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2-2

「―――ここよ」



住宅街を少し歩いたところ。


ミトラは白い2階建ての建物で足を止めた。



左には大きめの家、右にはカフェと思われるコーヒーの看板のぶら下がった建物の間に挟まれている。


カフェとの間に、2階へ続く階段がある。



ミトラは1階に住んでいるようだ。



ミトラがドアを手前に開き、家に入る。


シンプルで簡素な雰囲気の部屋が少しだけ見える。



僕はミトラの後ろに付いていく。



「ただいま~」



ミトラの家は電気がついていた。彼女は誰にあいさつをしているのだろうか?



「お、おじゃましまーす」



僕はその誰かに聞こえるように大きな声であいさつをした。


するとミトラの家に足を踏み入れてすぐ右側から「ピコ!」と機械音がする。



縦長のドーム状の胴体に双眼鏡を取り付けたような、そんなロボットが双眼鏡の覗き目のような部分の大きな目をパチクリさせながらこちらを見ていた。



ミトラはこのロボットにあいさつをしていたのかもしれない。



「その子は私の家の家事ロボットよ、私、忙しくて手が回らないからこの子に家事を頼んでるの」



僕がまじまじと見ていると、ミトラが教えてくれた。



「シチューを作ってね、頼んだわよ

バゲットは2等分にしてほしいわ」



ミトラはそう指示をして買い物袋を家事ロボットに渡す。


家事ロボットは買い物袋を受け取り、スーッと左奥のカウンターキッチンに進んでいく。



そこでミトラはすぐに何かを思い出したようにバッと右奥の扉の方を見た。



「……嫌な予感がするわ」



「え、嫌な予感?」



ミトラは奥の部屋へバタバタと慌てて走って行き、勢いよく扉を押して開く。



「あーーっ!!まぁああた荒らされてる!!進入禁止設定にしたじゃない!!」



「あ、荒らされ……!?」



ミトラはキッチンにいる家事ロボットの方へ行き、家事ロボットはくるりと旋回してミトラを見上げる。



そんなにヤバいのか、と思って右奥の部屋にそっと近寄って部屋を覗いてみた。



しかし、荒らされたとは思えないほどきれいに整頓された部屋が見える。



左を見ると、ピカピカの白い床の上に長方形の白いシンプルなテーブルが、壁に張り付くような形で置かれている。


テーブルの上には壁に寄りかからせる形で本がきれいに並べられ、付箋が貼られた地図のような紙がテーブルの真ん中に広げられている。


背面の壁には時間が描かれたボード、部屋の隅には望遠鏡がある。


ボードの下にある背の低い2段の本棚の本さえ文字順に綺麗に整頓されている。


右を見ると簡素なスチールフレームのベッドの上に綺麗に並べられた枕と毛布が用意されており、いつでも寝られるように完璧なベッドメイクができていた。



この整頓はミトラの様子を見る限り、自分でやったのではなさそうだ。


家事ロボットがきれいに掃除したのだろう。



しかしミトラは不満のようで怒っている、料理を作ろうとしている家事ロボットに対して。



「私のスケジュール帳!!触ったわね!!今度はどこにやったのよ!!」



家事ロボットはくるりと向きを変えてキッチンの奥の方に行くと、台の上から分厚く色あせた赤い本のようなものを持ってきた。



スケジュール帳というには本のような大きさだが本よりは小さく、端はかなりボロボロで付箋まみれ。


ミトラはそれをばっと奪うように取ると、片手で支えながらもう片方の手でパラパラとめくる。



「―――はぁあ」



ミトラは大きく長い溜息をつく。


家事ロボットは静かにじっとミトラを見上げている。



「大丈夫?」



「私のために料理とか掃除をしてくれるのはありがたいんだけど、私の研究道具も整頓しちゃうのよ……

私は研究道具をやりやすい位置に置いてるのに……」



「つ、つまり整頓されるのを荒らされたって言ってたってことかな……」



「荒らされたも同然じゃない!最高の作業環境が破壊されるのよ!

もう……どの資料開いてたのかもわからないわ……」



「またやり直しね……」とミトラは頭を抱える。


きっとミトラは家事ロボットに掃除してほしくなかったのだろうが、家事ロボットが間違えて掃除をしてしまったのだろう。


きっとありとあらゆる資料を開いて見ながら何かを作り上げていたに違いない。



ロボットはお玉を持って、キッチンに戻っていく。



「―――リアン、とりあえずキッチンの前にある椅子に座ってくれる?

