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1-3

「総督っ、お、お、落ち着いてください……!」



隅で腰を抜かしていたトレートルが一歩、また一歩と恐る恐る近寄ってパルトネルに話しかけていた。


するとパルトネルはトレートルのほうを見て、目が合ったトレートルは「ひぃっ」と声をあげた。



腰が引けるトレートルへ、パルトネルは言う。



「プロジェクトを中止しろ」



「……は、はいッ!?」



「聞こえなかったか?セルセラの後継者を生成するプロジェクトを中止しろと言ったのだ」



「えっ……エェ……??」



動揺するトレートル。


そしてそれを聞いたミトラがパルトネルの方を振り返り、二人の方へのっしのしと近づきながら怒ったような声で言い返す。



「総督、何を言っているの?壊世雨に対抗する策としてセルセラ様の遺伝子を使ってリアンを作り、アーツの復活をしようと言ったのはあなたじゃない」



その間に駆け足でアンドロイドが入ってきて、槍のような武器で道を阻んでミトラは足を止めた。



「パルトネル様のご命令は、絶対である」



アンドロイドは冷たい機械音声でミトラに言う。


ミトラは槍のような武器の柄を掴んで押し返すが、力が足りずに阻まれていた。



「何が命令よ、このプロジェクトを放棄したら救える命も救えないじゃない!

現状人々の命を守っているのだって、セルセラ様が生前に生成した創世エネルギーなのよ!」



ミトラはパルトネルを見上げて壁を突き抜けて2階にも聞こえそうな大きな声で説明を始め、パルトネルは黙って僕のほうを見ていた。



「プロジェクト中止……?」



僕はパルトネルが怖くてふいっと視線を逸らしてうつむく。



「……いやいや、さっき言っただろう?この!ワタシのお陰で壊世エネルギーを利用した兵器が開発されたのだァ!

リアンと言ったか?その子供の出番はなくなったということだ!!ハハッ!」



パルトネルの隣へ、さっきまで投げ捨てられてアンドロイドに介抱されていたイディオが、眼鏡をかけなおしながらパルトネルの隣へ歩み寄る。



ラボコートの襟もとを直しながら、ニチャアと言った効果音が合いそうなねっとりとした気味の悪い笑い方をする。



「あなたが開発した、”壊世エネルギーを再利用する兵器”を使えば身体が汚染されるリスクがあるっていう研究結果が出てるの!

そんな兵器を使うわけないじゃない!」



「そこの子供は使えないのだろう?

たとえリスクを抱えていたとしても、何もしないよりかは壊世エネルギーを使ったワタシ特製の兵器を使ったほうが命を救えるじゃないか!!」



「この……!」



ミトラがイディオを睨みつける、イディオはどうだと言わんばかりの顔をしてフフンと鼻を鳴らす。



セルセラのおとぎ話の通りなら、たしかに僕は多くの命を壊世雨から救えるが、現状僕が何もできないのは間違いない。



「それに、さっきの感じだとそこの子供はレヴェリーに壊世雨の被害がある中、約10年も時間をかけた割にはプロジェクトの目的であるアーツの復活という目的も果たせていないのではないかァ?

その間にも壊世雨は発生していたというのに、これでは命を粗末にしてきただけの悪魔じゃないか?

そしてお前たちは、セルセラの代わりでさえなくゴミと変わらない失敗作を作った、そうは思わないか?」



「プロジェクトの目的はまだ、でも!そんな言い方は……!」



イディオは食い下がるミトラに更にデカい顔をする。


トレートルもイディオに反論しない、まるでイディオが言ってることがそうかも知れないと思い悩むように歯を食いしばっている。



―――僕は役に立っていない、いや、僕は役に立たない。



長年の僕の感覚が確信に変わったような感覚になった。


そして総督という偉い地位の人の指示で取り返しがつかない失敗をしたと思った。



「(僕はアーツの復活のために作られた、でも僕が何もできないせいでプロジェクトは中止になった……?)」



僕を作ったというプロジェクトが中止になったのは、僕のせいだと思って苦しい。




―――それをやったクレイの研究員のみんなが馬鹿にされている方が苦しい。




しかしイディオの言うことが本当なら、約10年もの研究の間、壊世雨が発生していて人が死んでいるかもしれない。



ぐるぐると頭で考えて、イディオの言うことが本当なら多くの人の命を無駄にしたような気がして何とも言えなく胸が苦しくなり、僕はぎゅっと服の胸のあたりを握る。



「……ご、ごめんなさい、僕……役に立たなくて……」



僕は喉から声を絞り出して震える声で言った。


涙がじんわり流れてくる。



イディオの言ってることは間違っていない。


僕という存在は彼らのプロジェクトにおいて何の役にも立たず、時間だけが過ぎたのだ。


その間に壊世雨で人が苦しんで死んでいくのだと、言われてこの状況になって理解したのかもしれない。



僕は壊世雨に遭ったことがない、実感がなかったと言えばそうなのだ。



言葉で伝えられた壊世雨の被害はおとぎ話のように想像でしかなかった。



「(いつかという言葉を信じて時間を無駄にしただけ……僕は何もできない、いや、できなかったんだ)」



僕は落ち込んだ、何の役にも立たなかった自分を恨んだ。


ミトラの曇った顔が僕の視界に映って胸が痛い。



―――実験室は静まり、その沈黙の中でパルトネルがエコーのかかった声を出した。



その声は静寂の中でよく通り、誰にも聞こえるような声だった。



「セルセラの後継者を生成するプロジェクトは中止だ、生成したそこの子供は邪魔なら殺せばいい

クレイの者達は創世エネルギーの研究をやれ」



―――邪魔なら殺せばいい。



僕には確かにそう聞こえた、聞き違いでは……ない。



「……ぇ」



頭が真っ白になった。


涙が止まって僕は茫然と立ち尽くす。



いらなくなったから捨てる如く、殺される……。



―――でもそれは僕が何の力にもなれなかったから……。



パルトネルは親指を立てて手を握って後ろを指し、アンドロイドとイディオに合図をする。


くるりとこちらに背中を向けると、実験室の出入口へずし、ずしと歩いて実験室を出て行った。



「ではワタシ達はこれで

くれぐれもそこの失敗作が生きてパルトネル様に反逆するなど、ないようにお願いしますよォ?」



イディオは僕の視界の端でねっとりとした笑顔を浮かべて、こちらを見た。


それからパルトネルの後ろを駆け足でついていき、その後ろをアンドロイド達がわらわらとついていく。



「ちょっと!ちょっと待って!殺すって何!!

勝手に生んで勝手に殺すなんて、命を粗末にしてるのと変わらないじゃない!」



ミトラが追いかけようとアンドロイドの槍から身を乗り出すと、アンドロイド達が武器を構えてミトラの身体を柄で押し返す。



「パルトネル様のご命令は、絶対である」



変わらない定型文を吐かれて、ミトラは止められていた。


その間にもずらずらとアンドロイドたちは出て行き、最後にミトラを止めたアンドロイドが実験室から出て行く。


僕らはアンドロイドたちがいなくなるのを見送った。

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