとゆっくりと止まり、反対側の門がカシャと音を立てて開いた。



僕はエレベーターから進んで門の上部スペースに立つ。


前後幅が5人分ぐらいのスペースで、後ろを振り返るとレヴェリーシティが一望できた。



レヴェリーシティは円を描いたように構成されていた。


そしてシティは高い壁に守られ、更にその外側からバリアがドーム状に貼られている。


遠目に見える栄えた商店街のネオンライトの明かりや、北の方に見える司令塔の高さはこの場所が安全に守られてきたことを意味しているように見えた。



僕は街とは反対側へ移動し、壁の外側にある落下防止柵に捕まって景色を見た。



そこには月明りに照らされた壊れた世界があった。



「赤紫色に光る大地……これは自然、じゃないよね……」



門の外の世界は荒れていた。


きっと草原だと思われる平地。



ドロドロの赤紫色の液体が地面の上で煙をあげて、月明りに照らされて赤紫色の光を輝かせている。


地面に突き刺さった結晶がひび割れを作って、ひび割れに流れているエネルギーは、植物が根を張るように枝分かれして暗くても明るく見える。


汚染された周辺の大地は、植物がはげて黒い地面がむき出しになっていた。



周辺には建物もあったようだが、建物はぼろぼろに崩壊して中が見え、上部に突き刺さった結晶から流れ出る液体によってスカスカになっている。



そんな状態でも、結晶から離れた被害のない場所には草が生い茂っており、夜風に揺られている。



「壊世雨は直接遭うと人を殺すの

それに加えて、環境を汚染して食べ物が出来る領域を減らしていくって観点からすると、じわじわと他の生物も追い込んでいるのよね……」



ミトラはうーんと唸りながら、スケジュール帳を眺めていた。



「少し前までは手軽に魚が食べられたけど、最近は海域も汚染されているところが増えたから魚は高級品ね……」



「魚……?見たことないかも……」



「きれいな海に行けばいっぱい泳いでいるそうよ、水の上を跳ねているらしいわ

壊世雨が降った後の海は、死んだ魚がいっぱい浮いてるそうだけど」



魚という食べ物は見たことがなかった。どんな味がするんだろう。


ミトラによると今も魚が食べられるという感じがするが、魚が捕まえられる海というのは汚染されたところと汚染されてないところがあるらしい。



僕は海という場所を見たことがない。



少なくともレヴェリーシティ内は汚染されていないのでは?と僕は首を傾げた。



「……海?レヴェリーシティに海っていう場所があるの?」



「海はレヴェリーシティよりずっと大きくて広い、水がたくさんある場所よ

レヴェリーシティ内に海はないわ

魚は司令塔から許可をもらった漁師が、門の外へ海に出て取ってくるのよ」



「門の外に行くって、壊世雨に巻き込まれたら危ないんじゃ……」



「リスクはあるわね、でもそうでもしないと今度は食糧難が起きるわ

魚に限らず他の食糧や資材なんかもシティの外から調達しているもの」



「うむむ……」



シティ内にいれば安全かと思ったが、中で出来ることには限界があるらしい。


外に行かなければ食料が調達できない、つまり、外に行く人たちは壊世雨を恐れながらも物資を集めている。



「でも、私の研究がうまくいけば壊世雨に遭遇することは回避できるかもしれないわよ」



「たしかに、発生するところを事前に予測できることで、発生しないところに行けたら安全になりそう……」



僕の隣で落下防止柵から身を乗り出すミトラが「見て」と指をさす。


指された先を見ると、空が日が沈んだばかりの時のように少しだけ明るい。



「なんか空が明るくなっていくような……」



僕は空を見上げる。


空は星が見えにくくなるぐらいに明るくなる。



気のせいではなさそうだ。



―――色の変わった星。星が……動いてる?



「……来たわね」



そう言われて、ミトラを見て首をかしげると、ミトラは動く星を指差した。



「ん?」



「予測が当たったわ、壊世雨よ」



空は夕暮れ時のように赤と青が混ざって紫色になる。



動く星の光は太陽のようにまぶしい。



それは1つではなく複数。分裂して散りながら落ちてくる。


まるで流れ星のようだったが、流れ星の光はだんだん眩しくなり、大きくハッキリと見えるようになる。



小さかったものはあっという間に赤紫色の姿を現し、その頃にはゴォオオオという爆音が響いていた。



「……あわわ」



僕が慌てる中、ミトラは冷静に壊世雨を眺めていた。



赤紫色の光は、結晶の姿を現して草原の遠方へ落下していく。



それから同じ方向に、複数の赤紫色の結晶が光を帯びて雨のように降っており鋭い雨になっていた。


それだけでなく、どろどろとしたへにょへにょな形のものまで落下している。



落下地点ではきっと赤紫色の結晶の雨が降っているに違いない。



落下の衝撃で結晶が煙を上げているのか、煙で落下地点にもやがかかっている。



「まるで血の雨が降ってるみたい」



……命を殺していく雨。



僕はその様子が怖くてドキドキしながら様子を眺めていた。



スーッと落ちていく光が時折分裂する。



そのうちの一つが分裂して落ちる方向を変えてこちらの方へ、だんだん大きくなってきた。



「―――こっちに……落ちてくるーーッ!!!」



こちらへ向かって赤紫色の光が大きくなってくる!



僕のそばにじんわりと影ができる。


僕は慌てて飛び退き、ミトラに腕を掴まれて受け止められた。



―――ヒュンッ……ドォン。



鈍く低い音が響き渡り、少し地震が起きたように揺れた気がした。


顔をあげて上を見ると、歪な形をした結晶はレヴェリーシティを覆うバリアにぶつかって煙をあげていた。



「あ、あの結晶、息をしてるみたいな……」



僕は上を見上げて結晶を眺めた。



結晶はまるで生きて脈を打っているかのように、赤紫色の光は光源を強めたり弱めたりしている。


その中では炭酸ジュースの泡のようなものが、下から上に向かってふわふわと浮き上がっている。



結晶が落下してすぐ、バリアと結晶の間に光の粒子が現れた。



シュウゥウ、シュワワワ……。



氷が熱で溶けるように、小さく小さくなっていく。


光の粒子は何もなかったかのように空気に溶けて跡形もなく消えていく。



結晶は大きかったが、みるみるうちに姿形を失った。



「リアン、大丈夫?擦りむいてない?」



声をかけられてミトラのほうを見た。



ミトラは僕の膝を見ていた。


受け止められたお陰でケガはなかった。



「うん、平気、あんなのが降ってくるなんて……」



落下してきて潰されるかと思った。



……いや、潰されなくともそばに落ちたら汚染されるだろう。



遠目に見ていたら少しだけ綺麗だと思った……という感想もあったが、頭上に落ちてきたときには死ぬかと思って怖かった。



僕が再び空を見上げると、結晶の雨は止んでいた。



―――空がスーッと暗くなっていく。



「終わったみたいね」



僕は一息ついて立ち上がり、結晶がたくさん落下したほうを見る。


空は暗くなっていくが、あちらは煙の中で赤紫色の光を発しており、光が乱反射してとても明るい。



時間にして数十分だったが、この草原はその数分を繰り返して荒れていったのかもしれない。



―――そして最後にはレヴェリー全体がこうなってしまうだろう……。



そうなったら最後、人どころか全ての命が住まない星になるだろう。

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