家事ロボットの料理が出来るのを待ってる間に研究について話すわ」



ミトラの指をさす方を見ると、カウンターキッチンの壁に付ける形で縁が黒、内側は白いひとりで使うには大きめの机があった。


机を挟むようにLの字に曲がった薄くスマートな見た目の黒い椅子があり、座るところには淡いオレンジと白で交互に四角が描かれたクッションが置かれている。



指をさされた奥の席に座ると、ミトラは手前の席に座って話し始めた。



「今日の夜……この後ね、もしかしたらレヴェリーシティの南側、シティの近辺で少しだけ壊世雨が起きるかもしれないわ」



ミトラはうーんと唸る。



壊世雨が起きるかもしれない……と言った?と頭の中で聞きなおす。


予想ができるというのは初めて聞いた。



「壊世雨って天気みたいに予測できるものだったんだ」



それなら壊世雨の降ってくる場所にいなければ安全だと思った。


しかしなぜ人々はそこから動かないのか、事前に避難できないのかと疑問に思い始める。



「違うわ、それが私の研究なの

壊世雨を予測できないかと思って、空の様子を観察してるのよ」



「……な、なるほど」



だから奥の部屋、寝室と思われる場所には望遠鏡が置いてあったのか、とひとりで納得した。


きっとあれで空を観察しているに違いない。



「壊世雨や壊世エネルギーのことについてはユニヴェル研究所の役目だから、私のいるクレイ研究所の管轄外なのよ

だからクレイで壊世雨の予報ができるかどうかの研究は出来なくって

かといってユニヴェルにそんなことができるかもって持って行っても突っぱねられちゃうの

でも、本当に予測ができると私が証明出来たら研究を開始できるかもしれないと思ってね」



クレイ研究所は創世エネルギーやセルセラについて研究していると研究員に教えられたことがある。


つまりユニヴェル研究所は壊世雨や壊世エネルギーのことを研究し、クレイ研究所は創世エネルギーやセルセラのことについて研究しているということだろう。



そうだったんだ、と思いながらも僕は難しくて首を傾ける。



「私はその予測が当たるかどうか確かめるために様子を見に行きたいの」



「ようす……えっ!様子を見に行く!?それは危険じゃあ……」



それは自爆行為では?と思って驚いた。



壊世雨は危険だとあれほど言っていたミトラが見に行くと言っている。



「大丈夫よ、シティは先人たちがアーツで作ってくれたバリアで覆われているから

その端で遠くから空の様子を見るだけよ、ここからじゃ建物が多くてよく見えないわ」



「よかった……

ミトラってば研究熱心だから、壊世雨を直接見に行くかと思った……」



「死にに行くようなことはしないわよ

そんなことしてたら身体がいくつあっても足りないわ」



万が一研究通り推測ができて当たったら、レヴェリーの人たちは壊世雨を予知して回避することができるようになる。


そうなったら事前に準備を整えたり避難をすることが可能になって、今よりも安全に暮らしていくことができるだろう。



なるほど、すごい研究だ……!



―――コトン。



家事ロボットの大きな機械の手が僕の前にシチューの入った器を置いた。


それから半分に切ってあるバゲットの入ったマグカップを置く。



横を見ると、家事ロボットがシチューの入った器とバゲットの入ったマグカップをトレイに乗せてやってきていた。



家事ロボットは僕とミトラの前にそれぞれ置くとキッチンへ帰っていく。



「食べたら行くわよ!」



「いただきます」と言うと、ミトラマグカップからバゲットを取り出して手でちぎり、ググッとシチューを付けてパクリと食べる。



部屋中にシチューのクリーミーな香りが漂っていた。


おなかがすいていたことを思い出し、唾がぐっとこみあげてくる。



「ん~おいしいっ」



ちぎったバゲットにたっぷりのシチューを付け、口にほおばるというミトラの食べ方はあまりにもおいしそうだった。



「……いただきます」



僕はミトラの真似をする。


バゲットをちぎる、少し失敗して大きくなってしまった、仕方ない。


そのままシチューにくぐらせて、ふぅふぅと息を吹きかけて冷まし、大きな口でほおばった。



「―――おいしい!!」



たっぷりまろやかなミルクの風味がじゅわっと口いっぱいに広がり、鼻を突き抜けていく。


スプーンでじゃがいもをすくって食べる。



アツアツ、ホクホク、ルーが染みてておいしい!



「うちの子の料理、気に入ってもらえたみたいでよかった」



「すっごくおいしい!」



「食べ終わったら、おかわりほしいって言うと持ってきてくれるわよ」



キッチンにいた家事ロボットがそのワード反応してに「ピココ!」と音を鳴らし、ミトラの傍にやってくる。


「まだよ」とミトラが言うとキッチンに戻っていった。



「分かった!」



僕はスプーン一杯にシチューをすくい、ほおばった。



器の中のシチューはあっという間になくなり、僕は家事ロボットにおかわりを要求した―――。

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